第20話
さて、収穫祭に関してやることが決まり、俺は冒険者ギルドのマスター、グレースに報告した。
一応、やることをリスト化して提出したのだが……グレースには「まめなやつだ。こんな書類を持ってくるやつは初めてだ」と言われてしまった。え……こういうのって普通、トップに書類出すもんじゃないのか? 転生して三十五年経つけど、社畜だった頃の記憶は微妙に残っている。
グレースは、書類をテーブルに置き、煙草に火をつけて言う。
「面白そうだ。ふ……料理好きとか知っていたが、他国同士の食材を合わせた料理、そして氷を削った料理を考えるとはな」
「ま、誰でも思いつきそうな料理だよ。この町を拠点にして二十年以上経つけど、その間、いろんな国に行く機会はあったしな」
俺はソファに深く腰掛け、大あくび……昨日、この書類作るのにけっこう夜更かしをしたせいか少し眠い。
グレースの煙草の煙が俺の方に来た……なんだか甘ったるい香りがした。
「お前に任せると言った以上、文句は付けんよ。で……必要なのは、東方、西方の食材か?」
「ああ。話が早い。馴染みの店で仕入れられるか聞いてみるが、お前の方でも用意してくれないか。恐らく、大繫盛間違いなし、行列ができる」
「その自信、空振りにならないといいがな。まあいい、お前のことは信用している。私の伝手で仕入れておこう」
よし、グレースなら五日分、大繁盛しても食材が枯渇しないレベルで仕入れてくれるだろう。こいつはそういうやつだ。
これで食材に関しては問題ない。
「ところで、氷は大丈夫なのか?」
「ああ。手伝いしてくれる『魔法師』ジョブの子がいる。今、エルレインと狩りに出てる」
「ほう……」
今、エルレインとユウナは『ひも引き』の景品であるドラゴンの素材を手に入れるため、町から少し離れた『竜の山脈』に出向いている。このへんじゃ一番の危険地帯で、S級冒険者でも単独では入らないが……まあ、エルレインなら問題ないだろうな。
ユウナも、そこで経験を積んで、氷魔法の初期スキルをいくつか覚えるだろう。
グレースは、煙草を灰皿に押し付けて言う。
「それで、他に用事は?」
「ああ。屋台についてだが……」
俺はグレースと、当日の屋台の大きさや、焼きそばを焼く鉄板、焼きそばを入れる容器などについて相談する。
「ほう、容器は使い捨てか」
「ああ。町中にゴミ箱設置するよう、収穫祭の本部にお前から言ってくれ。容器、フォークは廃棄する魔獣の骨で作ろう。ゴブリンとかコボルトの骨、あるだろ?」
「ああ、あるが……それで容器を?」
「ああ。一度骨粉にして、樹脂で固めるんだ。トレントの樹脂は乾燥させれば硬くなるし、火で燃える。容器作りだけど、ギルドの力を借りていいか?」
「いいだろう。数は……相当数必要だな」
「ああ。あと、焼きそば、かき氷の試作はそのうち作る。お前も興味あるなら、明日うちに来いよ。そこで実演する」
「ほう……楽しみができた」
「ふふふ。俺の絶品焼きそばを味わわせてやる」
「あと、かき氷というのは?」
「ああ。俺の開発した『かき氷マシン』がある」
かき氷マシン……けっこう前に作ってシモンのところに持って行ったんだが、門前払いされた。なのでうちの物置で眠ってる。昨日のうちに洗浄して使ってみたが、問題なかった。
「今ごろ、アルテミウスたちが果物を仕入れに行ってる。それでシロップも作る」
「そのシロップも、冒険者ギルドで作ろう。明日、私の知り合いの料理人を連れて行ってもいいな?」
「ああ、頼む」
グレース、マジ有能だ。
これで料理に関しては問題なくやれそうだ。
俺は立ち上がり、グレースに「じゃ、頼んだ」と言ってギルドを出た。
向かったのは自分の家。そこでは、買い物を終えたアルテミウス、エリオ、シャナがリビングでくつろいでいた。
「師匠のおうち、けっこう広いですねー、それにきれいです。男の一人暮らしってもっと汚いの想像していました!!」
「いきなり失礼なやつだな……帰ったら『おかえりなさい』くらい言えよ」
アルテミウスは「えへへ」と笑い、エリオが言う。
「師匠、言われた通り果物仕入れて来ました。へへ、ちょっと味見もしちゃったぜ」
「食い盛りだしな。さて……」
木箱には、えーと……アプド、パナプの実、オラジの実、ピンティ、メロウの実が入っている。わかりやすく言うなら、リンゴ、パイナップル、オレンジ、桃、メロンだ。
