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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第一章

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16/29

第16話

さて、エルレインに料理を教えてから一か月が経過した。

 相変わらず俺は依頼をこなし、日銭を稼ぎ、飲み屋で飲み、たまに発明をしてはシモン店に持ち込んだりの生活を送っていた。

 いやー……何度でも言うけど、転生者らしくないな俺。もう三十年以上この世界にいるけど、マジでもう現地人よ。

 ある日、俺は家で支度を整え、冒険者ギルドに向かった。


「ちーっす、昨日の依頼報告に来たぜ」

「あ、アルノーさん。お疲れ様です!」


 受付にいたのは、受付嬢のサラダだ。サラダ……野菜好きそうな名前だけど、そんなことはない。十五歳からギルドの受付に入り五年、ニ十歳のぴちぴち受付嬢。結婚相手募集中だ。


「……なんか変なこと考えてませんか?」

「き、気のせいだ。それより、昨日報告できななかった依頼、完了したぜ」


 俺は依頼完了の証書を出す。

 昨日、商隊の護衛で隣町まで行った。そのまま町に泊ろうと思ったが財布を忘れた……依頼主から借りようとも思ったけど、すでに依頼完了していたので依頼主とは別れたあと。隣町だし知り合いがいないわけでもないが……迷った末、そのまま家まで戻って来たのだ。

 深夜に家に戻り、そのままベッドで爆睡。今に至るってわけだ。

 サラダは依頼完了の証書を受け取り、報酬をくれた。


「はい、依頼完了ですね。さてアルノーさん、昇格試験のことですが」

「耳タコだっての。俺はD級でいいの。さーて……昨日の疲れもあるし、今日は軽い依頼にしておくかな」

「まったく……実力があるのに昇格しないなんて」


 サラダも言うようになった。

 こいつが新人だったころはガチガチに緊張していたのに、今じゃ悪態突いたり、冗談を言ったりする。

 すると、隣のカウンターで新聞を読んでいた受付、ハドソンが言う。


「なんだアルノー、ヒマしてんならいい依頼あるぞ」

「あん? つかハドソン、仕事中に新聞読んでんじゃねーよ」

「バカタレ。世間の情勢を知ることも立派な仕事だ。なあサラダ」

「はい、その通りです」

「……おいサラダ。この不良職員に似るなよって昔言ったよな? ったく」


 ハドソンは四十代半ばの冒険者ギルド受付。俺が新人のころから世話になってる。異世界漫画でありがちな『冒険者ギルドの受付嬢は美人揃い』っていうテンプレをぶっ壊してくれた罪深いオッサンキャラクターでもある。

 俺はハドソンのカウンターに移動する。


「んで、依頼ってのは?」

「ふふん、収穫祭に関する依頼だよ。この時期、増えるんだ」

「収穫祭。おお、もうそんな時期か」


 収穫祭。

 この『最初の町』の周辺は大小さまざまな農村が多くある。もともとは一つの農村だったのが分かれ、今の形になったらしい……詳しく知らんけど、喧嘩して仲たがいとかそんなんじゃなく、新規開拓のために若手たちが村の支援の元で新たな農地を開拓したとか。

 なので、年に一度、全ての農村が力を合わせ、この『最初の町』で収穫祭を開くのだ。

 ハドソンは顔を近付けニヤリと笑う。


「今年は麦がとんでもない豊作でな……くくく、なんと収穫祭の期間中、エールが飲み放題らしいぜ」

「マジで!? おおおおおテンション上がるな!! で……俺になにさせるんだ? 面倒なのはお断りだぞ」


 飾り付けとか、チラシ配りとか……そういう仕事はめんどくさい。

 すると、サラダが数枚の依頼書を出す。


「収穫祭に関する依頼、けっこうありますよ。物資運搬とか、設営準備とか」

「……俺じゃなくてもいいだろ」


 そう言うと、ハドソンが言う。


「冒険者ギルドでも、収穫祭への貢献ってことで出店とか出し物やるんだよ。去年はA級冒険者たちが魔獣肉を焼いて出店で売ったりしてたんだけどよ、今回はお前の番だ」

「お、俺の番って何だよ」

「出しモン、なんかやれよ」

「はあああああああ? なんで俺が」

「お前も冒険者ギルド所属だろーが。知ってるぜ? お前、シモンの店に珍妙なアイテムを作って売りに行ったりしてんだろ? なんか面白い出し物とか、出店とかやってみろ」

「いや、だからなんで俺」

「お前も、ここにきて長いだろ? さっきも言ったけど、去年はA級冒険者たちがわざわざ収穫祭のためだけに魔獣肉を狩りに言って格安で出してたんだ。D級のお前も何かやれ。お前が中心になって、知り合い集めてもいいからよ。冒険者ギルドの看板使って、町のために貢献してくれや」

