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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第一章

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第14話

「おいアルノー、頼まれてたもん、完成したぜ」

「お、マジか。どれどれ」


 新人研修が終わってしばらく経過。

 俺は依頼を終え、道具屋のシモンのところに顔を出すと、シモンは金属製の箱をカウンターに置く。

 大きさは両手で持てるくらいの大きさで、側面には穴が空き、反対側にはプロペラが付いている。スイッチもあり、押すとプロペラが回転した。

 シモンは、何とも言えないとばかりの顔をして言う。


「お前の図面通りに作ったけど……これ、なんだ?」

「ふっふっふ。全国のお母さんたちが泣いて喜ぶアイテムさ」

「……」

「おい、なんだその顔。『なに言ってんだこいつ』みたいな顔すんじゃねぇよ」


 まあ、外観だけじゃわからないだろうな。

 すると、冒険者後輩のミアがいつの間にかいた。そして俺の考案したアイテムを見て首を傾げる。


「……アルノーさん、なんですこれ? また変なアイテム作ったんですか?」

「バッカ、お前バカ。いいか、これは全国の忙しいお母さんが泣いて喜ぶアイテムなんだぞ。おいシモン、ネギあるかネギ、あとギボー」

「……あるけど、金払え」

「ああもう、ほれ」


 ネギ、それとギボー……これは、この世界に普通にある野菜だ。ネギはそのままネギで、ギボーはゴボウみたいな野菜だ。

 シモンはキッチンからネギとギボーを持ってきて俺に渡す……ああ、金はちゃんと払ったよ。

 魔道具のスイッチを入れ、プロペラが回転。側面の穴にネギを入れると、なんとプロペラの刃でネギが切れ、綺麗な輪切りとなる。

 俺は自信満々に言う。


「どうよ。名付けて『ネギスラッシャー』だ。こいつがあれば、ネギやギボーの輪切りが一本たったの五秒で終わる。エッジ付きプロペラは取り外し簡単だし、終わったら外して洗えばいい。硬いギボーもこの通り!!」


 ギボーも、シュパパパンと輪切りに。プロペラの前に置いた入れ物には、綺麗に刻まれたネギ、ギボーがあり、それを手にして確認……うん、綺麗な輪切りだ。

 すると、シモンが言う。


「……普通に手で切るのと変わらんだろ」

「バッカ、シモンバッカ。いいか、全国のお母さんの助けになるのはもちろん、ネギとかギボーの輪切りを毎日使う……そう、飲食店とかには売れるかもしれない。これを商業ギルドに持ち込んで商品化すれば、ロイヤリティが入ってくる。くくく、どうよ」

