第26話
「はいよ焼きそば一丁!!」
「かき氷、二つ入りまーす!!」
収穫祭当日。俺は冒険者ギルド前で、大盛況の屋台を眺めていた。
「冒険者ギルドの焼きそばいかがですかー!! 私の師匠考案の料理でーす!! ふふん、私の師匠ですよー!!」
あ、アルテミウス……なんてことを。
俺はアルテミウスに近づき、後頭部を指で押す。
「あうっ、あれ師匠? どうしたんですか?」
「お前な、俺の名前出すな」
「いいじゃないですか。あ、師匠どうですどうです? かわいい衣装ですー」
アルテミウスは、メイド服っぽいフリフリしたドレスを着ていた。
正直可愛い……が、俺は適当に言う。
「似合ってる似合ってる。かわいいぞ」
「えへへ……って、なんか適当ですね」
「そうか? とにかく、客引き頼むぞ」
「はーい!! はあ、シャナも一緒にやってほしかったんだけどなあ。花火はまだまだ先だし、今はヒマなはずなのにー」
ちなみにシャナは一人で町を散策してる。
すると、焼きそば屋台から声。
「師匠、手伝ってくださーい!! オレだけじゃ厳しいっ!!」
エリオの声。
屋台に行くと、タンクトップにねじり鉢巻き、汗を流しながら料理人たちと一緒に焼きそばを作るエリオがいた。
まだ子供なのにこの貫禄……正直、冒険者より料理人のが似合ってるな。
「師匠、ちょっとトイレ行きたいっす!!」
「しゃぁねえな。俺の焼きそばを見せてやろう!!」
エリオと交換し、俺は豪快な手つきで焼きそばを作る。
エリオが戻って来ても、しばらく一緒に焼きそば作りをした。そして、ユウナがいるかき氷屋台の方にも行くと、氷魔法で氷ブロックを作るユウナがいた。
「あ、師匠。お疲れ様です」
「おう、魔力は大丈夫か?」
「はい。魔力ポーション、飲んでますので」
魔力ポーションっていうのは、魔力を回復させる薬だ。けっこう高いんだが、冒険者ギルドが大量に用意してくれたようだ。
「魔力が残った状態で飲み過ぎると頭痛するから気を付けろよ」
「はい。でも、私の作った氷でかき氷を作って、みんなおいしく食べてくれる……なんだか嬉しいです」
「はは、素直でいい子だ。その調子で……お?」
「やっほー!! かき氷くださいなー」
「わたしも~」
エルレイン、ミアだ。
手には焼きそば大盛。二人とも収穫祭を満喫しているようだ。
俺はエルレインに言う。
「エルレイン。今回はいろいろ世話になったな」
「え、何が?」
「いろいろだよ。あっちの『ひも引き』の景品、ゴブリン退治と、苦労かけた」
「気にしなくていいわよ。その……あたしだって、アルノーには世話になってるしね。その……どうしてもっていうなら、今度ご飯でも奢ってよ」
「はは、それくらいならいつでもいいぞ。あと、ミアも」
「いやいや、私はいいよ別に~、じゃあそういうことで!!」
なぜかミアは行ってしまった。エルレインが「ナイス」と小さく呟いた。なんだろう?
エルレインとしばらく話をし、「じゃあまたね」と再び行ってしまった。
すると、シモンがやってきた。
「おいアルノー、あっちでエールの飲み比べ大会やるみたいだぜ。行くだろ?」
「マジか!! 行く行く!!」
さーて、俺も祭りを満喫するとしますかね!!
