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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第一章

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第15話

 翌日、俺は冒険者ギルドでミアと話していた。


「あー、エルレインさんね。噂じゃ、煮炊きするくらいで料理とか全くしないって話。毎日、馴染みの食堂で日替わり定食頼むとかも聞いたことあるなー」

「やっぱそうなのか……」


 ミア、こう見えてかなり情報通だからエルレインについていろいろ聞いてるけど……エルレインは『剣聖』としての側面が強くて、普段の生活についてはあまり話に出ないらしい。

 ミアは俺にボソッと言う。


「なになに、エルレインさんに興味津々? くふふ、もしかして狙ってる? エルレインさん、見ての通りめちゃくちゃ美人だから狙ってるヒト覆いらしいよ~? 噂じゃ、王都で王子様に求婚されたけど蹴ったとかもあるんだから」

「そうなのか? まあ、冒険者として脂載ってる次期だし、王妃なんて柄じゃなさそうだもんなあ」


 ミアは腕組みをし、難しい顔をして言う。


「王妃なんてガラじゃなくても、エルレインさんがこの町にこだわる理由はよくわかんないんだよねぇ。だって、王都のがデカくて広いし、流行の最先端だし、冒険者ギルドでも高難易度の依頼いっぱいあるし、エルレインさんにすれば絶好の場所なんだよねぇ。でも、あのひとずっとこの町を拠点にしてるし……わかんないこと、いっぱいあるね」

「だな。てか、お前は王都に興味ないのか? まだ十八歳だろ? 若いんだし、いろいろ挑戦してみたらどうだ?」

「あっはっは。あたしは分相応ってのわきまえてるから。それに、この町だって十分大きいし、遊ぶところもいっぱいあるし、高難易度の依頼もたまーに入ってくるじゃん? まあ、アタシは危険なことしないけどね」

