第22話
「……どうも、師匠」
「お、おう」
ユウナに会いに行くと、どんよりしていた。
エルレインの家から出て来たユウナは……なんというか、怖かった。
隈を帯びた目、髪はボサボサ、パジャマの上にローブを着ており、持っていた杖はなぜか折れていた。
アルテミウスも一緒なのだが、心配するように言う。
「ユウナ、なんだかうなされたみたいで……寝言で『どら、ドラゴン』とか『牙、くわ、食われ』とかずっと言ってて」
重症すぎる……ちょっと可哀想だ。
するとユウナ。
「師匠、聞いてください……初期スキル、全部覚えました。地水火風、草氷雷、全部です全部……ふふ、ふふふ。ドラゴンに食べられそうになった瞬間、心がぶわーっと」
「お、落ち着け。うん、大丈夫大丈夫。ささ、これ飲んで」
俺は差し入れで買った果実水をユウナに渡す。ついでにアルテミウスにも。
ユウナは一気飲みし、袖で口を豪快に拭った。
「っかぁ、生き返りますわ。へへ」
「きゃ、キャラ変わってる……」
「うう、かわいくてヒヨコみたいだったユウナが、なんだかドラゴンの赤ちゃんみたいになっちゃいました」
例えがよくわからん。
でもまあ……時間置けば直るだろ。
俺は咳払いし、ユウナに言う。
「さてユウナ。お前にはやってもらうことがある。覚えてるか?」
「ええ、ええ。かき氷用の氷作りと、風魔法でその、花火でしたっけ? 光砂を整えるでしたっけ」
「ああ。シャナ、エリオは打ち上げ花火のために弓の練習頑張ってるし、お前も頑張ってもらうぞ」
「ええ……ふへへ、ドラゴンの鼻息浴びるのに比べたら、なんてことないですわ」
キャラ違い過ぎて違和感あるな……カウンセリングとか受けさせた方がいいかもな。どっかの教会とか探して置こう。
「はいはい、師匠。そろそろ私も出番欲しいです!!」
「お前には当日、大事な役目あるぞ」
「それそれ。練習とかしなくていいんですか? というか、何をするんですか?」
「もちろん、呼び込みだ」
「……呼び込み?」
「ああ。お客さんを呼ぶ大事なお仕事だ」
「おお、そりゃ重要ですね!!」
まあ、専用の衣装とか着てもらうけどな!! もちろん常識的な範囲で。
そのへんはまだ秘密……とにかく今は。
「ユウナ、俺の知り合いの『魔法師』に、風魔法のスペシャリストがいる。そいつに指導してもらって、風魔法の中級スキル、『エアコントロール』を習得してもらう。そして、そのスキルで上空に打ち上げた光砂を、理想の形に整える特訓だ」
「わかりました。おまかせください。へっへへ」
というわけで……俺の『知り合い』を呼んで来るとしますかね。
◇◇◇◇◇
場所を変え、郊外にある森の中。
町からけっこう離れた距離にあるので、ここでならいろいろドンパチしてもばれないだろう。
アルテミウス、ユウナに先に行ってもらい、『俺』は用意をして森へ向かった。
静かな森の中を進み、開けた場所へ。
「あ、師匠……あれ」
「……どなたでしょ?」
『……アルノーの知り合いだ』
全身黒ずくめ、マントにフード、仮面をつけた『俺』だ。
肌の露出も一切なし。声も違う。
『アルノーの知り合い、ジョブ『魔法師』を持つ……ワイズマンだ。お前に風魔法の指導すするために来た』
「「…………」」
め、めちゃ見てくる……特にアルテミウス。
「あの~、師匠は?」
『彼は用事があると、指導は任せたと言っていた』
そう、『俺』ことワイズマン……変装した俺、アルノーだ。
俺のジョブ『自由人』のジョブストックに『魔法師』はある。それも、十年以上前にゲットして鍛えてるから、もう上級スキルもほとんど覚えたし、ベテラン魔法師と言っても問題ない。
顔を隠したのは、こいつらには少しバレてるとはいえ、俺がいくつものジョブを所持し、切り替えるということをはっきりと見せたくないからだ。
ワイズマン……っていうのは適当な名前だ。子供のころプレイしたゲームに、そんな名前のキャラクターいた気もする。
「うーん、師匠じゃない。声も違うし……?」
『……指導を始める。ユウナだったか、こっちにこい』
「はい、へへへ、お願いします」
ちなみに、声が違うのは発明品である『声変わりガス』を使ったのだ。
まあ、異世界版ヘリウムガスって感じか。吸うと声変わるんだよ。ジョークグッズとしてシモンの店に持ち込んだら『くだらん』の一言で却下されたけどな。
さて、真面目に指導するか。
『まず、中級スキル「エアコントロール」を習得してもらう。俺の使う魔法をよく見て、現象を理解しろ。スキル習得はそこから始まる』
「はい。あの~……覚えることできなければ?」
『風魔法の初期スキル、「エアスピン」でやるしかない。その場合、完全に花火の形状を整えることはできないだろうがな』
まあ、最悪の場合……俺がやるつもりだ。
持参した紙に、打ち上げ花火が破裂したような、大輪の火花の絵を見せた。
『これが、花火が上空で破裂した場合、光砂が描く光景だ。このような形になるように桐生を操作し、光砂の流れを整える』
「……えと」
『見せてやろう』
俺は真っ黒な小瓶を風魔法で上空に浮かべ、破裂させる。
漆黒の光砂が上空にバラまかれ青い空を染める……そこで、俺は右手を上げる。
『中級スキル、「エアコントロール」』
すると、気流が変化し、光砂が打ち上げ花火のような、綺麗な形となり舞う。
唖然とするアルテミウス、ユウナ。
俺は小規模の竜巻で光砂を集め、右手に持った新しい小瓶に全て納めた。
『こんな感じだ』
「神業ですよ!? でで、できません!!」
『大丈夫。今のはただバラ撒いただけ。実際には、放物線を描くように光砂が舞う。それらを整えるだけでいい』
「ええええ……」
『さあ、やるぞ。まずは気流を操作するイメージで』
「は、はひぃ」
こうして、俺こと『ワイズマン』とユウナによる修行が始まるのだった。
ユウナは、意外にも早く『エアコントロール』を覚えた。俺が上空に光砂を打ち上げ、破裂した花火のような形にし、わざと形を崩してユウナに風で整えてもらったりした。
アルテミウスはヒマなのか、剣を振ったり、ユウナの汗を拭いたりしていた。
『完璧を目指さなくていい。まずは、形を整えることだけを優先しろ』
「は、はひ」
ユウナを指導してわかったが……この子はイメージをする力が高い。
花火のイメージもつかめたのか、気流操作で上空の光砂を操るのも苦じゃなさそうだ。
よしよし、これで特訓を積めば、花火もいけるだろう。
『よし、休憩後。もう一度だ』
「はい、師匠」
『えっ』
「あ、すみません。思わず……えへへ」
び、びっくりした……うん、俺はワイズマン、アルノーの知り合い。そうだよな!!




