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ハズレスキル【家事代行《ハウスキーパー》】で公爵家の仕事全てを代わりにやってた私を捨てるんですか?~実は家事するだけでバフが付くスキルで作った宿が、泊まるだけでレベルアップの恩恵があると大繁盛

作者: 茨木野
掲載日:2026/06/19

「エマ。悪いが、家を出て行ってもらえないだろうか」


 夫であるカスケードが、エマ・ホームズに告げたのは、そんな冷たい宣告だった。


「家を出て行け……? つまり、公爵家の仕事全てになってきた私を、切り捨てるということですか?」


 エマは目を見開き、夫カスケードに尋ねた。


 カスケードが当主を務めるオチブレン公爵家は、事実上、エマ一人の手で支えているといって過言ではなかった。


 オチブレン家はかつて名門とうたわれる家柄だったものの、カスケードの父に代替わりしてからというもの、凋落の一途をたどっていた。

 苦肉の策として父が選んだのは、当時侯爵家でありながら、勢いを増していたホームズ家との縁談だった。


 ホームズ家もまたかつて由緒ある貴族の家系ではあったが、近年は傾きかけており、没落一歩手前の状態だった。


 しかしあるときを境に、まるで嘘みたいに、風向きが変わった。

 今では侯爵でありながら、巨万の富を築いていた。


 そうした経緯から、カスケードの父はホームズ家との縁談をまとめ、エマはこの家に嫁いだのだった。


「ああ。エマ。おまえはもう用済みだ」


「では、家のことは一体誰がやるというのですか?」


「ボクが一人でやる」


「不可能と存じます」


 バッサリと、エマは切り捨てる。


「なに? 不可能とはどういうことだ?」


「言葉通りの意味です」


 エマは疲れのにじんだ表情で、静かに息をついた。


「この家は現在、私がいるからこそ力を付けて、回っています。私が居なくなれば、それこそ没落してしまいますよ? それでも構わないとおっしゃるのですか」


「ふん! 相変わらずかわいげのない女だ……!」


(言われなくたって、かわいげが無いのは自覚してる……)


 エマはふと、窓ガラスに映る自分の姿に目を向けた。

 つやのある黒髪。

 ほっそりとした体つき。


 可愛らしいというよりは、美しい、凜と張り詰めたような印象を与える外見。

 しかしこの『世界』では、そういう見た目はあまり好ましく思われていない。


「女というのはな、三歩下がって男の後ろを歩いていればいいのだ。男を立てるということをしない」


「あなたに家をまかせていたら、家が一瞬で崩壊しますので」


「女のくせに根拠もなく自信に満ちた発言をするのも癪に障るのだ! 女は黙って男の後についていればいいんだ! いつもいつも出しゃばりよって!」


 エマはただ事実を述べているに過ぎない。

 しかし、カスケードはそんなエマの態度が気に食わない様子である。


「もとよりこの結婚には納得がいっていなかったのだ」


「左様でしょうね」


(あなたには元から愛し合っていた、素性の知れない踊り子の女がいたものね)


 それが長らくエマの頭を悩ませていた、頭痛の種だった。

 踊り子の女は、わがままを重ね、このオチブレン家の財政を圧迫していた。


 際限なく色んなものを次から次へと取り寄せ、散財し、家からは金ばかりがでて行くばかり。

 追い出そうにも、当主(名目上)のお気に入りということで、却下される。


 そして家のことは一切何もしなかった。

 邪魔者以外の何者でもない存在を、しかしカスケードはずっと愛して、側に置いていたのだ。


 今でも、あの日のことは忘れていない。

 エマがここへ嫁いだ日の第一声を。


『エマ。あらかじめ言っておく。ボクは君を愛するつもりは毛頭無い』


(よく今まで耐えられたものだ……)