「……お前、若いのにわかってるな」


 ミア、こいつの思考、俺と似てるかも。なんとなく話しやすい理由はこれか。


「で、なんでエルレインさんに興味津々?」

「いや、あいつの家に行ってな……」


 と……ここからは個人情報かな。

 あいつの家がゴミ屋敷で、出てきた料理が水でふやけさせた干し肉とか乾パンとか……幻滅どころの話じゃねえ。

 中途半端に言ったせいか、ミアがにんまり笑って俺の腹を肘で突く。


「家? 家ってなに? 嘘、まさかアルノー……エルレインさんの家、行ったの?」

「馬鹿、声でけえっつの。目立ちたくないんだから静かにしろって」


 ミアに顔を近付けて黙らせると……急に、背筋が冷たくなった。


「…………楽しそうね、アルノー」

「げ、エルレイン」


 エルレインがいた。

 腕組みをして、なぜか俺とミアを睨んでいる。


「仲がいいようで」

「あ、ごめんなさい。あたし用事あるので~」


 ミアはさっさと逃げてしまった。

 というか……エルレインが登場したおかげで、周囲がざわついている。


「おい、エルレインさんだ」「あれ、誰だ?」

「オッサンじゃねえか」「あれ、D級のアルノーだぜ」


 うげえ、名前呼ばれた気がする。これはよろしくない。


「お、おいエルレイン。場所変えるぞ」

「……まあ、いいわ。その前に」


 俺とエルレインは冒険者ギルドを出た。

 二人で並んで歩いても目立つ……もうしょうがない、さっさと用事済ませるか。


「で、今日は料理を作ってくれるのよね」

「ああ。お前のドラゴン肉を使っての料理と、ズボラなお前でもできる簡単で栄養満点な料理を教える。ドラゴン肉の礼と思ってくれ」

「うん。まあ、ドラゴン肉の料理は楽しみね」

「あと、お前の家のキッチン、鍋しかないからな……他の調理器具も買いに行くぞ」

「はーい。ふふっ」


 なんだろう、急に機嫌よくなったな……女心は理解できんなあ。


 ◇◇◇◇◇◇


 まず、調理器具を買いに行く。

 向かったのはシモンの道具屋だ。ここには何でもあるから重宝している。


「おお、アルノーと……なんとなんと、S級冒険者のエルレインさんじゃないか」

「ま、依頼を受けて仕事中。調理器具一式、用意してくれ」

「調理器具? と……詮索はしないでおこう。調理器具一式だな」


 シモンが用意している間、俺とエルレインは道具屋をチェックする。


「へえ……いろんな道具があるのね」

「そこにあるカトラリーセット……あ~、ナイフ、フォーク、スプーンのセットあるだろ? それ、俺が考案したんだ」

「へえ……一つになってるのね。携帯に便利」

「ああ。シモンは、頼めば何でも作ってくれる。まあタダじゃないけどな」

「いいわねこれ。一つ買っていくわ」

「毎度あり。よし、俺が買ってやるよ。これ使って、ちゃんとメシ食えよ」

「……え、あ。うん」


 褒めてくれたのが嬉しく、つい甘やかしてしまう。

 新人のころを思い出すなあ。エルレイン、今に輪をかけて生意気だったっけ……でも、褒めたりすると猫みたいに笑う可愛い子だった。

 調理器具一式、カトラリーセットを買いカバンに入れ、次は食材の買い出しへ。


「何を作るの?」

「ドラゴン肉がメインだし、それに合う料理だな。あとは、お前でも作れる簡単野菜スープ……今度は忘れるなよ?」

「わ、わかってるわよ」


 さて、いつも俺が買い物をする食材屋へ向かい、必要な野菜を選んでいると……驚いた。


「おーっ!! コメ入ってるじゃん」

「こめ?」


 袋に入っていたのは、コメ……そう、コメである。

 精米してないので玄米だけど、これは正真正銘、異世界産のコメである。

 この世界にもコメがあった。東方で作られてるとかで、この町に入荷するのは稀だ。初めて見つけた時はマジで小躍りして、不審者扱いされて連行されそうになったのは苦い記憶だ。

 お目にかかったことはないが、醤油やミソもあるらしい……まあ、元日本人の俺がこうして異世界転生しているんだし、転生じゃなく転移したミソ・醤油職人がこの世界で工場を構えて作った可能性もゼロじゃない。知らんけど。

 

「うし、食材も買ったしお前の家行くか」

「ええ。ん~お腹空いてきたかも」

「言っておくけど、お前も手伝うんだからな」

「わ、わかってるわよ」


 エルレインの家へ向かい、キッチンへ。

 昨日、軽く掃除したけど……マジで酷かった。

 いくつか鍋はあったけど、一つだけ除いてみんな穴が空いてたし、包丁はなぜか折れてたし、フライパンはなかった。

 マグカップだけは大量にあり、皿とかは亀裂入ってるのばかりだし、ナイフフォークは錆びていた。どうなってんだマジで。

 とりあえず、使えないのは全部処分した。

 新しい食器を戸棚に入れる。


「今度はダメにするなよ」

「わ、わかってるってば。何度も言わないでよ……それに、あんたと買ったヤツだし、ダメにするわけないでしょ」

「え?」

「なんでもない!! さ、料理、料理するわよ!!」

「お、おう」


 というわけで、料理開始。

 これから作れば、昼飯には間に合うな。

 新しい包丁を使い、野菜をカットする。

 ちなみに……今のジョブは『料理人』だ。包丁さばきをとくと見よ!!


「おおお~、アルノーって料理人? すっごい包丁さばきじゃない!!」

「ふふん、当然だろ」


 俺はカットした野菜を鍋に入れ、水を入れる。


「いいか、野菜スープ作るとき、食材は大きめに切れ。そうすれば食う時に満足感がでる」

「……そういえば、習ったわね」

「ああ。野営の時は塩だけの味でいいけど……もしミソとか手に入るなら、オークの干し肉を入れて豚汁モドキも作れるな」

「ミソ?」

「東方にある調味料だよ。この町じゃ手に入らないけどな」

「機会あったら手に入れてあげる。あ、今度王様の依頼受ける時に、報酬はミソにするわ」

「いやいや、そこまでしなくていいっての」


 でもちょっと期待……醤油もお願いしちゃいたいね。

 野菜スープはしばらく煮込んで完成。さて……俺はメインの方をやるか。


「ねえ、このコメだっけ。これは?」

「こっちは炊く。土鍋はないから普通の鍋だけどな」

「タク? なにそれ」

「まあ、見ておけ」


 米を研ぎ、水を適量入れて炊く。

 そしてメイン。ドラゴン肉である!!


