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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第一章

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第25話

 とある小さな村の近くにある森に、一体の『ゴブリン』がいた。

 普通のゴブリンではない。魔獣の骨を組み合わせて作った特注の椅子に座り、どこかの王様が羽織るような豪華なローブ、手には豪勢な杖、さらに王冠を被っている。

 そして、ゴブリンの足元にひざまずくのが、四人のゴブリン。

 

『準備は進んでいるか』


 玉座に座るゴブリン。カイザーゴブリンは、焼きそばの材料であるオーク肉を生で齧りながら、騎士風のゴブリン、パラディンゴブリンに質問する。


『ハイ、我ガ主。人間ハ、コチラニ向カッテイルヨウデス』


 どこかカタコトなのは、ヒトの言葉を覚えたてだからだろう。それでも、魔獣であるゴブリンがヒトの言葉を操る時点で、知能が優れていることに違いない。

 カイザーゴブリンは言う。


『では……行動開始』


 カイザーゴブリンが命じると、高位のゴブリン、そして配下である魔獣『ウルフ』と、知能が低い低ランクのゴブリンたちが動き出す。

 数は総勢で四十程度。カイザーゴブリンが従える組織にしてはかなり少ない。

 それもそのはず。このカイザーゴブリンは、まだ組織を作ったばかり。だが、一年もしないうちに、組織は巨大化する。

 今は、準備期間。

 カイザーゴブリンの護衛として残ったブレインゴブリンは、杖を支えにして言う。


『主。人間は狡猾です。恐らく……この作戦も読まれていましょう』

『知っている。わざと人間の荷馬車に痕跡を残し、我々を討伐するように差し向けたのだ。そして、我々の狙いが人間の、冒険者の装備であることも向こうは理解している』


 カイザーゴブリンは、骨付き肉を齧り言う。

 ブレインゴブリンは、杖を持つ手に力を込めて言った。


『主。やはりまだ、力をためる段階……人間に手を出すのは時期尚早かと』

『くどい。それに、忘れたのか? 冒険者の装備を奪う作戦……この作戦の裏にある、もう一つの作戦を』

『それは……』


 カイザーゴブリンは、骨付き肉を完食。骨を放り、ニヤリと笑う。


『真の狙いは』

「集落だろ?」


 突如、男の声がした。

 ギョッとするブレインゴブリン。カイザーゴブリンは眼球だけを近くの木の枝に向けた。

 そこにいたのは、枝の上で器用に胡坐をかき、どこか退屈そうにしている男。

 男は枝から飛び降り着地。首をコキッと鳴らした。


『き、貴様、何者……いや、なぜここが!?』


 ブレインゴブリンが杖を向ける。

 男……アルノーは、手を軽く振って言った。


「裏の裏をかいたつもりだろ? わざと荷馬車に痕跡を残して、冒険者たちに自分らの討伐に向かわせる……そして返り討ちにして装備を奪う。今のオマエはまだ組織を作ったばかりで、物資も装備も何もかも足りない。だからまずは装備から……って、俺たち人間にそう思わせて、迎え撃つつもりだろ」


 アルノーが言うと、ブレインゴブリンは歯を食いしばって言う。


『おのれ、人間め……!! 我が主、ここは』

『よい』


 カイザーゴブリンは、玉座から動かない。

 そして、アルノーに向けて言う。


『いくつか策は用意しておいたが、ここに人間が来た場合の策も当然用意している。人間……交渉しよう』

「ほー、交渉ね」


 アルノーは興味深そうに笑みを浮かべた。


『我は、王国を作る。ヒトと同じ国家を作り、ゴブリンの王国を作る。だが……この広い世界では、ゴブリンだけの王国など存続させることは難しい。だから……ヒトの力を借りたい』

「続けて」

『知恵だ。ヒトの知恵……流通、物資、国家形成。それらをヒトに任せたい。ヒトは金があれば何でもするのだろう?』


 ブレインゴブリンが、大きな包みをアルノーに投げた。

 中には大量の金貨。


「おー、こりゃすごいな」

『だろう? 報酬は払おう。地位もくれてやる。ここを見つけ出し、我の元に一人で来る度胸があり、知能も高い……貴様を我の配下にしてやろう』

「断ったら?」

『死ぬ。我はカイザー……ククク、ただ玉座に座るだけのゴブリンではない。その力を持って、貴様を殺そう』

「選択肢ねぇなあ。ま、断るよ」


 アルノーは首を振った。

 カイザーゴブリンの目が細くなる。


「いちおう言っておく。お前の部下は、うちの冒険者たちがみんな討伐に息巻いてるぞ。収穫祭も近いし、さっさと終わらせる気満々だ。それに、お前こそ勘違いしてる」

『何?』


 次の瞬間、アルノーの人差し指から小石が発射され、ブレインゴブリンの頭部を撃ち抜いた。何もできず即死……そのまま倒れた。

 