 エマはカスケードの馬鹿らしい浮気宣言を、黙って受け入れた。

 あくまでこの家のトップはこの男だから、と自分に言い聞かせながらだ。


 その後、エマは自らの知力と手腕、そして……力を使って、この家の仕事をワンオペしていた。


「もう一度いいますが、この公爵家の仕事を一人で全部やっていた私を追い出すのですか?」


「くどいぞ。それに……ふんっ。貴様はあれだろ、『ハズレ者』だろ?」


「………………そうですね」


 この世界に生きる者は誰しも、神から特別な加護を受ける。

 たとえば剣士の加護を受けると、剣の達人になれる。

 魔法の加護を受けると、修練せずとも魔法が使えるようになる。


 加護は、その人に力と役割を与える。

 そして……人生を形作る。


「おまえの加護はなんだ?」


家事代行ハウスキーパーです」


家事代行ハウスキーパー。つまりは、家事しか代わりにできない、ハズレの加護ということだ」


 カスケードがあざ笑う。


「だいたい、家事なんぞ、加護がなくてもできることではないか」


 エマは大きくため息をついた。


家事代行ハウスキーパーは、単なる家事の代行だけにとどまるものではないと、これまで何度も説明してるのですが……」


「黙れ。ハズレ者であるおまえは、子を産むのにも適していない。なぜかわかるか?」


「……加護が遺伝するから、ですか?」


 加護は親から子へと引き継がれる。

 そういう風説が世間には広まっていた。


 しかし、それはあくまで根拠のない噂の域を出るものではなかった。


「そうだ。そして、つい先日、ダキニに子が宿った」


「ダキニ様に、ですか」


 ダキニとは、先ほどから話題に出ている、踊り子の女の名である。


「この子は、ダキニの愛らしい顔立ちと、ボクの力を持って生まれるだろう」


「…………」


「ハズレ者のおまえが産む子供は、おまえに似た愛想のない、ハズレ加護持ちとして生を受けることだろう。そんなゴミはこの世に」


「もう結構」


(潮時か……。さすがに、これから生まれる命を馬鹿にするような男とは、一緒に居られない)


 公爵夫人としての仕事を、エマは自己の都合では、絶対に投げ出さなかった。

 カスケードのモラハラにも耐えた、ダキニが家の金を勝手に使おうとも耐えた。


 自分に向けられる悪意なら、耐えられた。

 でも……今カスケードは、自分以外の、生まれてきてすらいない子供に悪意を向けた。


 エマは……それが耐えられなかった。


「承知致しました。本日これより、私、エマ・ホームズは、お暇をいただきたく存じます」


「うむ。だが、まあおまえを追い出したとなれば、わがオチブレン家の評判に関わる」


(すでにあんたの評判は社交界では最悪だけど……?)


「そこで、我が領地の一つを、おまえに与えてやろう。そこで暮らすといい」


 カスケードはすでに用意していたのだろう、羊皮紙の束を、エマに渡してきた。


 エマは羊皮紙を受け取り、中を検める。


「デッドエンド……ですか」


「ああ。小さいとは言え、おまえは領地持ちになれるのだ。嬉しいだろ? ほんとだったらおまえを着の身着のまま国外追放してもいいのだがな。ま、ボクの優しさに感謝するんだね」


(デッドエンドといえば、この国の最果て。かつての魔族の国に隣接し、奈落の森と呼ばれる魔物うろつく危険地帯を擁する土地……)


 農業も工業も成り立たない不毛の地だ。

 地質も悪いと聞いている。


 辺境故に人も寄りつかない。 

 ここへ飛ばされたところで、待っているのは飢えて死ぬ定めだろう。


 つまり、カスケードは間接的に、自分を始末しようとしてるのだ。


「無論、おまえにやる金はない。このまま直ぐに出立してもらう」


(準備期間も与えずに追い出すと……。本当に目障りだったわけだ、私のことが)


「お心遣い、感謝致します」


「ふんっ! 皮肉か?」


「いいえ。皮肉ではございません。貴方もご理解なさってるでしょう? 私の性格を」


 思ったことを、相手が誰であれ、包み隠さず口にする。

 それが、エマ・ホームズという女の生き方だ。


「本当に感謝はしてますよ。こんなところとおさらばできるのですから」


「なんだと!?」


「では、さようなら」


 こうして、エマ・ホームズは、公爵家を後にしたのだった。


    ◇ 



 エマ・ホームズには、前世の記憶があった。

 日本のブラック企業で働く、キャリアウーマンだった頃の記憶だ。


 仕事が早いがゆえに他人の分まで押しつけられる日々が続き、どれだけ優れた提案をしても、「女だから」の一言で退けられる、男尊女卑の激しい職場だった。


 転職しようにも、退職届を会社側が受理してくれない。


 退職代行に頼む……という手も考えたが、そもそも会社が辞めることを認めてくれないのだから、どうにもならなかった。


 結局、日々の仕事に忙殺され、惰性のまま勤め続けた末に、ある日過労で倒れ、そのまま息を引き取った。


 ……気づけば、彼女は「エマ・ホームズ」となっていた。


 異世界転生した彼女であったが、先行きは不安なものだった。

 転生先は没落寸前の侯爵家。

 金もなく、ツテもない。

 

