第19話
さて、場所を変えて飯屋へ。
いつも利用する大衆食堂の個室で、俺たちは昼飯を食いつつ収穫祭について話すことにした。ちなみに、ここは割り勘である。
俺は日替わり定食を食べ終え、食後のお茶を飲んで言う……ちなみに、食べ終えるのは俺が一番最後だった。
「さて、今日から俺たちは『収穫祭・冒険者ギルドチーム』として準備をするぞ。収穫祭まであと一か月……みんな、よろしく頼むぞ」
「「「よろしくお願いしまーす!!」」」
「よろしく」
「うん、よろしくね。アルノー」
エルレインは自己紹介を終え、すでにアルテミウスたちと打ち解けていた。まあ、『剣聖』って大層な評判だけど、実際のエルレインは親しみやすいお姉さんキャラだし、俺からすれば普通の友人と変わらないしな。
アルテミウスは挙手。
「はいはいはい!! 師匠、何をやるんですか!!」
「それをこれから言うんだよ……落ち着けお前」
「えへへ」
ちなみに、何をやるかはもう決めている。祭りと言えば……アレしかないだろ!!
「まず、冒険者ギルドでは出店を三つ、イベントを一つやる」
「……三つ? そんなにあるの?」
シャナがややめんどうそうに言う。まあ、気持ちはわかる。
一応、みんなに説明しておく。
「収穫祭では、それぞれの村や商会、各ギルドに敷地が与えられる。その敷地内だったら、いくつ店を出してもいいんだ。前回、キュレネは敷地を全部使って特設ステージを作って、ダンサーたちを引き連れて盛大なダンスをしたっけ」
その話をすると、エルレインの眉がピクリと反応した……そういやこいつ、去年のキュレネのステージを間近で見て、さらにとんでもない盛り上がるをしてるのを見て悔しがっていたな。
「ま、エルレインにドラゴンでも狩ってもらって、そのまま丸焼きにするってのも考えたけど……」
「私はそれでも全然いいけどね」
「インパクトあるけど、ただ肉を焼いただけじゃありきたりだろ。だから……もう少し凝る」
「こる?」
エリオが首を傾げる。ユウナは「もう少し深くする、って意味だよ」と小声で言った。
「まず、飲食店。祭りと言えば?」
俺はシャナに聞く。シャナは少し考える。
「……串焼き」
「あ、私大好き!!」
「オレもオレも。塩がいっぱいかかってるとメチャウマなんだよなあ」
その気持ち、よーく理解できる。でも、そうじゃない。
「ふふふ……味が濃い、ってのは理解できる。だが違う!! 祭りと言えば……焼きそばだろうが!!」
「「「「……???」」」」
「何それ? アルノー、まさかあんたの創作料理?」
焼きそば。そう、焼きそばである。
祭りと言えば焼きそば。俺は絶対の自信をもって言える。
「麺はわかるか?」
「メン……確か、東方の料理よね」
そう、この世界……麺はある。東方にデカい島国があるんだが、そこでは普通に麺……蕎麦とか、そうめんとか、ラーメンみたいな麺料理があるのだ。
でも、ここでは異国料理。あまり食べる機会はないし、どういう料理か知ってる人も少ない。でも俺は知っている。なぜなら、この世界にきて三十五年という積み重ねがあるからだ!!
