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【連載版】 「誰でもヤらせてくれる」と噂の隣のギャル。実は超がつくほど家庭的で、毎日めちゃくちゃ甘やかしてくる  作者: 茨木野


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8/9

08.

 キッチンで包丁が小気味よい音を立てる。

 トントントンと手際よく野菜を刻み、豚肉と一緒に炒め、お湯を注いでルーを割り入れる。


 グツグツと煮立つ鍋から、スパイシーで食欲をそそる香りが部屋いっぱいに広がった。

 見切り発車で作り始めたものの、持ち前の完璧な家事スキルによって、カレーはあっという間に完成する。


「よし、持っていこ。えーっと……おもっっ」


 コンロの上の鍋を持ち上げようとして、聖華は思わず情けない声を漏らした。

 好きな人に食べてもらうのだと張り切りすぎたせいで、巨大な寸胴鍋になみなみとカレーを作ってしまったのだ。

 これでは重すぎて、隣の部屋まで持っていくのは一苦労である。


 どうしよう、と途方に暮れかけたその時だった。

 ぴしゃーん、と。聖華の五十三万IQの頭脳が、再びスパークした。


(こここ、コレを利用するのだっ)


 聖華は悪女のような笑みを浮かべ、すぐさまスマートフォンを取り出して『NYAIN』を開く。

 宛先はもちろん、阿智奉太郎だ。


『カレー作っちゃったんだけど。寸胴鍋にいっぱい作っちゃって、重くて持っていけないの』

『だからその……あの、うちにおいでよっ』

『いや、やましい気持ちはないよ? ただ持っていくのはちょっと、あの、その、こぼれたら面倒だし、洗い物も増えるし、お鍋熱いしっ』


(本当はやましい気持ちしかないけどねっ)


 内心で激しくツッコミを入れながら、息もつかせぬ高速の言い訳メッセージを送信する。

 すると、数秒後に既読がつき、短い返信が届いた。


『わかった』


「っしゃあっ」


 聖華はスマホを握りしめ、キッチンで高々とガッツポーズを決めた。

 見えない尻尾が、ちぎれんばかりにパタパタと左右に振られている。


 見事に彼を自分のテリトリーに呼び込むことに成功した。

 さすが五十三万IQである。


(って、ああっ。あたし、今全然普通に制服姿じゃんっ)


 鏡に映る自分を見て、聖華はハッと息を呑んだ。

 せっかく好きな人が自分の部屋に来るのだ。もっと気合いを入れた、可愛いルームウェアに着替えたい。


 ピンポーン。


「きちゃったっ。ちょ、ちょっと待ってっ」


 玄関のチャイムが鳴り響き、聖華は慌てて叫んだ。

 隣の部屋なのだから、すぐ来るのは当たり前だ。

 聖華はクローゼットへ猛ダッシュし、服を引っ張り出す。


 数分後。

 ゆるふわのニットとショートパンツという、あざとさ全開のルームウェアに着替えた聖華は、息を整えて玄関のドアを開けた。


「どぞー」


「お邪魔します」


 奉太郎は淡々と挨拶をし、靴を脱いで上がり込む。

 ほのかに甘いココナッツの香水が漂う聖華の部屋を見渡し、彼は小さく瞬きをした。


「だいぶ待たせちゃったよね……ごめんね」


「気にしなくていいだろ。ご相伴にあがる方だし」


 上目遣いで謝る聖華に対し、奉太郎はあっさりと首を振る。

 その塩対応気味ながらも気遣いに満ちた言葉に、聖華の心臓はドクンと激しく跳ねた。


(はうぅ……好き好き好き、す〜きすきすきっ)


 嬉しさのあまり、その場に膝から崩れ落ちそうになるのを必死に堪える。


「どうぞ。適当に座っててね」


「うん。……部屋、すごく綺麗だな。俺が来るから掃除してたの?」


 リビングのローテーブルについた奉太郎が、ふと尋ねてきた。

 綺麗に整頓された部屋と、先ほどまでドアの前で待たされていた事実を結びつけたのだろう。


「え、違うけど」


「じゃあ、何してたの?」


「アアあーっ」


 的確すぎる質問に、聖華は慌てて両手をパタパタと振って誤魔化した。

 あなたのために気合いを入れてお洒落をしていました、などと口が裂けても言えるわけがない。


 顔を真っ赤にしてパニックに陥る聖華を見て、奉太郎は達観したように小さく息を吐いた。


「……聞かないでほしいなら、聞かないよ」


 深く追及せず、あっさりと引き下がってくれる。

 そんな彼の絶妙な距離感と大人びた優しさに、聖華は再び限界を迎えた。


(すきすきすきーっ)


 胸の奥で爆発する恋心を隠しきれないまま、聖華は熱々のカレーをよそうため、フラフラとした足取りでキッチンへと向かうのだった。

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食材はちゃんとあったんだな。
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