◇◇◇◇◇
それから、収穫祭は順調に進んだ。
俺たちの屋台は大盛況。というか、人気すぎて急遽、グレースが近くの空き家を使ってそこで店を臨時でオープンした。
俺も、祭りを満喫した。
エール一気飲み大会に参加したり、冒険者仲間と大騒ぎしたり、アルテミウスたちと一緒に町を巡ったり、エルレインと二人でメシを食ったり……年に一度の収穫祭は、今年もすごく盛り上がった。
そして最終日。
今日はエリオ、シャナ、シモンと一緒に冒険者ギルドの中庭へ。
そこには、大筒があり、シモンが作った『打ち上げ花火』を最終チェックしていた。
「よし、これでいい。アルノー、点火は任せるぞ」
「おう。ギルドの職員がやってくれる。俺は特等席で見せてもらうぜ」
「……私たちも準備できたわ」
「へへ、弓士として腕がなるぜ」
シャナ、エリオは専用の弓を使い、上空に『花火矢』を打ち上げる。
鏃部分が球体になっており、放つと同時に少量の火薬が上空で破裂し、近距離での花火となる。
夜になり、収穫祭の最終日ということで、町は一番盛り上がっている。
日が完全に沈んだころ。俺は中庭に来たグレースに言う。
「最初の着火はお前に任せるぜ」
「……ふ。重大任務だな」
「エリオ、シャナ、最初の一発が上がったら、お前たちの出番だ」
「ええ」
「よっしゃ!!」
「じゃあ……グレース、頼む」
グレースは頷き、指をパチンと鳴らして親指に火を付ける。そして、導火線に着火。
油がしみ込んだ導火線が燃え、筒に向かって火が伸び……ドカンと筒から発射された。
上空に撃ちあがった花火は一気に破裂。カラフルな光砂がキラキラと輝く。
冒険者ギルドの屋上にいるユウナが、風魔法で光砂の流れを調整。俺が知っている花火が上空に咲いた。
「「…………」」
シャナ、エリオは自分たちが矢を放つことも忘れ、上空に見入っている。
グレースも、花火に釘付け。打ち上げ専門の職員たちも同じだった。
たぶん、町も同じだろう。いきなり上空が輝き出せば、驚きしかない。
「たーまやー!! さあ、エリオにシャナ、頼むぜ!!」
「「っ!!」」
二人は思い出したように顔を見合わせて頷き、矢を放つ。
小規模の花火が次々と破裂、単色の花火から二色、三食、そして俺も知らなかったが……複雑な形状をした花火が撃ちあがった。シモンのやつ、ただ破裂させるだけじゃなくて、こんな仕込みもしていたのか。
あとは、任せても大丈夫だろう。
俺は冒険者ギルドの屋上へ。そこには、アルテミウス、エルレイン、ユウナがいる。
しばらくすると、弓矢を他の職員に任せて屋上に来たエリオ、シャナも合流。
みんなで花火を眺めていると、アルテミウスが言う。
「師匠。私……師匠に出会って、鍛えてもらって、冒険者になって……本当によかったです」
「……そうか」
「オレも!! なあユウナ」
「うん。すっごくたのしくて、いい思い出……シャナさんは?」
「まあ、そうね……悪くないわ」
子供たちは、キャッキャしながら上空を見上げている。
俺は一歩下がる。すると、エルレインが隣に来た。
「ね、アルノー……なんだか昔を思い出すわ」
「昔って、お前が新人のころか?」
「うん。昔は、五人で冒険してたけど……あの四人を見てたら、昔を思い出した。みんな元気にしてるかな」
「キュレネとは王都でいつでも会えるだろ。他の三人だって」
「みんなS級だし、忙しいからね。アルノーだって会ってないでしょ?」
「まあな。でも……会えなくてもいいんだよ。俺のことなんか忘れて、自分の人生を歩んでくれたら、俺はそれでいい」
「寂しいこと言うわね……あたしは、忘れないけど」
エルレインが、少しだけ近づいてきた。
なんとなくむずがゆくなり、俺はエルレインの背中をバシッと叩き、前に押し出す。
「さ、冒険者の先輩。あいつらのところ行けよ。子供同士、仲良くお喋りしてくるといいさ」
「ちょっと、あたしもう子供じゃないから。まったく……意気地なし」
エルレインはプンプンしながらアルテミウスたちの元へ。すぐに馴染み、楽しそうに話し始めた。初めて会った頃とは比べ物にならないくらい、仲良しになれたな。
一人でいると、グレースが隣に来た。
「……一人が似合う男、そう思っているのか?」
「うるせ。教え子の成長を見守る保護者みたいな気持ちだよ」
「……そうか。アルノー……カイザーゴブリンの件だが」
「驚いたよな。仲間割れでもしたのか、未確認の上位種と三匹まとめて死んでたよな」
カイザーゴブリンの死因は『仲間割れ』だ。
ブレインゴブリンの反乱、未確認のゴブリンであるアーマードゴブリン、バリアントゴブリンの二匹をブレインゴブリンがけしかけ、共倒れになっていた。
そこに俺が登場し、死んだカイザーゴブリンの首を手にみんなに報告した、ってわけだ。
「……そういうことにしておこう。お前は認めるつもりがなさそうだしな」
「なんのことやら」
しばらく、グレースと空を見上げていた。
グレースは煙草の煙を吐き出していう。
「また明日から、日常が戻って来るな」
「そうだな。あいつらも王都に戻って、冒険者活動を再開する。功績を積んで、等級上げて……来年には、全員がC級……いや、B級くらいには上がるだろうな」
「お前は、D級のまま、か」
「ああ。それでいいんだよ。俺はもう、ずっとのこのままだ。今の生活で満足してる。たとえ、俺がすごい力を持っていたとしても、何も変わらないさ」
「……ふ」
こうして、収穫祭は終わった。
また、新しい日常……いつもの新しい日常が戻ってくる。
冒険に出て、依頼をこなして、日銭を稼いで、ちょっと貯金して、メシと酒を楽しんで、また明日になる。
俺の、異世界転生した日常は、これからも続いて行く。
俺の名はアルノー、三十五歳、異世界で冒険者やっています。




