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【連載版】 「誰でもヤらせてくれる」と噂の隣のギャル。実は超がつくほど家庭的で、毎日めちゃくちゃ甘やかしてくる  作者: 茨木野


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3/4

03.

 数日後。 夕方。阿智奉太郎の部屋のチャイムが、控えめに鳴り響いた。

 ガチャリと金属音がしてドアが開くと、そこにはタッパーの入った手提げ袋を抱えた昼神聖華が立っていた。


「やっほー! この間のお礼、持ってきちゃった!」


 パタパタと見えない尻尾を振りながら、聖華は満面の笑みを浮かべる。

 奉太郎は寝起きのようなくしゃくしゃの髪を掻きながら、目を瞬かせた。


「わざわざいいのに。つか、君、それ」

「ふっふーん。あたし特製のハンバーグだよ! 阿智くん、いつもコンビニ弁当ばっかりでしょ?」


 聖華がズイッと手提げ袋を突き出すと、奉太郎はのけぞるように身を引き、小さく息を吐いた。

 世の中に達観している彼も、押しが強いギャルの勢いには少しだけタジタジになっているらしい。


「とりあえず、上がれよ」

「お邪魔しまーす!」


 上がり込んだ奉太郎の部屋は、相変わらず無機質だった。

 ゴミ箱の横にはコンビニ弁当の空き容器や、ゼリー飲料のパックが無造作に積まれている。

 それを見た瞬間、聖華の胸の奥で、強烈な母性と乙女心がメラメラと燃え上がった。


 聖華は目をキラキラと輝かせ、すぐさまキッチンへと向かった。

 勝手知ったる様子で電子レンジを開け、持参したタッパーを温め始める。

 ブーンという低い稼働音が部屋に響き、やがてチンッと軽快な音が鳴った。


 フタを開けた瞬間、濃厚なデミグラスソースの香りが一気に広がる。

 肉汁がグツグツと沸き立つ音と、鼻腔をくすぐる香ばしい匂いが、殺風景な部屋をあっという間に温かい食卓へと変えていく。

 ほかほかの湯気が立ち上るお皿をテーブルに置くと、奉太郎は驚いたように目を丸くした。


「これ、君が作ったのか」

「そうだよ! 冷めないうちに食べて食べて!」


 聖華はテーブルの向かいに座り、両手で頬杖をつきながら前のめりになる。

 奉太郎は割り箸をパチンと割り、大きなハンバーグを一口大に切り分けた。

 そのまま口に運び、ゆっくりと咀嚼する。


 サクッとした表面の食感の直後、ジュワッと溢れ出す肉汁の音が微かに聞こえた。

 普段は感情の起伏が薄い奉太郎の動きが、ピタリと止まる。

 そして、張り詰めていた彼の空気が、フッと緩んでいくのがわかった。


「美味い」

「ほんと!?」


 短く、けれど心の底からこぼれ落ちたような声だった。

 奉太郎はもう一口、さらにもう一口と、無言のままハンバーグを口に運んでいく。

 その顔は、ただ温かい手料理にホッと息をつく、年相応の男の子の顔だった。


「君がいてくれて、助かる。こういう飯、久しぶりに食った」

「っ!」


 飾り気のない真っ直ぐな言葉に、聖華の顔が一気に熱を持った。

 嬉しさと気恥ずかしさで、ぷくっと頬を膨らませて必死に照れ隠しをする。

 だが、内心では歓喜のあまり胸が高鳴っていた。


「し、仕方ないなぁ! 阿智くん、栄養偏りすぎだし!」

「ん?」

「明日からも、あたしが毎日夕飯作りに来てあげる! 断っても無駄だからね!」


 ビシッと指を突きつけて宣言する聖華。

 しかし、奉太郎はハンバーグを飲み込むと、箸を置いて静かに首を振った。


「いや、それは断る」

「えっ」


 予想外の塩対応に、聖華はガックリと項垂れそうになる。

 奉太郎は達観したような、どこか冷めた瞳で真っ直ぐに彼女を見返した。


「たまに差し入れをもらうくらいならありがたいが、毎日はやりすぎだ。他人の君に、そこまでしてもらう義理はない」

「でも、阿智くんのご飯が……」

「同級生に家政婦みたいなことをさせるのは、どう考えてもおかしいだろ」


 きっぱりと、現実的な言葉で拒絶される。

 都合のいい女として扱おうとする他の男たちなら、間違いなく飛びつく場面だ。

 しかし、目の前の彼は違う。聖華の善意をきちんと受け止めた上で、人として正しい線引きをしてくれる。


 あ、駄目だ。こういうところも、すごくいい。


 甘えようと思えばいくらでも甘えられるのに、絶対に流されない。

 そんな誠実で達観した彼に、聖華の心はさらに深く打ち抜かれてしまった。

 嬉しさのあまり、思わず床に膝から崩れ落ちそうになるのを必死に堪える。


「わ、わかった……! 毎日作りにくるのは、やめとくね」

「ああ、わかってくれればいい」


 あっさりと引き下がった聖華を見て、奉太郎は納得したように再び箸を持った。

 だが、聖華の目は爛々と輝いていた。


 毎日は来ない。約束は守る。

 けれど、作りすぎちゃったからとか、スーパーで特売だったから手伝ってとか、理由をつければいくらでも上がり込む隙はある。

 こうして、現実的で塩対応な彼と、なんだかんだと理由をつけて世話を焼きにくるギャルのお隣ラブコメディが幕を開けた。


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