アプドはまんまリンゴの形、パナプ、ピンティはスイカみたいな大きさの実で、オラジの実は緑色だが、カットすると綺麗なオレンジ色をしている。メロウもツルツルしたメロンだ。
味はまんま、地球の果物と変わりない。
「よし、これでシロップを作ろう」
「師匠、ほんとに料理できるんですね……尊敬!!」
「うっせ。ほれ、エプロン付けてキッチン行くぞ」
キッチンにはアルテミウスが、残り二人はリビングで果物の皮むきをする。
アルテミウスは、長い髪をポニーテールにして、エプロンをつけて三角巾をつける……おお、意外に似合ってるな。
「さて、作り方は簡単。カットした果物を鍋に入れて、水、砂糖で煮る」
「……おしまい?」
「ああ。できたら一晩寝かせて完成」
「師匠、切りました!!」
「こっちもできたわ」
エリオ、シャナが果物をカットして持って来たので、鍋に入れて煮る。
砂糖を入れ、煮込み、そのまま俺の作った自作冷蔵庫に入れて完成。
「……なんか料理っぽくないですね」
「シロップだからな。でも、明日は焼きそばをやるぞ」
「でもでも、やるのエリオですよね……」
「まあ、一番料理上手みたいだしな。よし、今日はここまで!! お前ら、メシ食いに行くぞ!!」
「よっしゃー!!」
「あなたの奢りよね? 今日は魚が食べたい」
この日は、アルテミウスたちを連れて大衆食堂で食事した。
◇◇◇◇◇
そして翌日……シロップは完成した。
それぞれを舐めてみると、ちゃんと果実のエキスが染み出た甘い味がする。それに、シロップにもちゃんと色が出ているし問題ない。
そして、俺は『魔法師』のジョブにチェンジ、氷魔法の初期スキル、『アイスブロック』で冷凍庫に氷ブロックを仕込んでおく。
用意しておいた焼きそば食材を出していると、アルテミウスたちが来た。
「おはよーございますー!! 師匠、はいりまーす!!」
アルテミウスが騒がしくリビングに入って来た。
そしてアルテミウスだけじゃない。エリオ、シャナは当然として、グレース、数人の男女も入って来た。
「邪魔するぞ、アルノー」
「おう。さて、これで全員か?」
「ああ。後ろにいるのは、私の知り合いの料理人だ。収穫祭でも調理を担当させる。お前たち、アルノーの料理をよく見ておけ」
「「「「「はい、姐さん!!」」」」」
び、びっくりした……ガチムチの男女が一斉にグレースに向かって頭を下げた。なんだろう、もし『舎弟』ってジョブがあるならこの人たちこそ相応しい気がした。
俺は咳払いして言う。
「あー、全員分のカップないからお茶はなし。あと、キッチンじゃなくて庭で料理するから、さっそく外に出てくれ」
「庭?」
「ああ。焼きそばは鉄板焼きだからな。昨日のうちに、いろいろ用意しておいた」
ま、煉瓦積んで鉄板置いただけ。
鉄板も、普通に焼肉とか焼く大きめの鉄板だ。
外に出て、俺は炭に火をつける。その様子を見て、エリオがポツリと言った。
「……ユウナがいれば、火なんてすぐなんだけどな」
心配しているのだろう。するとアルテミウスが肩をポンと叩く。
「ふふ、ユウナなら大丈夫。むしろ、エルレインさんと一緒だし一番安全かも……というか、ドラゴンと戦ってすごく強くなってたりして!!」
「くっそ、なんか羨ましくなってきた……」
エリオは心配なのか嫉妬なのかよくわからない表情をしていた。
火が着き、鉄板が熱くなる。
俺は、自作の『へラ』を両手に持ち、鉄板に油を敷いて馴染ませる。
そして、食材をテーブルに並べた。
「まず、材料……東方の『麺』だ。そして西方の『ソース』に、ベッシ、オーク肉、魚粉、ヒョロ草だ」
ベッシはキャベツ、ヒョロ草はモヤシみたいなもんだ。異世界にある野菜、地球にある野菜とそう変わりないのが多くて助かるぜ。もちろん、異世界ならではの野菜も多いけど。
鉄板が熱くなり、俺は生麺を鉄板に投入。ヘラで混ぜるように焼きながら魚粉……まあ、粉の鰹節みたいなモンだな、を投入。
「……魚粉」
「ああ。これを入れると、麺同士がくっつきにくいんだ」
魚粉、エルフであるシャナはよく使っていたのか驚いていた。
麺がある程度火が通ったら鉄板の端に移動させ、中央で刻んだベッシ、ヒョロ草、オーク肉をいい感じになるまで炒める。
そして、麺と絡ませ、最後にソースを投入……!!