「…………」


 ハドソン。こいつの厄介なところは……こういう頼みをされると、断りにくい雰囲気を出すところだ。

 俺もこいつには世話になってる。それに、去年は確かにA級冒険者たちが『ビッグオークのステーキ』みたいな看板を出して、ギルド前でデカい屋台を開いていた。

 まあ、そのA級冒険者たちは俺の後輩でもあるけど……俺はただ祭りを楽しむだけで、自分から何か関わることは少なかったな。

 

「わーったよ。で……何すればいいんだ?」

「好きにやればいい。ギルマスからも確認取ってるからよ」

「い、いつの間に……お前、最初から俺にやらせる気だったのかよ」


 こうして、俺は冒険者ギルドの看板を借り、収穫祭に向けて出し物をすることになった。


 ◇◇◇◇◇


「……ってわけなんだよ」


 その日の夜、俺は偶然出会ったシモンと酒場に入った。

 いつものエールを頼み、すでに四杯目。俺はこう見えてけっこう飲めるタイプなので、まだまだ余裕。

 シモンは焼き鳥を食べながらガハハと笑った。


「いやー、冒険者ギルドの出店か。毎年、等級の高い冒険者が担当になってやるんだが、今回はお前とはな」

「俺が等級を上げたくない理由、わかるだろ? こういうイベントでの仕切りとか担当、やりたくないからだよ」

「はっはっは。ま、話を聞くに、ギルドではすでにお前に任せることが決まってたような感じだな。なんだかんだでお前、等級はともかくベテランで実力もあるって思われてるしなあ」

「はぁ~……めんどくせい」


 収穫祭は、町で一番デカいイベントの一つだ。町全体の企業が出資するくらいの規模だし、王都からも観光が来るくらいデカい。冒険者ギルドも出資するイベントだし、この日に高名な冒険者の仕切りで出店とかイベントやるのは恒例になってる。

 シモンはエールを一気飲みしておかわりを注文し、空のジョッキを俺に向けて言う。


「知ってるか? かつて、S級冒険者の『舞姫』キュレネの出し物、踊り子たちによるダンスイベントが開かれた時、それを見るために町の中央広場はパンク寸前の大騒ぎになったらしいぞ」

「あ~……そんなこともあったなあ」


 S級冒険者『舞姫』キュレネ。エルレインと同じ時期にS級認定された冒険者だっけ。あいつもこの町出身で、今は王都を活躍の場にしてるらしいけど。

 まあ、知り合いではある……というか、俺の元教え子でもあった。


「お前の教え子、みんなS級だなあ。ほれ、以前の……アルテミウスだったか? あの子ももしかしたらS級認定されるんじゃないか?」

「かもな。てか、んなことより出し物、イベント、どうすんだよ。俺にキュレネと同じレベルの出し物期待するのは間違いだぞ」

「がはは。それだけ冒険者ギルドがお前に期待してんだろ。作って欲しいモンあったら言えよ? 収穫祭割引で少し安くしてやる」

「へいへい。ありがとさん、あ、おかわりー」


 通りがかった給仕にエールジョッキを渡すと、シモンの分と一緒に持って来た。

 そのままもう一度ジョッキを合わせようとすると。


「聞かせてもらったわ、アルノー」

「へ?」

「おお、『剣聖』じゃないか」


 エルレインが、俺とシモンが合わせたジョッキに、自分のジョッキを合わせてきた。

 ジョッキを離すと、エルレインはエールを一気飲みし、ジョッキをテーブルにドンと置く。


「ひっく。キュレネぇぇ……アイツより盛り上がるイベントやるって話よねぇ。だったらあたしが手ぇ貸すわ。くっそ~……あいつなんかより、あらしの方ができる女だったの、見せてやるんだからぁ!!」

「お、おい、どっからそんな話になるんだよ。てかお前、酔ってる?」

「よってない!! あ、おかわりー!!」

「がっはっは。酔った『凍刃』エルレインと飲めるなんてな。カミさんにいい土産話ができたぜ」


 シモンのやつ、楽しそうにしやがって。

 ちなみに『凍刃』っていうのはエルレインの二つ名だ。S級冒険者は二つ名を与えられて、普段はそっちの名前で呼ばれる。エルレインはジョブが『剣聖』で、その卓越した剣技から『剣聖』エルレインって呼ばれることが多いけど、二つ名は『凍刃』っていう。


「ちょいアルノー!! 聞いてんの!? 手ぇ貸すって言ってんの!! 収穫祭、盛り上げるわよー!!」

「お、おいお前、悪酔いしすぎだぞ、目立ってる目立ってる」

「ふん、目立ってナンボの冒険者よ!! おーいお店のみんな!! 今日はアタシの奢り!! お店のお酒空っぽにするわよー!! 収穫祭に向けて、景気づけよー!!」

「「「「「おおおー!!」」」」」


 こ、この悪酔い野郎……めちゃくちゃ目立ってるじゃねぇか。

 

「アルノー、乾杯しよ!!」

「……はぁぁ」

「がはは。アルノー、今日はもう飲むしかないな」

「……だな。乾杯」


 とりあえず、収穫祭に向けての話はまた今度かな。

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