「そんなの買うヒトいるのかな~」

「おま、ミア。お前は料理しないのかよ? 欲しくない?」

「いやあ、あたしは別に。そもそもネギそんなに好きじゃないし」

「この野郎!! ふん、この『ネギスラッシャー』が商品化して、爆発的大ヒットして俺に大金入っても、お前らには奢らないからな!!」

「はいはい。っていうか、アルノーさんは料理するんですか?」

「あったり前だろ。今のご時世、男で料理できないなんて終わってるー、とか若いやつは言うんだろ? ふふん、俺は一人暮らしだから料理得意なんだぜ!!」

「今のご時世ってなんです? ふーん。じゃあ今度、料理ごちそうしてくださいよ」

「ふふん、いいだろう。俺の料理を見て腰抜かすなよ!!」

「料理で腰は抜かさんだろ……」


 シモンのツッコミでミアが大笑いする……くっそこいつら、俺の発明品のこともう見てねえし、ちくしょう。

 とりあえず、ネギスラッシャーを手にシモンの店を出ると、なにやら表が騒がしかった。


「『剣聖』が帰ってきた!!」

「聞いたか? 討伐レートSSの魔獣、ソロ討伐したらしいぜ」

「かっこいい~!! エルレインお姉様~!!」


 あちこちで聞こえてくる……エルレインって。

 するとミアが言う。


「エルレインって、あのS級冒険者『紅月』のエルレインですよね。わぁ~、戻って来たんですねぇ」

「戻って来た、って……少し前、新人指導で見たぞ」

「ああ、あれは指導というか、ギルドの顔出しついでに、新人たちに軽く指導しただけで、すぐ魔獣討伐に出たみたいですよ」

「へー」

「……なんか適当ですね。アルノーさんって、S級冒険者とか興味ないんですか?」

「別に。というか……エルレインかあ」


 エルレイン。実はけっこう苦手なんだよなあ。


「昔はもっと、可愛げあったんだけどな」

「え? 知ってるんですか?」

「ああ。そもそも、あいつの新人だったころ、指導担当したの俺だしな」

「え!? そうだったんですか!? へぇー……それで、アルノーさんはうだつが上がらないD級で、エルレインさんは最強無敵のS級なんですねぇ」

「んだよその言い方。別に、俺は等級にはこだわらんからいいんだっつの」

「はいはい。じゃ、あたしはこれで」


 ミアは手をフリフリし、近くのカフェへ入った……俺もお茶したい。

 俺はネギスラッシャーを手に、商業ギルドへ向かう。

 すると、ギルドの近くにエルレインがいた。


「あら、アルノー!! 奇遇じゃない……!!」

「お、おう……なんだよ、なんか怒ってるのか?」

「別に。フン……ねえ、さっき女の子と一緒にいなかった?」


 エルレインはキョロキョロする。長い青みがかった銀髪が揺れ、甘い香りがした。香水でも付けてるのか……こいつも女なんだなあ。


「女の子って、ミアのことか?」

「ミア……どういう関係?」

「ただの冒険者後輩だよ。よく行く道具屋で顔見知りになって、たまにメシ食ったり、くだらない話したりするくらいだ」


 ミアはまだ十八歳だし、俺からすれば未成年の子供だ。

 エルレインは俺をジーっと見る。


「……ほんとにそれだけ?」

「そうだけど。てか、何か用か? 俺、商業ギルド行きたいんだけど」

「商業ギルド……? あ、また変な発明品?」

「変なとは何だ変なとは。いいか、画期的なアイテムって言え」


 俺は「シッシ」とエルレインを追い払う仕草をして通り過ぎると、エルレインは隣に並び、俺の持つ『ネギスラッシャー』を覗き込んだ。


「それがアイテム? どんなアイテム?」

「全国のお母さんが泣いて喜ぶアイテムだ」

「はあ?」


 こいつ何言ってんだ? みたいな顔された……まあ説明不足だった。

 

「てか、お前忙しいんだろ? こんなところいていいのか? S級冒険者の帰還、戻って来た『剣聖』とか、さっき町で聞いたぞ」

「ええ。王都の周辺でデカいドラゴン出たっていうから、討伐してきたわ。あ、そうだ。お土産にお肉持ってきた。ギルドの冷凍室でドラゴンの肉凍らせてあるけど、欲しい?」

「何いいいいいいいいいいい!?」

「ひゃあああ!? かか、顔近い!!」

「肉、あんのか!? どど、ドラゴン肉って、クッソ高いんじゃないのか!?」


 ドラゴン。血や内臓は薬に、表皮や骨、牙やツノは装備品になる。肉は超高級肉、滅多に食うことができない超肉!!

 興奮していると、エルレインがのけぞって言う。


「別に、興味なかったけど……解体した王都の職人が、一度食うべきだって言うから、凍らせて持って来たのよ」

「く、食いたい……ぜひ、食いたい!!」

「……い、いいわ。あげる」


 なんてことだ……エルレイン、こんないいやつだなんて。

 

「よし、お礼にこのネギスラッシャーをやろう。商業ギルドにはまた別な日に、新しいのを持っていく」

「……なに、これ」

「ふふふ。ネギを切る魔道具さ」

「いらない」


 あっさり拒否。ちくしょう。

 とりあえず、もう商業ギルドとかどうでもよくなった。頭の中はドラゴン肉でいっぱいだ。

 

