理解の範疇を超えると言葉に詰まるものです
「……伴侶?パートナー……?」
突然のジフィンさんの発言に固まりそうになるのを必死に堪えてどうにか最低限の言葉を返す。今日会ったばかりの自分にこの人は何を言っているのか。そう思う自分を前にジフィンさんが言葉を続ける。
「そうです。早くに妻に先立たれ、手塩にかけて育てた我が愛娘です。そんなあの子がハンターを目指すというのならば不安な思いがありつつも背中を押してやりたいと思うのが親心というものです」
そう言ってジフィンさんが言葉を切って空を見上げる。おそらくエタニアとの思い出を思い返しているのだろう。が、すぐに我に返ったのかこちらを見て口を開く。
「……ですが、ハンターという存在は知っての通り粗暴な者が多い世界です。それだけならばまだしも色欲に溺れる連中の多いこと。その辺りはアークさんもよくご存知でしょう?」
ジフィンさんのその言葉に頷くしかなかった。ジフィンさんの言う通り、国や人のためだけに気高く動くハンターというのは少数で、名誉や強さを誇示する者や己の私利私欲を満たす事を優先に動くハンターが多く存在するのは事実であった。結果的に国や民のためになっている点は否定出来ないため、ある程度の蛮行は見逃されているのが実情である。
「……そうですね。確かにそれは否定出来ないです。でも、それと自分がエタニアの……その、パートナーという話になるのかが分かりません」
自分の問いにジフィンさんが笑みを浮かべて言う。
「そこです。エタニアがハンターを志したと気付いてすぐ、私はあの子の夢を応援すべく親として動きました。武器の扱い方や立ち回り、道具の使い方や調合に始まり罠の仕掛けに至るまで私のハンター人生で教えられる事は可能な範囲で叩き込んできました。もちろん、あの子の成長に合わせて耐えうる可能な範囲で、ですがね」
ジフィンさんの言葉でエタニアの戦闘センスに合点がいく。幼少時から歴戦のハンターであるジフィンさんの手ほどきを受けていたのならあの戦いぶりも頷ける。
「なるほど。彼女があの若さであれだけ卓越したスキルを持っていたのかは分かりました。……ですがすみません。再度お聞きしますが何故そこで先程の話になったのかが分からないのですが……」
資質に加え本人の希望によってエタニアがハンターとしての道を進み、親であるジフィンさんの後押しとサポートによってそれを盤石のものとしようとする気持ちは伝わった。だが、何故自分にそんな話が来るのか。そう思っているとジフィンさんが口を開く。
「それは勿論、あの子を私の代わりに出来る限り側で導いて欲しいからです。アークさんも間近で見たからには分かるでしょう?天性の才に加え、私に似ず可憐な容姿。あの子は必ずや私以上のハンターになる。が、それも全ては周りの環境次第。朱に交わればとはよく言ったものです。あの子の資質を生かすも殺すも全ては今後が大切なのです」
早口でそう捲し立てるジフィンさん。その勢いは止まらずに更に続く。
「……本音で言えばあの子を外には出したくありません。ですが、ハンターを志すというならばそれは無理な話。ならば出来るだけ優秀かつ私が認める相手を傍に置きたいと常に思っておりました。強いだけではなく、目先の金や色欲に溺れずに後進を導ける者。そんな条件を満たすことの出来る相手を常に探していたのです。ようやくそれら全ての条件を満たしたのが貴方なのですよアークさん」
そう言うと同時にジフィンさんが自分を見ながらびしりと指を差してくる。その表情はどこか高揚しているように見える。……自分の中で憧れだけではなく畏怖や尊敬の念を抱いていた二つ名のハンターのイメージが音を立てて崩れていく気がした。
(……認めたくない。認めたくはないが……この人は……親馬鹿だ!それも重度の!)
現役を退いたハンターと会話を交わした事は一度や二度ではない。引退して父親や母親になった先人と話した事は何度もある。自分の子供を可愛がったり溺愛する者は幾度となく見ているが、ジフィンさんのそれは今までに見た事がないレベルのものであった。だが、そんな我が子のパートナー、ましてや伴侶などに指名されるという事態は当然だが始めての事だ。
「……申し訳ありません。僭越ながらその評価はかなり過大評価かと。昔とは違い今のギルドならば自分より優秀な者もいれば先程会話に挙がったテルマのように同性で誰もが認めるハンターもおります。そういった面々に育成も含めた指導を託すのが良いかと思いますが……」
ようやく冷静になりジフィンさんにそう言葉を返す。現役を退いた自分なんかよりももっと適任な存在がいるはずだ。だが、ジフィンさんは一歩も引かずに続ける。
「いいえ、かねてより貴方は我が娘を託すに相応しい存在ではないかと思っておりました。そして今回の事でそれは確信に変わりました。貴方であれば娘を一流のハンターへと導き、かつパルキン家の良き婿になると」
……これは不味い。話がどんどんおかしな方向に飛躍している気がする。困惑する自分をよそにジフィンさんの話は更に加速していく。最初こそ声を抑えていたものの、もはや周囲を配慮する気もなくなったのか大声で続ける。
「……はっ!もしやアークさんはエタニアとの年齢差を気にしておられるのですか?問題はありません!私と妻も貴方たちくらいの年の差はありました。あぁ、それとももしやアークさんは豊満な女性がお好みですか?それも心配ありません。確かに今は見ての通り慎ましやかな体躯ですが、私や妻の体型から考えれば数年先を見据えて貰えれば必ず今の貧相な膨らみもきっと大きく……」
ジフィンさんがそこまで言った瞬間、自分の視界からジフィンさんの姿が消える。同時に怒りに満ちた叫び声が周囲に響く。
「何を言っているんですのお父様ぁ――――っ!!」
言葉を遮るかのように全力の飛び蹴りをかましジフィンさんを蹴り飛ばし、顔を真っ赤にして叫ぶエタニアの姿がそこにはあった。