「ねえ、どうやって食べるの?」

「まあ、ステーキは鉄板だろ。んでもう一つ……!!」

「なになに、楽しみ」


 ニコニコするエルレイン。俺は洗い物をするように言うと、素直に洗い始めた。

 野菜スープもいい感じに煮え、米も炊きあがる。メインもいい感じになってきたので、ドラゴン肉を分厚くカットし、フライパンを熱する。


「さあ、焼くぞ!!」

「うん、やっちゃって!!」


 フライパンに肉を落とすと、ジュワッといい音がした。

 そして、いい感じに焼けたところで赤ワインを注ぎ一気にアルコールを飛ばす。


「わわっ、なな、何してんの!?」

「フランベだ。赤ワインで肉に香りづけしたり、旨味を閉じ込めるんだっけか……」

「え、うろ覚え?」

「ま、まあいいんだよ。美味いしな!!」


 高い赤ワイン使ってるし、間違いないだろ……たぶん。

 現に、いい香りしてるし。

 さて、もう一枚焼いて調理は完了。綺麗にしたリビングルームへ。

 新しいテーブルクロスを引いて、カーテンも新しくした。ガタがきていた椅子も修理したし、食事の環境もバッチリだ。

 テーブルに料理を並べると、エルレインが目を輝かせる。


「すっごいご馳走じゃない!!」

「だろ? てか作り過ぎたかな……」

「大丈夫。私、大食いだから」


 そういやそうだった……エルレイン、今すぐランウェイ歩けそうな体形してるけど大食いなんだよな。

 

「アルノー、料理の説明して!!」

「はいよ。まず野菜ゴロゴロのスープ、ごはん、ドラゴン肉のステーキ、そして……鍋だ!!」


 そう、鍋。

 俺が作ったのは、ドラゴンの鍋である。

 薄く切ったドラゴン肉をメインに、ベッシという名前の葉野菜……まあ、キャベツだな。キャベツで交互に挟んで、ミルフィーユ鍋っぽくした。味付けは、ドラゴンの骨で出汁を取ったスープで塩を使って味付けした。


「じゃあ、冷めないうちに……いただきます!!」

「いただきまーす!!」


 さっそく、ステーキにかぶりつく。


「……う、っま」


 濃厚な肉汁、食感は牛肉っぽいが噛み切れる……筋っぽさもないし、うまい。

 これが、ドラゴン肉……すごい。赤ワインでのフランベが効いたのか、ほんのり甘い風味も感じる……や、やばいこれ。


「お、おいしぃぃぃ……なにこれ、こんな美味しいなら肉全部冷凍して持ってくればよかったあああ」


 後悔するエルレイン。まあ、気持ちは理解できる。


「ん、ねえこのドラゴンステーキ、このコメとめちゃくちゃ合わない!? すっごく美味しいんだけど!!」

「わかる。わかるぞエルレイン……!!」


 ステーキ丼……くそう、ちゃんとしたソースが欲しい!! 塩だけでも十分うまいけどね!!

 野菜スープで口直し。うん、こっちも美味しい。久しぶりに作ったけど、温まる。


「わ、この葉野菜とドラゴン肉、おいしい」

「ミルフィーユ鍋だ。これも染みるなあ……」


 うまい。ああ……いろいろ苦労した甲斐あった。


「うまいか、エルレイン」

「うん、ありがとう、アルノー……その、食事、美味しい」


 食事は綺麗に完食……今日は食事メインなので酒はなし。

 食器を片付け、お茶を飲み、俺は締める。


「さてエルレイン。これほどの料理を毎回やれとは言わんから、せめて自炊できるようになれ。バランスいい食事は」

「強さにもつながる、でしょ。ちゃんと覚えてるわよ……やってなかったけど」

「じゃ、ちゃんとやれ」

「はぁい。まったく……これも新人指導?」

「もう新人じゃないだろ。お前も二十一歳だし、冒険者になって五年目か……あっという間だな」

「そうね。五年……あっという間。このままおばあちゃんになるまで冒険者続けようかしら」

「そうなのか? 好きな人とかいないのか? そういや、王子様に求婚されたとか聞いたけど……」

「お断りしたわよ。そもそも……」

「そもそも?」


 エルレインは、俺をジッと見ている。


「……ね、今日泊る? その……部屋、あるけど」

「ああ悪い。今日はシモンと飲む約束してるんだ。あいつ、王都でいい酒を仕入れたみたいでな、飲みに誘ってくれたんだよ。あ、ドラゴン肉少し余ったのもらっていくぞ」

「…………」


 あれ、なんか視線がクッソ冷たいんだが……え、なんで。

 

「私も行く」

「え?」

「はあ……色気より食気、か。まあ……いっか」


 なんかよくわからんけど……とりあえず、シモンの酒は全部飲みつくしてやるか!!

 

 ◇◇◇◇◇


 その後、エルレインは多少まともに調理をするようになったとか。

 野営の時に、俺が教えた野菜スープを作って食べたりしているところを別のパーティーに見られて「剣聖も料理するんだな……」とか「料理できないって聞いたけど違ったんだ」と言われるようになったとか。

 

 エルレインは、相変わらず「最初の町」であるここを拠点にしている。

 けっこう関わることも多いけど……こいつの頼みをいろいろ聞いても『剣聖』のジョブは手に入らない。うーん、欲しくないと言えば嘘になるけど、どうすりゃこいつの『真の願い』を叶えることができるのかねぇ。

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