「ねえアルノー、少しお茶でもしない? その……ドラゴンの話とか、したいし」

「おう。いいぞ……と、でもいいのか? お前みたいな有名人が、俺みたいなうだつが上がらないD級冒険者と一緒とか」


 自分で言って少し悲しい……エルレインは言う。


「私がどこの誰といようが、周りには関係ないわ。それに……あなたは私の指導担当でしょ。別に、一緒にいてもおかしくないし……」


 エルレインは、長い髪をクルクル指先で巻く。

 その様子を見て、少し懐かしくなってしまった。


「はは、お前さ、髪を指で巻くクセ、直ってないのな」

「むっ……う、うるさいし」


 俺とエルレインは、近くのカフェへ。

 二階の個室が空いていたのでそこに入り、窓を開ける。

 今日は天気もいい。心地いい風が部屋に入り、俺は深呼吸する。


「いい天気だな」

「そうね。王都の方は雨ばかりだったし……」

「そういやお前。なんでこの町にいるんだ? お前ほどの冒険者なら、王都の第一線で活躍できるだろ?」


 S級冒険者は、この世界に二十人もいない。

 ここはゲームで言うなら『始まりの町』だ。流通も多く、町の規模もデカいけど……やっぱり王都の方が桁違いにデカく広い。

 以前聞いた話だけど……冒険者ギルトに『エルレインを王都に来るよう説得してくれ』みたいな話もあった。そういう話があるってことは、エルレインが王都行きを拒否したってことだろう。

 するとエルレイン、なぜか顔を逸らす。


「べ、べつに……いいでしょ。私、この町が気に入ってるから、ここにいるわけで……」

「ははは、そうか。まあ、俺もここが好きだしな」

「……あのさ、アルノーは……その、冒険者、いつまで続けるの?」

「さあなあ……」


 正直、考えてない。

 まあ、D級冒険者から昇級することないし、日銭を稼ぎつつの生活だけじゃ老後は過ごせない。まあ……引退前に、ドラゴン狩りでもして素材を売りまくって大金ゲットして老後資金くらいは作るかな。んで、家の裏庭で畑でも作って暮らすのも悪くない。


「あのさ……結婚とか、考えてる?」

「結婚? ははは、こんなおっさんのこと好きになるやつ、いるわけないだろ」

「……そうかな」


 む、なんだこの雰囲気……ちょっと重いぞ。

 わ、話題を変えよう。


「ところで、ドラゴン肉の礼だ。俺がとっておきの料理を作ってやろう」

「え、ほんと?」

「ああ。そういや、ふとした疑問なんだが……お前、料理とかできるのか?」

「ええ、できるわよ」

「ほー、そうなのか。お前が俺の指導を受けてた時は、外食とか、干し肉齧ってるだけとかあったしな。ちゃんと料理してんのか~?」


 なんとなく、エルレインをジッと見る。

 エルレイン。確か年齢は二十一歳。ややクセの付いた青みがかったロングヘア、髪色と同じ軽鎧。武器は腰に下げた剣。

 ジョブは『剣聖』で、レア度はエピック。正直、かなりレアだ。

 俺も、こいつの『剣聖』が欲しくていろいろ試したけど、どうしてもこいつのジョブを得るために『条件』がわからない。そう、未だにだ。


「じゃ、じゃあ……来る?」

「ん、どこに?」

「わ、私の家。私の料理、見せてあげる」

「おお、いいのか? そうだな……元指導員として、弟子だったお前の料理の腕前を見てやろうじゃないか」


 というわけで、エルレインの家に行くことになった。

 あ、一応言っておくけど……下心とか全くないのでご安心ください。


 ◇◇◇◇◇◇


 エルレインの家は、普通に大きかった。

 俺の家の四倍はありそうだ。貴族の屋敷……って程じゃない。デカい商会が持つ事務所兼店舗みたいな、三階建ての建物だった。


「デカいな……」

「冒険者ギルドに紹介してもらったの。使ってる部屋はそんなにないけどね」

 

 家に入ると……うわ、なんだこれ。

 玄関には古い鎧や盾、リュックや荷物などが無造作に置いてあった。

 それを避けて家の中へ。


「適当にくつろいで。今、お茶を淹れるわ」

「お、おう」


 正直に、はっきり言おう。


「きったねぇ……おいエルレイン、掃除してんのか?」

「失礼ね。やってるわよ」


 嘘だ。

 だって汚い。リビングルームにはゴミ落ちてるし、テーブルも何か埃っぽいし、飲んだあとのカップがいくつもある。窓は曇ってるし、カーテンは汚れてる。

 掃除してないのが丸わかり。これ、完全に……!!


