第23話
全ての準備は順調に進んでいた。
屋台は完成し、焼きそば用の鉄板もいい感じに使える。
食材の方もバッチリだ。料理人たちも焼きそばをしっかり作れるようになったし、ユウナの氷魔法による氷供給も問題ない。かき氷も大量に作れる。
花火もなんとかなりそうだ。
シモンの試作品を人気のない場所で打ち上げたら、綺麗な花火が撃ちあがった。シモンはやや不満そうだったが、俺からすれば『夜空に輝く光砂の花火』であり、もう感動的な光景……やや形状の崩れはあったが、ユウナの風魔法で修正できた。
これで花火もばっちり。高度で破裂させる花火は完成、エリオたちの弓矢による低空で破裂させる花火も完成。
花火の数も総定数集まり、打ち上げ用の筒や火薬も調達できた。
収穫祭の一週間前には、全ての準備が整った。
現在俺は、アルテミウスと二人で町を歩いていた。
「師匠、なんだか活気づいてますね!!」
「ま、そうだろうな。収穫祭はこのあたりで一番大きなイベントだし、町も総力を挙げてのどんちゃん騒ぎになる。店にとっては一年で一番の稼ぎ時……賑やかにならないわけない」
しかも!! 収穫祭中はどの店もエール飲み放題だしな!!
いや~、これが楽しみで楽しみで。俺がやる気になる理由もわかるだろうさ。
ちなみに、俺は冒険者ギルドの出店総責任者だけど、準備は万全にしているから、五日間の開催期間中はずっとヒマなのだ。まあ、店に顔出しくらいはするけどな。
アルテミウスはニコニコしながら言う。
「私も、客引き頑張ります!! 衣装の採寸も終わったし、どんな衣装なのか楽しみです」
「ああ、頼むぞ」
アルテミウスは客引きがメインの仕事。
こいつ、まだ子供だけど見てくれは相当な美少女だしな……きわどい格好はさせられないけど、可愛い系の衣装で呼び込みさせればかなりファンが付くだろうな。
すると、アルテミウスは「そうだ!!」と手をポンと叩いた。
「師匠、せっかくですし決起会やりませんか?」
「決起会?」
「はい!! 冒険者ギルド・収穫祭チームで集まってパーティーしましょう!!」
「……ふむ」
悪くないかも。
俺、エルレイン、アルテミウス、シャナ、エリオにユウナ、シモン、ミア、あとグレースに、当日料理人をしてくれる人たち。
「よーし!! 師匠、お店を予約しましょう!!」
「……いや、それは厳しいな」
「え、え……なんでですか?」
収穫祭が近くなると、飲食店関連は営業時間を短縮したり、人数制限したりするところがある。収穫祭では有り得ないくらいの売上になるし、食材とかを保存する倉庫にも限りがあるし、大人数での予約を断るところも毎年ある。
去年だったか、収穫祭の前日には、町の飲食店の九割が夕方には閉店。理由は『収穫祭の準備があるためお休みします』だ。
住人や観光客はみんな知ってるから、文句言うやつなんて誰もいないけどな。
「そっか~……じゃあ、無理ですねえ」
「無理ではないぞ? 自分たちで作ればいいさ。数は二十人くらいか……それくらいだったら、焼きそばの材料を使っても問題ないだろ。酒は……グレースに聞いてみるか。場所も……そうだな、せっかくだし野外でやるか」
「おおお、なんだか師匠、やる気ですね!!」
というわけで……さっそく『野外決起会』について、グレースに相談してみることにした。
◇◇◇◇◇
収穫祭の開催四日前。
現在俺は、町から離れた位置にある小さな湖の傍で、シモン、エリオと三人で櫓を組んでいた。
丸太を組み合わせ、中央に藁を敷き詰めていると、エリオが言う。
「師匠、これ何なんです?」
「野外パーティーといえばキャンプファイヤーだろ。知らないのか?」
「初めて聞いたっす……燃やすんですか?」
「オレも知らんぞ。てか、焚火でいいだろうが。こんな年寄りを酷使しおって……」
