第10話
シャナから事情を聞いた翌日、俺とシャナは町を出て街道を歩いていた。
いつでも戦闘ができる装備で、途中で道を変えて林の中へ。
「ここは、街道から外れるけど近道でな……魔獣もよく出る」
「……うん」
「さて。さっそくだが見せてもらおうか」
シャナは頷き、矢筒から矢を一本抜いて番える。
俺は、木にいたデカい昆虫……野球ボールくらいの大きさの『蛾』を指差す。
シャナは頷き、狙いをつけ……放つ。
だが、矢はあらぬ方に飛んでいき、木に弾かれ落ちた。
「なるほど、な」
「……うう」
エルフ族は、ジョブに関わらず弓の達人である。
生まれつき高い視力を持ち、身軽さもあり、足も速い。斥候としてこれ以上ない人材として、チームでは重宝される。
だが、シャナは。
「狙いを付けるのが致命的にへたくそ、か」
「……」
シャナは、弓矢がヘタクソだった。
ちなみに、的に狙った蛾の距離だが、十メートルもない。この距離なら俺でさえ狙って命中させることができる。
「昨日は聞かなかったけど、シャナ、お前のジョブは?」
「…………『隠密士』」
「ほー、レアジョブじゃないか。」
「でも、スキルはひとつしかないし……私はエルフだから、弓しかないの」
シャナは吐き捨てるように言う。
「それで、アルノー……アタシのこと、強くできる?」
と、まあ……そういうことだ。
現在俺は、シャナに依頼されて、シャナを鍛えている。
◇◇◇◇◇◇
シャナ、年齢十七歳。
エルフの国出身で、大家族の末っ子として生まれたそうだ。
兄弟は何人か冒険者となって国を出て、たまに帰ってきては外の世界の話をしてくれた。シャナも外の世界に憧れ、ジョブ鑑定を受けたところ……『隠密士』というレアジョブだった。
『隠密士』……まあ、忍者みたいなジョブだ。気配を消したり、影に隠れたりと、暗殺者みたいなことができる。
でも……たとえレアジョブでも、物騒なジョブは嫌悪されることもある。
『剣士』とか『槍士』は、カッコいいジョブとして人気がある。『連装士』が不遇ジョブとして嫌悪されるように、『隠密士』も嫌悪される。
なぜなら、『隠密士』のジョブは、暗殺者などが好むジョブなのだ。『隠密士』というだけで危険視されたり、監視対象となる場合もあるらしい。
シャナも、家族に嫌われ逃げるように国を出て、冒険者登録をしたが徹底的に調べられたそうだ……まあ、内容は女の子だし聞くことはしない。
ジョブ差別。異世界でも、こういう問題はあるんだな。
「家族には『我が家から殺し屋が出るなんて』って嫌われた。唯一、おじいちゃんだけが選別にこの弓をくれたの。でもアタシ……エルフなら弓は習わなくてもできるって聞いてたから、練習なんてしたことなかったの。お父さんも、お母さんも、練習したことないって言ってたけど、凄腕の弓使いだったし」
「ふむ……」
「弟や妹だってそう。アタシだけ、へたくそで……おじいちゃんの弓も、使えなくて」
シャナも苦労してるんだな……アルテミウスといい友達になれそうだ。
「弓がヘタクソで、不遇ジョブ『隠密士』のエルフか……」
「……『隠密士』は、嫌われてるけど、スキルは強いって聞いた。アルノー、『連装士』の子を鍛えて強くしたアンタなら、アタシのことも強くできるよね。その……お、お礼はするから」
なぜ頬を染める……言っておくけど、子供に興味はないからな。
まあ、なんとかできなくはない。
「シャナ、根本的な問題がひとつ」
「な、なに」
「その弓、お前に合ってない」
素人でもわかる。
シャナの身長は百六十センチくらい。手足も細いし、体重もかなり軽そうだ。
それに対し、シャナの持つ弓はデカい。シャナと同じかそれ以上の大きさ……弓道部が使うような和弓だ。長く異世界にいるが、この大きさの弓は初めて見た。
「お前の爺さん、その弓を使ってたのか?」
「ううん。これ、儀式用の弓。新年の祝いで、エルフの国の聖樹に矢を射るの。その時に使う弓だけど」
「……それを、お前に?」
「うん。新しい儀式弓を作ったから、古いのをアタシにって」
……こんなこと思いたくないが、どうもシャナのためというか、古い弓を押し付けただけのような気がする。
エルフ族が弓の名手っていうなら、シャナに合う弓だってあるはずだし……そのおじいちゃんは間違いなく弓の名手であるはずだし、シャナにこんな大きい弓が合うことはないとわかるはずだ。
やれやれ、言いたくないが……しゃーないな。
「シャナ、その弓……俺が思うに、古い弓を押し付けただけで、お前のためじゃない」
「……え」
「お前のためにって思うなら、お前に合う弓をちゃんと与えたはずだ。お前の爺さんがどれだけの腕前で、どれだけ弓に詳しいのかわからんが……一般的な弓の腕前の俺がすぐわかったことを、その爺さんがわかってないはずないぞ」
「…………」
シャナは弓を見つめ、口をプルプル震わせる。
俺に言い返そうとしているのか、図星を突かれて震えているのか、ここにいない祖父に何か言いたいのか……わからない。
「練習しなくてもエルフは弓の名手、ってのは俺も聞いたことがある。お前はたまたま『隠密士』で、たまたま弓ができないエルフとして生まれたのかもな」
「…………」
シャナは震え、歯を食いしばり……俺に向かって弓を投げつけようとしたが、とどまった。
投げても、受けるつもりだった。
でもシャナはとどまった。
「……アタシ、応援されてなかったんだ」
「…………」
「おじいちゃん、『お前に合う』ってこの弓をくれたの。そっか……『もう使わない』からって意味だったのか。あはは……」
「……馬鹿だなあ、ほんとに」
「……そう、だね」
「ああ。お前の祖父も、周りも、見る目がない。俺からしたら、お前は特別だぞ?」
「……え?」
シャナは顔を上げた。
俺は笑って言う。
「だってさ、エルフは弓が得意って言われてるけど、お前は違うだろ? 『隠密士』は不遇って言われてるけど、俺はそう思わない。お前はエルフの中でも、弓ができないし、『隠密士』を持つ特別だ。お前しかなれない冒険者になれる」
「アタシしか、なれない?」
「おう。そりゃそうだろ? 考えろって、お前の周りにレアジョブの『隠密士』を持ってて、さらにエルフ族のやつはいるか? いないだろ? お前しかいない。つまり、お前は特別だ」
「とくべつ……」
「ああ。お前も言ったろ? 不遇ジョブだけど、『隠密士』は強いジョブだって。だったら……お前に合う戦い方がある」
「…………」
「よーし、このアルノーさんに任せな。お前に合う装備を作ってやるぜ」
なんか指導というか、『町の発明おじさん』みたいになってる気もするが……まあいいか。
とりあえず、アイデアはあるしやってみるかね。