「今のは『魔法師』の初期スキル、地属性の『ストーンバレット』だ。ま、小石を撃ちだすシンプルなスキルだけど、極めると鉄の鎧とか貫通する、ライフル弾並の威力になる」

『ほう、魔法師か。面白い……』


 カイザーゴブリンが指を鳴らすと、地面から巨大なゴブリン……『バリアントゴブリン』が現れた。さらに、頑丈な外殻を持つ『アーマードゴブリン』も地中から現れた。

 報告にはない上位種。アルノーが驚いているとカイザーゴブリンが言う。


『敵をだますにはまず味方から。人間の言葉だ』

「確かにな。お前、この二体の上位種のこと、仲間にも言ってないのか?」

『ああ。知能がない力だけのゴブリンでな、屈服させ、ひたすら地下を掘り我に付いて来るよう命じた。いざという場合の戦力としてな』

『ガアアアアア!!』


 すると、二の腕が異常に肥大化したバリアントゴブリンがアルノーに襲いかかってきた。

 アルノーは人差し指から『ストーンバレット』を発射するが、割り込んだアーマードゴブリンの外殻に弾かれる。


「うおっ!?」

『ウゴアアアアアアアアア!!』


 バリアントゴブリンの拳が、アルノーの背後にあった大岩を粉々に砕いた。


『はっはっはっは!! さあどうする魔法師? こいつらの強靭な肉体は魔法を当てた程度で破壊できるものじゃない。それに、人間の魔法には詠唱が必要、さらに魔力も消費するのだろう? 大技を何度も使えるのか? 見せてみろ!!』

「よく喋るやつだな……」


 アルノーは苦笑し、立ち上がり……背中にあった『包み』を解いた。


 ◇◇◇◇◇

 一方そのころ。

 ◇◇◇◇◇


「おりゃあああああ!!」


 アルテミウスは、踊るように、舞うように森を駆け抜け、ウルフの喉元を切裂いた。

 同時に、アルテミウスの背後から襲おうとしていたゴブリンの頭に、木々の隙間を縫うように飛んできた矢が刺さる。

 

「テミス、油断」

「ごめんごめん。シャナ、その調子でよろし……」


 そして、背後から飛び掛かってきたウルフに矢が刺さり、ゴブリンの頭に氷の矢が刺さった。


「テミスの姉ちゃん、前行き過ぎだって!!」

「前衛、やっぱりもう一人欲しいですね」


 エリオ、ユウナも負けていない。

 他の冒険者たちも、カイザーゴブリンの手下と戦っていた。

 

「師匠の予想、ピッタリでしたね」

「そうね。カイザーゴブリンの拠点……上位種のゴブリンが勢ぞろい」


 シャナが言うと、後ろからグレースが来た。

 隻腕に、腕全体を覆うガントレットを装備し、その手には……なんと、ギガントゴブリンの顔面を鷲掴みにしていた。


「油断するな。数はだいぶ減ったが、上位種はまだ残っている」

『ご、ゴゴゴ』

「あ、あの……それ」

「ん、ああ。知能が高いと聞いていたから生け捕りにしたが、こいつはそうじゃないようだ」


 ベキャッと、グレースはギガントゴブリンの顔面を鷲掴みにしたまま砕いた。

 その強さ、握力にゾッとするアルテミウスたち。グレースは全く気にせず、咥えていた煙草をギガントゴブリンの死骸にペッ吐き出す。

 

「とりあえず、ここは制圧できるな」

「あ!! エルレインさんが……」


 ユウナが気付いた。

 エルレインは、パラディンゴブリン、マジシャンゴブリンを同時に相手していた。

 剣を使うパラディンゴブリン、魔法を使うマジシャンゴブリンを相手に一人で立ちまわっている。アルテミウスたちが援護に向かおうとしたが、グレースが止めた。


「問題ない。せっかくの機会だ……S級冒険者の強さを感じておけ」


 エルレインは、パラディンゴブリンと剣戟を繰り広げながら、時折飛んで来る魔法を紙一重で躱していた。

 