「東方では、いろんな穀物を育てていてな、それを粉にして練って麺にする。そしてスープと合わせて食べるんだ」
「美味しそうですね……王都でも食べれるかな」
「確か、専門店はあるぞ。調べてみるといい」
「はい!! えへへ、王都での新しい楽しみ、できました」
「オレも食ってみたい……ごくり」
アルテミウス、エリオは食いしん坊キャラに昇格したようだ。
おっと、話が逸れた。
「で、俺が提案するのは焼きそばだ。小麦で作った麺を、西方にある国の調味料、『スース』で味付けする」
「……また変なのが出てきた。なにそれ?」
シャナは微妙な顔をする。まあ、わかんないよな。
「昔、依頼で西方にある小さな国に行ったんだがな、そこは農業が盛んで、野菜や果物、香辛料が栽培されていてな。空気と水が綺麗ないいところでなあ……っと。そこで作られている調味料なんだ」
「へ~、相変わらず変なことに詳しいわね」
エルレインが感心する。
この最初の町を拠点にしていることは変わらないけど、依頼で遠出することはよくあった。若いころなんて、北から南、東から西へと行ったもんだ。
そこで、面白そうな食材とかあれば普通に買ったし、日本にゆかりのありそうな食材とか料理があれば、ジョブを『料理人』にセットして味を覚えたり、『鑑定士』のスキルで食材を調べたりしたもんだ。
「ふふふ、だてに三十五年生きてないぞ。で、俺のオリジナル料理……『焼きそば』は、その麺とソースを組み合わせた料理だ。めちゃくちゃ美味い。絶対、間違いなく、マズかったら何でも言うこと聞いてやるくらいの覚悟がある。それくらい自信がある」
「なんでも言うこと聞くってマジ!?」
び、びっくりした……エルレインが身を乗り出してきた。みんなびっくりしてる。
俺はのけぞって頷く。
「あ、ああ。でも絶対美味い。うん」
「……フン。この私を唸らせること、できるかしら?」
「なんだそのノリは……とにかく、まずは焼きそば。しょっぱ系がひとつ」
屋台の焼きそば、となれば二つ目は……甘い系。
「二つ目は、かき氷だ!!」
「「「「…………???」」」」
「なにそれ?」
みんなわからないようだ。
まあそうだろうな。かき氷、まさかこの世界に存在しないなんて思いもしなかった。
◇◇◇◇◇
かき氷。
説明なんて必要ないくらいシンプル。削った氷にシロップかけるだけ。誰でも思いつきそうなお手軽簡単料理……料理って言っていいのかわからんけど。
それが、この世界にはない。
まず、この世界にも常夏の国、砂漠の国は存在する。
だが、そういうところではまず氷は貴重。国のお偉いさんが涼むために『魔法師』のジョブ持ちを専属で雇い、涼むだけに氷魔法使わせるくらい。一般市民にとって氷は『涼む』ため、冷やすためのもので食べる物じゃない。
逆に、極寒の国では当たり前に存在する。そういうところでは別に貴重でもなんでもない……あるだけ。いや普通に冷やすとかには使ってるだろうけど。
で、氷を暑い国に運んで儲けるとか? 考えたこともあったけど……無理だった。
まず、この世界の暑い国、寒い国……めちゃくちゃ遠い。氷なんて途中で溶けるので運びようがない。
では、この最初の町では?
この地域、春夏秋冬は普通にある。寒い日もあるし、暑い日もある。だが、基本的には温暖で過ごしやすく、わざわざ『氷を削ってシロップかけて食おうぜ』なんて誰も考えもしないのだ。
だからこそ、かき氷をやる。ちなみに、体感温度で気温は二十度前後……寒くもないし暑くもない、ちょうどいい気温がずっと続いている。なので、かき氷は普通に食える。
◇◇◇◇◇
「……ってわけで、かき氷だ」
「は? どういうわけ?」
しまった。脳内解説だから誰にも伝わってねえ!!
俺はシンプルにかき氷を説明。
エルレインが眉をひそめる。
「削った氷に、甘い汁をかけて食うねえ……美味しいのそれ?」
「うまいぞ。俺のいた世界……じゃなくて、地域では暑い日に食ってた」
「師匠、甘い汁ってどんなの? オレ食いたい!!」
エリオ、正直でいいね。
この世界にも、地球で見るような果物はある。見た目こそ違うが味が似ていたり、まんまリンゴみたいな果物だってある。
それらを絞って、砂糖とか加えて煮詰めて冷やせばシロップにはなるだろう。
アルテミウスは、上目で舌をぺろりと見せた。どうやらかき氷を妄想しているらしい。
「ここで、ユウナの出番だ」
「え、え?」
いきなり言われ、ユウナはビクッと震えた。いやいや、そんな驚かなくても。
「ジョブ『魔法師』……ユウナ、お前は『氷魔法』のスキル、覚えたか?」
「い、いえまだ。地水火風の初期スキルだけで」
「なら、スキルを覚えてほしい。地水火風の初期スキルのあとは、氷草雷の初期スキルを覚えるはずだ。エルレイン、ユウナがスキルを覚えるように、手を貸してやってくれ」
「お、それっぽい出番来たわね。いいわよ」
ユウナは「けけ、剣聖様と、一緒に」と緊張……大丈夫大丈夫、エルレインは子供にやさしいお姉さんでもあるから。
