第11話
数日後、俺はシャナと二人で初めて会った泉に来た。
ほとりにはキャンプギアをセットし、焚火台ではいい感じに薪が燃えている。
そして、ソワソワしているシャナに、大きな包みを見せる。
「ふっふっふ。シャナ……お前専用の弓ができたぜ!!」
「……森に入る前からその包み気になってたけど、『まだダメ』ってもったいぶりすぎ」
それは悪かった……でも、こういうのって順序大事だしな。
俺は包みを外し、弓を見せつける。
「……なにこれ」
「コンパウンドボウだ」
それは、滑車と鋼索で張力を制御する機構弓――いわゆるコンパウンドボウだった。
オリンピック選手が使うような弓……この世界に来て三十五年経過して、地球の知識は風化しつつあるが、子供のころに忘れないようメモ書きしていたので覚えている。
というか……オリンピック競技とか観戦するのは好きだった。コンパウンドボウとかカッケエしな!!
シャナは、壊れ物を持つかのように手にする。
「あれ、軽い」
「素材はミスリルで作った。頑強さ、軽さは問題ないぞ。矢筒はこれ」
「あ、うん」
矢筒を腰に下げ、シャナは気付く。
「……矢、なんか普通の矢じゃない」
「ああ、それも特別製。魔獣の骨を使ってる。鏃の部分もミスリル製だ。使った後はできるだけ回収してくれ」
「……あ、この筒」
「スコープは改良した。構えてみろ」
シャナは矢を番えて構える。
そして、弦を引くときに少し渋い顔をしたが、すぐ驚いた。
「わ、軽い」
「引き始めは少し重いけど、すぐ軽くなる。スコープを覗き込んでみろ」
「……わあ、すごい」
スコープにはメモリが付いており、ちゃんと狙いが付けられる。
シャナは、俺が何も言わずとも泉に狙いを定め──射る。
すると、矢はまっすぐ進んで魚に命中。ぷかーっと魚が浮かんだ。
「あ……あた、った」
「威力も申し分ないだろ。さて、弓はこれでいいな」
「う、うん!! ……え、弓は?」
「ああ。次は、『隠密士』と組み合わせ戦い方だ」
「……えっと」
こいつ、弓ばかりでジョブのこと忘れてるな?
俺は提案する。
「シャナは、見たところかなり軽いだろ? 身軽さもある」
「……まあ、軽いけど」
「『隠密士』のスキル、何がある?」
「『潜伏』だけ。気配を殺して潜めるの……こんな風に」
シャナはスキルを発動させ、近くの藪に潜む……すると、シャナの身体が薄くなり、色彩も同化する……カメレオンみたいだ。
すぐに解除し、俺の元へ。
「隠れるだけ。使えない」
「バリバリ使えるだろ。今の『潜伏』と弓を合わせて使えば、どんな状況でも先手を取れる。例えば……お前が斥候として先行し、『潜伏』で隠れつつ進む、先には魔獣が数匹、戦闘は避けられない。仲間に報告し戦闘準備させ、お前は先行して……開幕の一発。敵は混乱し、その隙を突いて仲間と一網打尽、とかな」
「……!!」
「不遇ジョブなんてない。使い方なんていくらでもある」
「おおお……」
シャナは目を輝かせる。
「シャナ、技を磨けばお前は一流の『斥候』になれるぞ!!」
「──うん!!」
こうして、シャナは『斥候』を目指して修行を開始するのだった。
◇◇◇◇◇◇
シャナの生活は変わり始めた。
斥候についての戦術書を俺と探したり、俺の紹介したベテラン斥候から話を聞いたり、実際に俺の紹介で冒険者チームに同行したり……コミュ障も少しずつ治ってきたようだ。
それから数日、シャナは俺と一緒に、大衆酒場にいた。
「すみません、焼き鳥追加で。あと、果実水も」
「はーい」
「へえ、もう自分で注文できるんだな」
「ん、馬鹿にしないで」
シャナはジト目で俺を見て、果実水をグイッと飲み干した。
そして、シャナは懐から小さな袋を出し、俺の方に置いた。
「ん、なんだこれ」
「依頼料。仕事して、貯金できるようになったから。この弓の代金と、指導料……足りる?」
「……ああ、充分だよ」
まあ、全く足りないけど……この気持ちだけで嬉しい。
漫画とかラノベなら「必要ないさ」なんて拒否るんだろうけど、俺はこういう誠意のこもったお礼は受け取ることにしている。
俺は、袋を手にして言う。
「じゃ、ここは俺の奢りかな。お前の冒険者デビューの祝いだ」
「……なにそれ、でも……ご馳走になってあげる」
シャナはクスっと微笑んだ。
すると、俺の中に温かい『力』が漲ってきた。
ジョブ習得──『隠密士』。
「……お」
「ん、なに?」
「いや……とりあえず、これから頑張れよ。あと……近く、新人のチームを紹介するよ。もしかしたら、お前に合うかもな」
「新人? あ、もしかして……あの『連装士』の?」
「かもな。さ、飲もうぜ」
シャナから『隠密士』を手に入れた。シャナの真の願い……『冒険者になりたい』を、叶えることができたようだ。
今日は金もあるし、いっぱい飲めそうだな。