 エマ自身も幼い少女の身であるため、できることには限りがあった。

 さらに、加護鑑定の儀にて、エマは自分が「家事代行ハウスキーパー」という、謎の加護が授かっていることが判明する。


 はずれ加護と見なされ、家でも周囲からも冷遇された。

 前世同様、新しい一歩を踏み出す機会すら与えられず、不遇の日々を過ごすことになった。


 やがて嫁ぎ先が決まっても、扱は変わらなかった。

 与えられた環境の中で、やりたいことも、言いたいことも封じられたまま。


 しかしそんな折、嫁ぎ先の公爵家から追放され、新しい土地まで与えられた。


 エマはこれを好機と捕らえた。

 そして、彼女は静かに誓う。


「もう自分に嘘をつかない。これからは自分のやりたいように、自分らしく生きる」


    ◇


 エマは追放先であるデッドエンドに到着した。

 眼前に広がるのは、大きく二つの光景。


 荒野と、大森林。

 荒野は文字通り、草の一本も生えていない。


 地面にひびだらけで、水分の欠乏が一目でわかった。


 建物の影もなく、ただ荒涼とした大地が広がるばかり。


 唯一、森の入り口付近に小さな廃村があった。

 しかし建物はどれも壊れており、壁や天井に穴が開いたまま放置されていた。


 家具はなく、めぼしいものは何一つない。

 住民全員が一斉にこの地を捨てて、どこかへと去って行ったのだろう。


 村を囲む柵はなく、入り口には「アインの村」という看板が立っているだけだった。


 続いて大森林。

 一歩足を踏み入れると、たちまち気分が悪くなってくる。

 目をこらせばわかる……森の木々からは紫色をした靄のようなものが発生した。


 瘴気と呼ばれる、人体に有害なガスだ。

 エマがそれを知っているのは、この世界の『原作』を知っているからだ。


 ここは、『デジタルマスターズ02』という、乙女ゲームの世界なのである。

 エマは前世でこのゲームをやりこんでいた。

 それゆえに、この土地のこと、そして自身の家事代行ハウスキーパーの加護のことについて、よく理解していた。


「瘴気を吸えばものの数分で昏倒するし、長く摂取すれば死に至る……か」


 またそのガスは生物全般の細胞を破壊する。

 植物や、地中、水中に含まれる微生物も例外ではない。


 ゆえに、瘴気の満ちるこの森では、食べ物を育てることもできず、飲み水を確保することも不可能。


 それでも木々が枯れないのは、木が生来、瘴気を排出する機構を備えているから。


(眠れない夜の睡眠導入剤としてやっていたゲームの知識が、こんな場面で役に立つとは……。人生、何が役に立つかわからない)


 森の外は荒野、森の中は毒気の満ちる地獄。

 どう考えても、ここでの生活はおろか、領地運営すら不可能な場所だった。


 しかし、この場にいるのは転生者ゲーマーであり、彼女が持っている加護はハズレではなくチートだった。


「まずは住むところを整えよう。家事代行ハウスキーパー、起動」


 瞬間、エマの目にしか見えない、半透明のウィンドウが展開する。

 デジタルマスターズ02……通称デジマス2ではおなじみのステータス画面だ。


 デジマス2は乙女ゲームではあるが、アクション・ストラトジー、その他色んなジャンルを詰め込んだ、エンタメのごった煮のような作品だった。


 クラフト要素も盛り込んであり、主人公は選んだ加護を使って、モノを作ることができた。


 加護とはプレイヤーに与えられる特殊能力だ。

 そしてすべての加護には一つの共通点がある。


『ハズレは一つもない』ということだ。


 どの加護も、一見役に立たなそうに見えても、鍛えていけば(ゲームをプレイしていけば)、強力な効果が出るように設計されているのだ。


~~~~~~~~~~~~

家事代行ハウスキーパー

レベル:200

保有HP(ハウス・ポイント):105,000


強化対象:公爵家、侯爵家

~~~~~~~~~~~~


 家事代行ハウスキーパー

 一見すると、家事をするだけの、地味なはずれ加護に映る。


 しかし、この加護の真価は、「他者の家事を代行することで、ポイントが蓄積される」という点にある。


 蓄積されたHP(ハウス・ポイント)は、様々な用途に使うことができた。

 消費することで家事に特殊な効果を付与したり、何かを強化したり。


 家事代行ハウスキーパーは、家事をすればするほどポイントが積み重なり、強くなる加護なのだ。


 加護は使えば使うほど進化し、レベルが上がる。


 ただし、扱が複雑な加護や何度の高い加護は、レベルがなかなか伸びない。

 

