表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】 「誰でもヤらせてくれる」と噂の隣のギャル。実は超がつくほど家庭的で、毎日めちゃくちゃ甘やかしてくる  作者: 茨木野


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/65

38.

 文芸部の部室は、昼ご飯の良い匂いに包まれていた。

 奉太郎は聖華の作った弁当を見て、内心で舌を巻く。


(朝から、こんな手の込んだものを作るなんて……)


 色とりどりのおかず。米は冷凍やパックではなく、今朝方炊いたのだろう。

 ふっくらとたかれた米で作られたおにぎりが、ラップ巻きになっている。


「あっ、そうだ阿智くん。はいこれー」


 対面に座る聖華が、自分に向けて、パリッとした手巻き用の海苔を渡してきた。


「これは?」

「いっつじゃぱん海苔!」


 ……離れたところでこちらを見ていた深雪が、ハァと深々と息をつく。


「なぁに、みゆきん?」

「ジャパニーズ、ね」


「? あっ、あ、あ、あわわ……ううう~……」


 自らの間違いに気づいた聖華が、顔を真っ赤にさせる。


「高校生なのに……」

「うるひゃいっ」


 聖華から海苔を受け取るとき、偶然彼女と目が合った。彼女はふにゃりと笑って、奉太郎を見て笑った。


「何か楽しいことでもあったの?」

「阿智くんが笑ってるからっ」


「え……?」


 彼は初めて気づいた。自分の頬に触れてみる。確かに、口の端はつり上がっていた。自然と笑っていたらしい。


(なんで……?)


 困惑する奉太郎。今度は聖華もまた、不安そうな表情になった。


「何かあった……?」


 鏡みたいだ。

 奉太郎は聖華を見て正直にそう思った。


 自分の心を写す鏡。でも不思議なのは、彼女がいなかったら、笑うことも戸惑うこともなかった。

 聖華は、自分の中にある感情を引き出してくれる。それを写して見せてくれる。


「何も。海苔ありがとう」

「むぅ……」


 やはりさっき困惑していたことに対して、聖華は疑っているようだ。


「昼神さんって、ほんとに高校生? って思ってさ」

「あー! そういうこと言っちゃうんだっ。もー、阿智くんひどいー」


 花が咲いたように彼女が笑う。彼女の笑顔が癒やしとなる。それに奉太郎自身気づいていた。


「そんなこと言う阿智くんには、もうお昼作ってきてあげませんよーだ」

「あれ? 作り過ぎちゃったからお裾分けって、ていじゃなかった?」


「あわわわ……」


 コロコロと変わる表情。

 彼女という存在が、彼の乏しかった感情に起伏を与えてくれる。


 他者に自分を作り替えられる。しかしそこに、不快感はまったくなかった。

 もっともっと振り回して欲しいとさえ、思ってしまう。それはどうしてか。


 答えを口にすることは簡単だ。とてもシンプルな答えになる。

 だが、彼は言えなかった。たとえ、それが簡単な問題だとしても。


 誰も、人のココロなんて分からないのである。本心は分からない。


「昼神さん」


 好きだ。

 そう真っ直ぐ心の内を、言えない。


「面白いね」


 と思わず照れ隠しでそう言ってしまう。いわば逃げの一手。しかし。


「ふへー♡」


 笑ってくれる彼女が見られて、それで満足してしまう自分がいる。

 勇気が出せない自分の情けなさを上書きするほどの、確かな満足を。


 だから、今は本心を打ち明けられないのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