『強イナ、貴様……』

「あれ、喋れるんだ」


 パラディンゴブリンの剣を弾き距離を取る。

 エルレインは剣を構え、ニヤリと笑う。


「あんたもなかなか。たぶん『剣士』のA級冒険者クラスかな……」

『ホウ、ソレハ強イノカ?』

「そこそこ。でもね……上には上がいるのよ。私は『剣聖』だから、あんたより上。せっかくだし見せてあげる」


 ピキピキと、エルレインの周囲が凍り付く。

 ユウナの顔色が悪くなる。


「う、うあ……こ、これって」

「ユ、ユウナ? どうしたんだ?」


 エリオが心配すると、アルテミウスが首を傾げる。


「あれ? アルテミウスさんって『剣聖』ですよね……この氷って、魔法?」


 その質問に、新しい煙草を咥えたグレースが言う。


「あれは、固有スキルだ」

「固有スキル……?」

「その名の通り、そのジョブを持つ者だけが使える専用スキル。同じスキルは二つとない。いつかお前たちも自ら編み出すことができるだろう」

「え、オレもできんの?」

「ああ。だが、固有スキルを習得するのは容易ではない。ジョブを極めた先にある、冒険者にとっての奥義のようなものだ。当然、私もある」


 アルテミウスたちは「おおー」と感動していた。

 グレースは煙草に火を付け、煙を吐き出す。


「エルレインの固有スキル、『絶対零度』は、氷属性の魔法、その特級スキルを使用することができる」

「とと、特級!? まま、マジですか? あれ……氷属性の魔法って、じゃあ別にユウナちゃんに氷魔法を覚えさせなくても」

「話を聞いていたか? エルレインは、特級しか使えない。初級、中級、上級とすっ飛ばして、特級スキルだけ使える。しかも、普通の魔法ではない……『剣聖』専用にアレンジした、剣技と組み合わせた『氷』の剣技。エルレインが『凍刃』という二つ名を持つのも、そのスキルによるものだ」


 エルレインの髪色が、氷の魔力によって青くなる。

 シルバーブルーの輝き。その輝きにアルテミウスたちは見惚れ、パラディンゴブリン、マジシャンゴブリンが恐れおののく。

 マジシャンゴブリンが火球を放つが、エルレインに接近しただけで消滅した。


「無駄。今の私、炎属性を無効化するから」

『……ッ』


 パラディンゴブリンが剣を向ける。だが、すでに勝敗は決していた。

 S級冒険者『凍刃』エルレイン。その強さを見たアルテミウスたちは、その姿に憧れ、冒険者の高みを知るのだった。


 ◇◇◇◇◇


 さて、俺は持って来た包みを開き、それを手にアーマードゴブリンに向き合った。


『……?』


 カイザーゴブリンにはわからないだろうな。

 だって、俺が手にしているのは。


「固有スキル……『修羅煉獄刃』」


 抜刀、斬撃、納刀……この間、約一秒。

 俺の手にした『刀』は、アーマードゴブリンの装甲を容易く斬り裂き、バラバラにした。

 カイザーゴブリンが目を見開いている。そして、俺は右手をバリアントゴブリンに向ける。


「闇魔法、固有スキル……『夜の扉』」


 バリアントゴブリンの背後に『扉』が現れ、開き、異空間へと誘った。

 扉が閉まり、消滅。俺は手を軽く振る。

 カイザーゴブリンが立ち上がった。


『今のは、何だ……』

「解説して欲しいのか?」


 刀を担ぎ、俺は言う。

 カイザーゴブリンはようやく、無警戒で俺と向き合うことが『死』に繋がると理解したのか、骨の玉座に立てかけてあった大斧を手にする。

 向かい合ってわかった。こいつ、確かに強いな……S級冒険者と比較しても遜色しない強さだ。

 

『人間のジョブは一つ、貴様……今のスキルは、何なんだ!?』

「固有スキルだよ。正確に言うと、俺の固有スキルじゃないけどな」

『何ぃ……!?』


 エルレインの『剣聖』と対になる、『刀聖』のジョブ。俺の切札の一つ。

 十年前、東方に行ったときに仲良くなった東方最強の刀士である爺さんから得たジョブだ。不思議なことなんだが……俺が手にしたジョブの固有スキルは、コピー元である人間のと同じになる。

 修羅煉獄刃は、コピー元の爺さんと同じ。ちなみにこの刀も、爺さんの遺品……というか、貰いモンだ。

 そして『魔法師』のジョブ。これは村の引退冒険者であるばあさんからコピーした。闇魔法が得意で固有スキルを持ってたのは意外だったけどな。

 俺は周囲を確認し、誰の気配もないことを再確認して言う。


「俺のジョブは『自由人』……この世界に存在する全てのジョブを覚えて、切り替えて戦える。最初の俺は『剣士』で、『刀聖』で、今は『魔法師』だ」

『……異端者め!!』


 異端者か。

 まあ、転生者である俺はこの世界じゃ遺物なんだろうな。

 でも……それでも、俺にだって守りたいものや、戦うべき理由はある。

 俺は腰を低くし、刀の柄に手を添えて言う。


「お前の最大の不幸は、収穫祭の時期にこの辺で騒ぎを起こしたことだ。お前のせいで収穫祭が中止になったら、エール飲み放題っていう最高なイベントが潰れちまう」

『何を言っている貴様!! ええい、こうなれば我が』


 俺はカイザーゴブリンが何かを言う前に、すでにカイザーゴブリンの背後にいた。

 カチン……と、静かに納刀。


『……あ』

「一度、言ってみたかったんだよなあ」


 カイザーゴブリンが、斧を落とし、自分の頭を押さえていた。

 首から血がボタボタと流れている。

すでに首を切断したのだ。あまりに鋭利な斬撃すぎて、カイザーゴブリンは首が切断されたことに気付かず、死んでいない。

 俺は静かに言った。


「お前はもう、死んでいる」


 カイザーゴブリンの首が落ち、首の断面から血が噴き出し……そのまま倒れた。

 確実に死んだことを確認し、さらに周囲に敵が潜んでいないか


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