「ゴミ屋敷じゃねぇか!!」

「はああああ? 失礼ね、掃除してるって言ってるでしょ!!」

「嘘つけ!! 見ろ、床に落ちてるゴミ!! なんだこれ、サンドイッチの包みだろ!!」

「お、落としただけよ。あとで拾うつもりだったし!!」

「これ、カップ!! 飲んでそのままのカップ、いくつあるんだよ!!」

「あ、あとで片付けるつもりだったの!!」

「それ、片付けできないやつのテンプレな。おいおい……勘弁してくれよ」


 さっきは『下心とか全くないのでご安心ください』みたいに思ったけど、女の一人暮らしの家に入って少しドキドキした……でも、ゴミ屋敷を見て一気に萎えたわ。


「……我慢できん。おいエルレイン、掃除するぞ」

「えええ? 料理は?」

「……じゃあお前料理。俺、ここを少し片付けるわ」

「え、やってくれるの? ありがとー」

「料理、期待してるからな」


 とりあえず……ゴミまとめるか。


 ◇◇◇◇◇◇


 洗い物をまとめて洗い場へ、カーテンを外して外で洗って干し、窓拭き、掃き掃除、拭き掃除とこなした。

 綺麗好きなので、掃除は苦じゃない。むしろ汚い部屋を綺麗にするのは気持ちいい。

 

「うし、こんなもんか。おいエルレイン、カーテンの予備あるか?」


 キッチンに向かって話しかけると、ちゃんと返事が返ってきた。


「ないわ」

「ないんかい……まあいい。外に干してあるから、乾いたら取り込めよ」

「ええ、ありがと」

「ははは、なんか夫婦みたいだな」


 次の瞬間、キッチンで皿の割れる音がした……だ、大丈夫かな。

 しばらく待っていると、キッチンから大皿を手にしたエルレインが来た。


「お待たせ。さあ、私の絶品料理、召し上がれ!!」

「おお、待ってまし……え」


 皿に載せられていたのは、妙な肉、ふやけた何か、ボロボロの野菜クズだった。


「……なにこれ」

「水でふやけさせた干し肉、柔らかくした乾パンと、カット野菜よ。どう、美味しそうでしょ?」

「…………なんで?」

「何が?」

「いや……干し肉?」


 エルレインは、自信たっぷりに言う。


「干し肉って硬いし食べにくいでしょ? だから、水で柔らかくして食べやすくしたの。味は薄くなるけど、噛み切りやすくなって最高よ!!」

「…………このパンは?」

「乾パン。乾パンって硬いでしょ? バリバリして私は好きだけど、アルノーは嫌いだっていうから、水でふやけさせたのよ。柔らかいでしょ?」

「…………野菜」

「ふふん。肉、パンだけじゃ身体悪くするから野菜食べろってアルノーいつも言ってたでしょ? だから、野菜を砕いて混ぜたのよ。どう?」

「…………」


 これは食材を無駄にした盛大なボケなのか? 何をツッコめばいいんだ? ていうか……俺は何かを試されているのか? エルレイン、本気なのかツッコミ待ちなのか?

 どうすればいいのか迷っていると、エルレインは俺に皿を押し付ける。


「さ、食べて。私の料理!!」

「…………いただきます」


 食材に罪はない。

 俺は両手を合わせ、ふやけた干し肉、水っぽい乾パン、砕いて混ぜ合わせたドレッシングも何もない野菜を完食した。

 エルレインはニコニコして、空っぽになった皿を見て喜んでいる。


「ごちそうさま。さて……エルレイン」

「なになに? 美味しかった?」

「これは料理じゃねええええええええええええええ!!」

「きゃあああああああ!?」


 俺は叫んだ。エルレインは驚きのけぞり、椅子から転げ落ちる。

 だが俺は気にしない。エルレインに向かって叫ぶ。


「お前、料理したことないだろ!! てか、新人の時に言ったよな? 野営の時に重宝するから、簡単な煮炊きはできるようにしておけって!! 俺、教えたよな? 野菜スープとか、シチューとか!!」

「…………つ、作り方、忘れちゃって」

「お前なあ……まさか、普段からこんな食事なのか?」


 そう言うと、エルレインはボソボソ言う。


「が、外食メインだし、外では干し肉だけとか……料理とか、めんどうだし、手早く済ませたいし、外食なら美味しいの出てくるし」

「…………」

「ううう……」


 エルレインの食事情がこんなにひどいとは……うーん、若いからいいけど、歳取るとあとで内臓にくるぞこれ。

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