「わああああああ!!」
「うおおおおおお!!」
「……わお」
「これはすごいな……」
アルテミウス、エリオ、シャナ、グレースは驚いていた。料理人たちも驚いている。
ふっふっふ。わかるわかる。ソースが焦げる香ばしい香り、ほんと最高だよな!!
麺の色が茶色くなり完璧に混ざったところで完成。
「完成!! これが『焼きそば』だ!! おあがりよ!!」
まだ使い捨て容器はないので、うちにある皿に盛って出す。
さっそくみんな食べ始める。
「うっま!! 師匠、うっまいです!!」
「うめええええええええ!! 味濃い!! オーク肉しょっぱくてうめえ!!」
「……癖になるわね、これ」
「……王都でもこういう料理は見たことがない。それに、うまい」
俺も食う……うん、ややしょっぱいけど、ちゃんと焼きそばだ。
欲を言うなら紅しょうが欲しい……探せばあるかもしれないけど、俺はまだ見たことがない。
料理人たちも感動しながら食べていた。
食べ終わり、俺は言う。
「とまあ、こういう料理だ。見ての通り、材料も少ないし、鉄板もデカくすれば量も焼ける。エリオ、できそうか?」
「できます!! 今ので覚えました!!」
当然、料理人の皆さんも一度で覚えたようだ。
グレースはニヤリと笑う。
「お前の言う通り、これは売れるな。よし……食材の手配を急がせよう。それと、量も想定の三倍用意しよう」
「え、さ、三倍?」
「収穫祭後も、必要になるかもしれん。それに、この味なら多すぎて困ることはないだろう」
とりあえず、食材に関してはマジで問題なさそうだ。
さて、焼きそばでいい感じに身体が温まった。
「さて、次はかき氷だ」
俺は、アダマンタイト鉱石で作った『かき氷マシン』をテーブルに置く。
重さ、約五十キロ……素材にこだわりすぎてクソ重くなった。これもシモンが「こんなもん作れねえし売れねえ」と製造を断った理由でもある。
グレースはしげしげとマシンを見る。
「なんだ、これは」
「かき氷マシン。ここに、氷をセットする」
上蓋を開けると、氷を入れるための空間がある。その下にはミスリル製の刃があり、ハンドルを回して氷を削って下部から排出する……という仕組みだ。
アルテミウスに頼んで冷凍庫から氷を用意してもらい、エリオに昨日仕込んだシロップを持ってきてもらう。
「ここに氷を入れて、蓋をして……そしてカップをセット。あとは回す、回す、回す!!」
ハンドルを回すと、シャリシャリとかき氷が下部から排出され、カップに削った氷の山ができた。
全員が「おおー!!」と感動している間に、俺はメロンシロップをかけ、スプーンを添えてグレースに差しだす。
「これがかき氷だ。ささ、どうぞ」
「ふむ……氷に、果実を精製した液体か。この色は……メロウの実か?」
「いいから食えって」
グレースは隻腕なので、カップをテーブルに置いてスプーンで掬い、一口。
「……!!」
二口、三口と食べ、フッと微笑んだ。
「これは素晴らしいな」
「お、オレも食う!!」
「私も!!」
「……私、パナプのシロップ」
エリオが勝手に氷を入れてハンドルを回し始めた。
俺はエリオに任せ、グレースに言う。
「これ単品だと弱いけど、焼きそばがある。あの強烈な香りで客を引き寄せ焼きそばを食うだろ? そしてこのかき氷を見て、『焼きそばがこんなに美味いならこのかき氷も美味いに違いない』と客は買う、って寸法だ」
「……本当に、お前には商才があるな」
「ま、満を持しての自信作だからな」
誇らしげにしていると、聞こえて来た。
「うがあああああ!!」
「あいたあああああああ!! キンキンするううううう!!」
エリオ、アルテミウスがかき氷をかき込んで頭を痛めていた。まあ、そうなるよな。
シャナは黙々と食べている。急いで食うと頭痛くなるんだよな。
「アルノー、あのかき氷マシンだったか、借りていくぞ。素材はアダマンタイトとミスリルか……そんな高級素材を使わなくても、低コストで同じのを作れるだろう」
「やっぱそうだよな……まあ、任せる」
こうして、俺の発案である焼きそば、かき氷は大成功。ふふふ、収穫祭が楽しみだぜ。