 たとえば殲滅の加護というものがある。


 発動すると、辺り一帯を消し飛ばし、殲滅するほどの魔法が使えるようになるという加護なのだが、果たしてどれだけ使う機会があるか。


 その点で、家事代行ハウスキーパーはただ家事をするだけでポイントがたまり、レベルも着実かつ簡単に上がる。


 効果は地味でも、家事代行ハウスキーパーは誰でも日常的にできる行為だ。

 ゆえに、どの加護よりもレベルを伸ばしやすかった。


「さて……カスケードの家と、実家の強化は、もう解除していいよね」


これまでエマは、自分が家事代行ハウスキーパーで得たポイントを、嫁ぎ先と実家の強化にあててきた。

 金運、健康、その他諸々……自分を育ててくれた家と、嫁ぎ先のためにと、惜しまず使ってきたのだ。


 だが。


「もうどっちとも縁が切れたからね。強化HPを回収させてもらうよ」


 強化を解除する、と念じる……。

 その瞬間、両家に振っていた強化HPが、自分の元へ帰ってきた。


~~~~~~~~~~~~

家事代行ハウスキーパー

レベル:200

保有HP(ハウス・ポイント):6,105,000

強化対象:なし

~~~~~~~~~~~~



「600万HP増加か……。思ったより多かった、かな」


 これにより、両家に付与されていた運気だったり、体力向上といった恩恵が、全て消え失せた。


 両家がどうなるかは、言わずともわかることだろう。


「さて、じゃあこのポイントで、まずはこの拠点を確保しましょうか」


 家事代行ハウスキーパーのレベルがあがることで、できることの選択肢も広がる。


 大きく分けると、1.強化、2.代行の二種類だ。


 強化は文字通り、対象の性能を高めること。

 そして代行はというと……。


「ポイントを消費して、【家修理・代行】を依頼」


 エマが宣言すると、目の前に……ぽんっ、と小さな存在が現れた。

 二頭身で手のひらサイズ、体は半透明。

 顔もなく、どちらかといえばフィギュアやぬいぐるみに近い外見をしている。


「こんにちは、家事妖精さんたち」


 この小さな存在は、家事妖精ハウス・フェアリーという。

 アイルランドの伝承に登場するレプラコーン……眠っている間に靴を修繕するという妖精、に近い存在だろう。


 HPを消費することで、様々な家事を代行してくれる。

 ただし、妖精にまかせた場合は、本来使用者に入るはずのHPが得られないという欠点がある。


(今まではポイント節約のために、自分で家事やってたけど、今は600万超えの潤沢なポイントがあるから、使えるものはどんどん活用しよう)


「妖精さんたち、この壊れた家を元通りにして」


 妖精達はうなずくと、周囲に散らばる。

 壊れた建物に飛びつくと、トンカチやらのこぎりやらをいずこからか取り出して、家を修繕していく。


 みるみるうちに、廃屋が元の姿を取り戻していった。


「ずいぶん立派な建物になっちゃったな。元々は領主の館だったりして……」


 見上げるほどの、二階建ての洋館だ。

 荒野にも森にも似つかわしくない、堂々たるたたずまいである。


 妖精たちは代行を終えると、すぅう……と消えていった。


~~~~~~~~~~~~

家事代行ハウスキーパー

レベル:200

保有HP(ハウス・ポイント):6,104,500

強化対象:なし

~~~~~~~~~~~~


「家の修繕で500HPか」


(ゼロから作ったわけではない、ただ元会った状態にもどしただけから、この程度の消費ですんだんだろう)


「よし、ここを拠点としよう。住みやすいようにポイントを使って強化して……」


    ◇


~~~~~~~~~~~~

家事代行ハウスキーパー

レベル:200

保有HP(ハウス・ポイント):6,000,000


強化対象:なし

~~~~~~~~~~~~


 10万近くのポイントを消費し、ついに、エマの拠点となる建物が完成した。

 もっとも外見上はさほど代わり映えしない。


(強化ってパッと見わからないからね。金運アップ強化とかって言われても、具体的に目に見える変化じゃないし)


 だからこそ、カスケードも実家も勘違いし続けたのだ。

 自分らが上り調子であるのは、自分たちの自身の力によるものだと。


 実際にはエマが家事を代行し、そのポイントで強化していたおかげで、彼らは偽りの栄光を享受できていたに過ぎなかった。


(ま、説明したんだけどね。私がやってるよって。その上で信じなかったんだから、今困ってても自業自得)


 600万分の強化がなくなったのだから、彼らの家が完全消滅するのは時間の問題だった。

 強化に頼って今まで生きてきたのだから、それがなくなれば滅びるのは必定である。


「疲れたし、今日はもう寝ようかな……」


 そのときだった。


「はぁ! はぁ……! そ、そこの君! 逃げるんだ!」


(子供……?)


