45.
……聖華は気づいたら、風呂に入っていた。
「な、何が起きてるの……? あ、あたし、いつの間にお風呂に!?」
奉太郎からの、デートのお誘いがあってから、今に至るまでの記憶がない。
自分の家の風呂、湯船に浸かっている。
「え、え、えー!? 何が起きてるの……? わ、若くしてぼけちゃったのかな……あたし……」
すると、どこからかため息が聞こえてきた。
『聖華……気づいた?』
「え、あ、みゆきん……?」
ジップロックに入った、スマホから聞こえてきたのは、親友深雪だった。
「え!? ど、どういう状況……?」
深雪曰く、奉太郎と別れて、一度聖華は風呂に入ったらしい。
そして、深雪に通話をかけてきたのだ。
『しばらく返事がないから心配したわよ……』
「ご、ごめんね……」
深雪はいつも通りの声音だった。
でも……彼女から心配した、なんて単語が出てきたのは初めてである。
沸騰しかけた頭が、すぅ……と冷静になっていく。
(友達に、心配させちゃった……。初めてだよね、心配かけるの……)
『まあ、いつも心配かけられてるから、今更だけど』
「いつもなの!?」
(驚愕の事実なんですけど!?)
『聖華。とりあえず、今からのデートは断りなさい』
「えー? なんでぇ~……」
正直デートする気満々だった。
『……迷惑でしょ。阿智くんに。彼にだって、準備が必要なんだし。デートプラン練らないといけないし』
「あ、そっか」
自分のことしか考えていないことに気づいて、聖華はさらに、凹んでしまった。
「あたしってなんでこう、こうなんだろ……」
『今更』
(これも今更なんだ……)
近くで見ている友達だからこそ、その評価は妥当なものだと思った。
ぱちんっ、と聖華は自分の頬を叩く。
「切り替える! 連絡する!」
『うん、それがいいよ』
聖華は急いで奉太郎に連絡のメッセージを送った。
「文面がわからん……!」
『日を改めたい、でいいでしょ』
「それだっ!」
日を改めたい、とだけ送った。
すぐに既読がつき、了承の返事が来た。
はぁ……と聖華が息をついて、湯船に身を沈める。
『阿智くんは、なんて?』
「わかったって。あと、ありがとうって」
『……そうでしょ。阿智くん絶対困ってたよ』
「うー……だよね。急だったし」
『相手にも相手の都合があるんだから。自分の都合ばかり押しつけちゃだめ』
「わかってるもん……」
『…………』
「ごめん、わかってなかったかも……」
『そうね。それに、デート当日は、アドバイスできないわ。自分の頭で考えるのよ』
深雪のお説教。
しかし、聖華の口元が緩んでいた。
淡々と、忠告をしてくる。
でもその内容には、聖華を思う愛情を感じられた。
どうでも良いと思っているなら、こんな丁寧に、色々アドバイスなんてしない。
(みゆきん、やさしいなぁ……)
『……なに?』
「みゆきんやさすぃ~って」
『……だから、その思ってることと、口にすることを、一緒にするのやめなさいってば』
聖華は知ってる。
深雪は照れると、髪の毛をくしゃっといじる癖があるのだ。
目の前に深雪はいない。
でも何度も、髪の毛を手で触っているのだろうという姿は、想像できた。




