第24話
祭り開催二日前。
町はすっかり収穫祭ムード。綺麗に飾り付けられた道をのんびり歩き、冒険者ギルドへ。
「グレースのやつ、こんな朝っぱらから何の用事だよ……ふぁぁ」
そう、まだ早朝。
時間にして朝の四時くらい。大至急ギルドに来てくれとわざわざギルド職員がうちに来た。
かなり寝起きでぼんやりしていたが……この町に住み始めて二十年以上、ギルドの職員がわざわざうちまで来るなんて初めてのことだった。
ちょっと嫌な予感がしつつも、俺はまだ誰もいない冒険者ギルドに入り、グレースの執務室へ。
ドアをノックすると、「入れ」と重々しい声がした。
欠伸をかみ殺しつつドアを開けると、中にいたのは。
「……来たか、アルノー」
「おお。ん……なんだなんだ、高位冒険者ががん首揃えて」
部屋にいたのは、エルレイン。そしてこの町に住む高位冒険者……といっても、B級冒険者が数人と、A級が二人だ。あとはベテランのC級、D級が合わせて十名くらい。
けっこう部屋が手狭だが、誰も気にしていない。というか、俺が最後らしい。
ちなみに全員顔見知り。俺が最後なのに文句を言う奴は誰もいなかった。
「アルノー、落ち着いて聞け。冒険者ギルドの荷馬車が襲われた」
「……は?」
襲われた? 荷馬車って……まさか。
「そうだ、収穫祭で使う食材を載せた荷馬車だ。正確に言うと、第三陣……一陣、二陣の荷馬車は昨日到着したが、三陣の馬車が到着していない。そこで、調べに向かわせたところ……破壊された馬車が見つかった」
「……犯人は?」
「ヒトではない。魔獣だ」
魔獣。
まあ、食材を乗せた馬車なんて格好の餌食だろうな。
「足跡から、狼魔獣であることがわかった。それと……それらを統率する魔獣がいる」
「統率……なるほどな。つまり、組織だった動きをしているってことか。この辺りで知能のある高位魔獣は」
「ブレインゴブリンね」
エルレインが言う。
グレースは煙草に火を付け、煙を吐き出す。
「恐らくな。ブレインがいるということは、ギガント、パラディン、マジシャン、そしてカイザーもいるだろう」
グレースが言うと、周りの冒険者たちが舌打ちするのが聞こえた。
カイザーゴブリン。数多く存在するゴブリンの中でも、最上級の存在。
優れた頭脳を持ち、ゴブリンを従え、育て、組織を作る。
かつて、討伐レートSSに認定されたカイザーゴブリンが存在したっけな。軍隊のようなゴブリン組織を作り、一つの町を支配したとかなんとか。
グレースは言う。
「幸いなことに、まだ若いカイザーゴブリンであることに違いない。もし成熟したカイザーゴブリンなら、荷馬車一台だけ襲うなんてあり得ん。仮に一台を襲い、人間側の出方を見ているとしても……」
「収穫祭のことも気付いてるだろうな。んで、祭りではしゃぐ人間たちの隙をついて、近くの農村とか占領するとかも普通にやりそうだ」
「アルノー、わかっているなら……対策はどうする?」
「今しかねぇだろ。てかグレース、お前もわかってんだろ」
俺が言うと、グレースはニヤリと頷く。
こいつのことだ。すでに斥候とか送り込んで状況を把握してるはず。
「カイザーゴブリンを討ち取る。斥候の報告次第だが……まだ、今ここにいる冒険者だけで対応できるはずだ。何よりエルレイン、S級のお前がいる」
「……収穫祭は、私が楽しみにしてるイベントなのよ。邪魔するならブチ殺すわ」
エルレインは静かにキレていた。
こいつ、激情型っぽいけどキレると冷静になるんだよな。
すると、窓枠に大きなフクロウが止まり、窓をコンコン叩く。
グレースは窓を開け、フクロウの足に括り付けてあった紙をほどき、内容を読む。
「……やはり、狙いは収穫祭期間中、手薄になった農村のようだな。ここから最も近いポレポの村への進軍計画があるようだ。そこを拠点に、周辺の農村を全て占拠し、いずれはこの町に来る……」