「あ、そういえば……お前ら、料理はできる?」
「ううう、痛いところを」
「……微妙」
「はいはい!! 師匠、オレできます!!」
なんと、意外も意外……エリオが料理得意とのこと。話だけじゃわからんし、あとで確認させてもらうか。
「焼きそば、かき氷の出店、もう一つは……」
「「……ごくり」」
おい、アルテミウスとエリオ。お前ら「次はどんな飲食店かな」みたいな顔してるところ申し訳ないが……最後はちと違うぜ。
「最後の屋台は……『ひも引き』だ!!」
「「わーっ!! あ……え??」」
「ひも?」
「……紐?」
「紐って、ひも?」
アルテミウスとエリオはパチパチ拍手したがすぐ困惑、ユウナは首を傾げ、シャナは困惑、エルレインは人差し指をクルクル回す。
「そう、ひも引きだ」
ひも引き。
子供のころ……あ、転生前な。子供のころ……縁日で俺はいろいろな出店を回った。焼きそばを食べ、たこ焼きを食べ、りんご飴を食べ……そして、輪投げをしたり、射的をしたりと楽しんだ。そして、一番思い出に残っているのが『ひも引き』だ。
屋台の前に千本くらいある紐が出ており、百円払って一本引く。そして、紐の先にくっついた景品がコトンと落ちると、それをもらえるのだ。
アタリは当時最新鋭のゲーム機。いや~……欲しかったね。
俺は五回引いた。そして……全てハズレだった。あとになってじいちゃんが「あれは最初から当たらん。あのゲーム機は子供寄せのエサだ」と言い、俺は五百円を無駄にした……ああ、あの思い出は今でも心に残っている。
「師匠、な、泣いてるんですか?」
「あ、すまん」
やべ、浸ってしまった。いつの間にか目尻に涙が……ごしごし。
俺は『ひも引き』について説明。すると、エルレインは言う。
「千本の紐ね。アタリの商品どうする? 私、ドラゴンでも狩ってこようか? ドラゴンの『核』ならアタリに相応しいでしょ」
「……それもいいな」
「……でもそれじゃ、千回引く人もいるでしょ」
シャナの指摘はもっともだ。まあ、対策はある。
「一人一回。同じ人は二回引けない……これしかないだろ」
「……なら大丈夫ね」
まあ、俺は「アタリは最初から紐に結ばないぜ、げへへへへ」みたいな真似はしない。
「というわけで、冒険者ギルドの出店は焼きそば、かき氷、ひも引きだ。冒険者ギルドの職員たちも、これなら対応できるだろ」
それから内容を詰め、アルテミウスたちは収穫祭の五日間のうち、初日は出店を手伝い、五日目のメインイベントにも参加することが決まった。
メインイベント。そう……最後は、出し物をする。
「冒険者ギルドの出し物。それは……『花火』だ!!」
「「「「「…………」」」」」
ああ、わかんねーよな!! もうそんな「何言ってんだ?」みたいな顔するなっつーの!!
◇◇◇◇◇
この世界に花火は存在しない。
大砲とかの武器はあるし、爆発する粉……火薬も存在する。だが、花火は存在しないのだ。
じゃあ、鉄砲も存在するのか? って思ったが……まだ鉄砲を作る技術は存在しない。というか、火薬は高級品なので、一般市民は普通に買えないのだ。
「火薬を使って、花火玉を上空に打ち上げて破裂させる。花火玉の中には、『光砂』とか入れるんだ。上空で破裂すればキラキラ輝いて、すっごく綺麗だぞ」
やったことないけどな。
ちなみに『光砂』とは、その名の通り『光る砂』であり、小瓶とかに入れて持ち歩けば、簡易的な明かりになる。ダンジョン調査とか火が使えないところで使われる粉だ。
この光砂、魔力を浴びせることで色が変わる性質がある。これらを小さな『玉』に入れ、上空で破裂させてカラフルな光として花火みたいにできるんじゃないか……と、前々から考えてはいたのだ。
「……火薬をそんな風に使うなんて、考えもしなかったわね」
エルレインは感心したように言う。アルテミウスもウンウン頷く。
「光砂、私も持ってます。ふつーに道具屋で買えるアイテムですよね。色も、いろんな種類売ってるし、しかも安いし!!」
エルレインはポケットから小瓶を出しテーブルに置く。色は黄色で、ユウナが魔力を注ぐと黄色くぼんやりと光った。
「夜空にカラフルな光が輝くのは綺麗と思わないか? それにエリオとシャナ、お前の矢の先端を改造して、花火玉をくっつけて上空に放つ方法もある。ユウナも、風属性を使って、上空に撃ちあがった光砂の位置を整えて、綺麗な形にすることもできる」
「「「……!!」」」
「あ、あれ? わ、私は?」
「お前は事前準備をとにかく頑張ってもらうぞ。てわけで……大まかではあるが、これが俺の考えた収穫祭、冒険者ギルドのイベントだ。どうだ?」
そう聞くと、みんなウンウン頷いた。
「面白そうです!!」
「オレも最高だと思う!!」
「わ、わたしも」
「……いいんじゃない?」
「私も文句ないわ。むしろ、最高ね」
「よし。じゃあ決まり。内容を詰めていくぞ」
こうして、俺たちの収穫祭が動き出すのだった。