文句タラタラのシモン。
ちなみに女性陣、料理人は食材と酒を持ってくるので、俺らが先に来た。
そして、キャンプの準備を終えて待っていると。
「アルノー!!」
エルレインのデカい声。
見ると、デカいトカゲを引きずってエルレインが来た。そしてグレース、アルテミウスとシャナ、ユウナ、ミア、顔色の悪い料理人たち。
数百キロはありそうなトカゲを引きずってきたエルレインは明るく言う。
「いやー、いい肉もゲットしたし、楽しい決起会になりそうね!!」
「……どうしたんだよこれ」
「襲ってきたの返り討ちにしただけ。さー料理人のみんな、お仕事開始!!」
「「「「「は、はい!!」」」」」
料理人たちはトカゲの解体を始めた。
アルテミウス、シャナ、ミアの三人は挨拶もそこそこに湖の近くへ。
シャナが釣竿を出し、ミアも自前の道具を出す。
「あー!! いいないいな、私もやりたいですー」
「わたしの貸そうか?」
「いいんですか? ミアさん、ありがとうございます!!」
「……静かにして。魚、逃げるでしょ」
向こうは釣りを楽しむようだ。
エルレインは、料理人たちの仕事を見て「ここ、ここが美味しいの。骨付きで!!」と指示を出し、ユウナはエリオと湖の傍で何やらお喋りしている。
そして、グレースが俺の隣に。煙草を咥え、指をパチンと擦ると親指に火が着き、煙草の煙をフーっと吐く。
「冒険者ギルドのマスターが、まさか参加してくれるとはな」
俺が言うと、グレースはフッと微笑む。
「こういうのも悪くない。それに……」
「それに?」
「美味い酒、あと……焼きそば」
「……焼きそば?」
「ああ、ふふ……焼きそば、クセになる味だ」
そう言い、俺は笑った。
グレースも笑い、なんとなく並んで湖を眺めている。
「……アルテミウス、シャナ、エリオ、ユウナ。将来有望だな」
「なんだよ、いきなり」
「かつて、お前が指導した五人……『舞姫』、『凍刃』、『鬼王』、『雷月』、『天鎖』。全員がS級冒険者となった。王都では名の知れた五人だが、お前は変わらずD級冒険者のまま」
「ま、俺の指導というか、才能あったんだろ。俺はそれを伸ばしただけ。知り合いも多いし、そいつにあった指導を任せたこともあったし」
「……その『知り合い』は、存在するのか?」
「…………」
…………まあ、俺が直接『変装』して指導したこともあるが、こいつは察してるなあ。
俺のジョブは『剣士』だ。それは目立たないための偽装であり、この世界で楽しく平凡に暮らすために決めたこと。
グレースは続ける。
「アルノー、同期として、友人として、腐れ縁として聞く。お前は何者だ? お前のジョブ……『剣士』というのは、本当なのか?」
「…………」
「……沈黙は疑いを深めるだけだぞ」
「知ってどうすんだ?」
俺は、アルテミウスの竿がしなり、ミアが「引いてる引いてる!」と興奮している光景を見ながら言う。
グレースは煙草を携帯灰皿(俺が作ってあげた)に入れ、自分の無くなった腕を押さえる。
「……力には責任が伴う。大きな力を手にした者は、その力に合わせた貢献をしなくてはならない、と……私は思っている」
「……そりゃ思想の違いだな。俺は、大きな力を手にしても、それを誰かのため、周りのために使おうなんて考えない。俺はさ……ちっぽけな人間だ。目立つのは嫌だし、力があっても自分のためか、手の届く範囲で救える、導くためにしか使わない。世界なんて、俺にとっては目に見える範囲全てだからな」
「……」
グレースは、前を見ていたが……俺を見た。
「その目に見える範囲に、私はいるか?」
「今は、な。でも……その腕を失ったのは、俺にはどうにもできない」
「…………」
もし、もしも、だ。
俺の『自由人』が、ジョブを切り替え、スキルを自在に使えることが周りに知れていたら。