「よし、行ってくるわ」
「おい待て馬鹿」
俺はエルレインの首根っこを掴む。
「お前ひとりでも厳しいぞ。カイザーゴブリンの配下、四体の高位ゴブリンはかなり強い」
「知ってる。それに、雑魚もわんさといるんでしょ……だったら、雑魚は任せるわ」
エルレインが言うと、グレースは頷く。
「よし。では、エルレインを中心とした冒険者チームで行動する。この場にいる冒険者は、私が知る限り、状況判断に優れたベテランだ。それと……」
グレースはドアをジロッと見て、いきなり開けた。
「うひゃっ!?」
「うわわわっ!!」
ドアに張り付いていたアルテミウス、エリオ。その後ろにミア、シャナ、ユウナがいた……こいつら、聞いてやがったな。
俺が何か言う前に、アルテミウスが言う。
「はいはい!! 私たちもお手伝いします!!」
「……あのなあ。てか、なんでここにいるんだよ」
「エルレインさんが『ちょっと冒険者ギルド行く』って、朝ごはんも食べずにダッシュで行っちゃったので、みんなで付いてきました」
そうだった……こいつらみんな、今はエルレインの屋敷にいるんだった。ていうかエルレイン、少しは隠れて来いよ。
エルレインをジト目で見ると、「あ、あはは」とそっぽ向く。
でもまあ……うん、なんとかなるか。
「そうだな。じゃあ、アルテミウスたち……お前らにも手を貸してもらうぞ」
「おい、アルノー」
「グレース。こいつらは戦力になる。高位の魔獣はムリだけど、そいつらが使役してるウルフ系魔獣なら問題ないだろ。ミア、お前もいいのか?」
「うん。あたしも一応冒険者だしね~」
「……やれやれ。アルノーの弟子ということで認めよう」
こうして、アルテミウスたちの参戦が決定した。
◇◇◇◇◇
さて、ここで状況説明。
収穫祭用の食材を積んだ荷馬車が襲われた。襲ったのはカイザーゴブリン……ゴブリン種の中でも厄介な強さを持つ。そいつらが組織を作り、近くの農村を占拠するために潜んでいるらしい。
俺たち冒険者は、そこを襲撃する。
迅速に、収穫祭に影響を及ぼさないように、一日でケリをつける。
エルレインを筆頭に、A級冒険者たちをリーダーとして三チームに分ける。
アルテミウスたちは後方支援をさせる。
カイザーゴブリン、ブレインゴブリン、ギガントゴブリン、パラディンゴブリン、マジシャンゴブリン……覚えにくい名前だが、最上級のゴブリンたちだ。
それぞれ、討伐レートはSだ。かなりめんどくさい。
「潜伏地までは半日ほどかかる。各自、一時間後に正門に集合だ」
グレースが言うと、ベテラン冒険者たちは無言で部屋を出た。
アルテミウスたちも慌てて付いて行く。
そしてグレースは、デカいスーツケースみたいなのをテーブル下から引っ張りだし、蓋を開ける。
そこにあったのは、鉛色に輝くガントレット。
「さて……女の支度をいつまで見てるつもりだ?」
「いやいや、お前も行くのかよ」
「当然だ」
グレースはガントレットを装備。隻腕なので片腕だけ。肩から指先までを覆う鉛色のガントレットはかなりの重量だろう。
「アルノー、先程の作戦だが……」
「…………」
「……いや、なんでもない」
「……お前って嫌なやつ」
「ふ、そうか。ではアルノー、さっさと支度をしに行け」
「へいへい」
俺は、軽く手を振って部屋を出た。
俺は気付いていた。
たぶん、カイザーゴブリンは冒険者が来ることも気付いている。荷馬車を襲い、痕跡を残したのは……冒険者をおびき寄せるため。
なぜか? 恐らく、冒険者たちの装備を奪い、自身の戦力とするため。
「……まあ、収穫祭がブチ壊される可能性もあるしな」
俺は久しぶりに、人差し指で側頭部をトントンする。
すると、目の前に……俺にしか見えない『ステータス画面』が表示された。
「さて、俺も久しぶりにマジでやりますか」