 ボロ布を纏った子供が、こちらに向かって走ってくるではないか。

 子供はエマに気づくと、逃げるように促した。


 ただ事ではないことを、エマは瞬時に理解する。


「グロオォオオオ!」

「! 豚人オークの群れ……」


 豚人オーク

 デジマス2に出てくる魔物だ。


 二足歩行する巨大な豚で、肌は青みがかっている。


(これは普通より強い亜種。あの子ひとりじゃ太刀打ちできない)


「俺が囮になる! 君は逃げるんだ!」


 幼い声で、エマへ逃げるよう叫んでいる。


(自分が犠牲になって、私を生かそうとしてるのね……。立派な子。死なすわけにはいかない!)


「大丈夫! 早くこっちの建物の中へ!」


「なんだと!?」


「大丈夫だから、早く……!」


 子供は躊躇した後、エマの方へとかけだしてきた。

 エマは子供と一緒に、今自分がリノベーションしたばかりの建物の中へ駆け込む。


 遅れて、豚人オークたちが建物に近づいてきた……そのときだった。


 バチンッ……!

 雷が落ちたような音とともに、豚人オークたちが黒焦げになっていた。


「お、豚人オークが……一瞬で消し炭になっただって!? なんて強力な結界……一帯どうやって張ったんだ?」


「ただ、掃除しただけよ」


「掃除!? 掃除しただけで、結界なんて張れるわけないだろ!」


(普通はね。でも家事代行ハウスキーパーがあれば話は別。HPを消費し、「掃除強化」を施したの)


 強化したことで、彼女が掃除した範囲は単に清潔になるだけでなく、浄化の力が宿り、魔物を一切寄せ付けない絶対の安全圏となったのだ。


(言っても信じてもらえなさそうだし、詳細は言わないでおこう)


「凄い……貴方は高名な結界術師なのだな。礼を……ぐっ、ぐあぁあ!」


「ど、どうしたの……?」


「か、体が……あ、熱い……! ぐっ!」


 べきばき、と音を立てながら、子供の体が……みるみるうちに大きくなっていく。

 纏っていたぼろ布が、ぱさりと落ちる。


 ……そこには、180センチの、見事なイケメンが立っていた。

 だが、注目すべきポイントはそこではなかった。


「貴方……魔族ね」


 彼の側頭部からは角が生えていた。

 この世界で角の持つ者は魔族と分類される。


 遙か昔、この世界を破滅に導こうとした王、魔王の血族。

 それが……魔族。


 今は勇者によって滅ぼされて、その血脈も絶えたとされていた。


(ゲームでも魔族の残党がいたはずだけど……。でも、この子はどうして子供の姿だったの……?)


「すごい……俺に掛かっていた呪いが解けた」


「呪い……?」


「ああ。俺には子供の姿になってしまう呪いが掛かっていたんだ」


(なるほど……この絶対安全圏の結界には、浄化も強化付与しておいた。呪いが浄化されて、本来の姿に戻ったってこと……)


 魔族の少年は感極まった様子で、エマをぎゅっと抱きしめる。


「ありがとうっ! 助かったよ! 貴方は命の恩人だ! このヒューバート・ディ・ケラヴノスチアが、心からの感謝の言葉を贈らせてもらう!」


(ディ・ケラヴノスチアって……滅亡した魔族国の、王族じゃないっ)


 ……かくして、エマは追放された先で、魔王子ヒューバートと出会うのだった。


    ◇


 一方で、エマの強化が消えた実家、およびカスケードの家はというと……。


「地震で領内の水源が枯渇してしまいました!」


「疫病が蔓延して、治癒師が足りません! いかがいたしましょう!」


「農作物がまったく育たなくなってしまいました!」


 エマに強化してもらっていた要素が、一夜にして消え失せた。

 その結果、彼らは困り果て、やがて滅亡すの道をたどることになるのだが……それはまた別の話である。

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― 新着の感想 ―
今回も楽しく読ませていただきました。 先生の作品は、ちょっと金持ちの友達の家で出されたよく冷えたカルピスみたいな読み心地で大好きです。 今回もタイトルからなろうに期待する要素がテンポよく並んでいて最…
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