グレースの同期である俺は、グレースと一緒に王都で名を上げて冒険者になり、いくつものダンジョンを制覇し、世界に名をとどろかせていたかもしれない。
俺がいたら、グレースは大怪我をすることも、腕を失うこともなかったかもしれない。
グレースは、もし俺が力を隠さずにいたら……自分と一緒に、今も冒険者として活躍していたかもしれない。
俺は、グレースが何を言いたいのかを察し、否定した。
グレースは、俺をジッと見ていたが……くしゃっと頭を掻いた。
「馬鹿な質問をした。未練はとっくに断ち切ったはずだが……くそ、まだまだ若いな、私は。すまないアルノー、お前には何の責任もない」
「ああ、知ってる」
アルテミウスが、デカい魚を釣り上げた。何も釣れないシャナが舌打ちしたのが見え、そこにエリオとユウナも混ざり、ミアの竿にも魚がかかったのが見えた。
「俺は、しがない冴えないD級冒険者、アルノーだよ。三十五歳のオッサンで、趣味は便利道具の発明、依頼で稼いで少し貯金して、あとは酒場で美味いメシ、酒、たまーに女で発散する。たまたま指導した新人がS級になって活躍したりしてるけど……どの町にもいるモブキャラさ」
「……言ってて悲しくないのか?」
「うるせ。と……そろそろだ」
焼きそばのいい香り、そして骨付き肉が焼ける音がしてきた。
アルテミウスたちの釣った魚もさばいて網焼きにし、日も暮れたので食事が始まる。
俺は、ジョッキを片手に、キンキンに冷えたエール(ユウナの氷魔法で樽を凍らせて運んで来た)を掲げる。
「えー、収穫祭はまもなくだ。全ての準備を終え、あとは本番を迎えるだけ……みんな、当日もよろしく!! 乾杯っ!!」
かんぱーい!! と、みんながジョッキを掲げた。
俺はエールを一気飲み。冷えたエールが一気に体内を駆け巡る!!
「肉、私の骨付き肉!!」
「焼きそばオレ食う!!」
みんなが食事を開始する。
俺は鉄板の一つを使い、サプライズで用意したものを焼き始めた。
シャナが気付き、近づいて来る。
「……コメ?」
「ああ。おにぎりって言うんだ。これに、グレースがついでに仕入れてくれた醤油を塗って……」
香ばしい香りが広がる。
シャナは「……おお」と感動していた。そこに、アルテミウスとデカい骨付き肉を手にしたエルレイン、エリオも来る。
「師匠、なんですかこれ!!」
「これ、コメ? あと黒いのって……ショーユじゃん!!」
「うおお、いい匂い~!! 師匠、これって!!」
「ふふふ、焼きおにぎりだ。ささ、食え食え!! あ、料理人の皆さんも!! おいグレース、隅っこいないでこっち来い!!」
焼きそば、骨付き肉、焼きおにぎり……栄養バランスとか関係なしに、ただひたすら食う。
そして、キャンプファイヤーにも火をつけると、櫓が一気に燃え上がった。
骨付き肉を食いながらシモンが言う。
「すっげぇ派手だな……」
「だろ? キャンプファイヤーってのは盛り上がるんだよ。なあミア」
「うんうん。なんか踊りたくなっちゃう!!」
「うし、じゃあ踊るか!! こい!!」
「え、え、マジ?」
「シモン、音楽頼むぜ!!」
「……やれやれだぜ」
シモンはウクレレみたいな楽器を取り出して引きはじめ、俺とミアは踊り出す。
意外にもミア、踊りが上手い。手を繋いでクルクル踊っていると、ほかのみんなも参加し始めた。
「ちょっとアルノー!! わたし、わらしもおどるぅぅ!!」
「酒くせ!! おいエルレイン、飲み過ぎだお前!! だっはっは!!」
「師匠、私も!!」
「オレも!!」
この日、決起会は最高に盛り上がった。
あとは当日、本番を迎えるだけ。きっと大成功に違いない。
そう思っていたが……まさか、収穫祭の開催危機が迫っているなと、俺は思いもしなかった。




