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ギルド受付で働いてますが、攻略して欲しいのは自分ではなくクエストです  作者: 柚鼓ユズ


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どうやら入念な下調べをされていたようです

「……すみません。いきなりのお話で理解が追いつかないのですが……」


 黙ったままではいけないと思い、やっとの事でそれだけ口にする。


「あぁ、驚かせてしまったのなら申し訳ありません。実は、今回私がここに来たのは調査のためだけではないのですよ」


 そう言うとジフィンさんが周りをちらりと見る。自分たちの近くに人がいない事を確認して話を続ける。


「先に言っておきますが調査自体は本当です。ですが、本来ならば私が直接伺う必要はありませんでした。にも関わらず私がここに来た理由。それはアークさん、貴方に会いたかったからです」


 そう言ってジフィンさんが微笑む。かつて耳に伝え聞いた『粉砕者』と呼ばれる者とは思えぬ程の柔和な笑みだった。そう思っていると再びジフィンさんが口を開く。


「先程までのやり取りでもう分かっていただけたとは思いますが、娘のエタニアはハンターに対して強い憧れを持っております。親としてそれを否定するつもりはありません。いずれは本格的に学ばせて己の望む道に進ませるつもりではありました。元よりそのつもりでしたが……」


 そう言った後、ジフィンさんが複雑そうな表情を浮かべる。その意図を察して自分が口を開く。


「……ところが、既にエタニアがジフィンさんの想像を超えて動いていた訳ですね」


 自分の言葉に頷きながらジフィンさんが続ける。


「はい……まさかあの子が陰でハンター許可証を取得しているというのは予想外でした。我が娘ながらそこまでの行動力があるなどとは思いませんでした。親の欲目ではありませんが、娘には才能があるのは確かだと思います。あの子は今後伸びると思います」


 そう話すジフィンさんの表情から察するに、戸惑い半分喜び半分といった所だろうか。娘の成長と行動に喜びの中に困惑した様子が伺える。


「……ですが、私は既にハンターを退いた身。ましてや親である私があれこれ手を焼けばあの子はかえって反発するでしょう。そんな時に貴方の話を耳にしたのです。お顔こそ存じ上げていませんでしたが、かつて『月光陽光』を率いた男がこの街にいると」


 そう言ってジフィンさんが自分の方を見て言う。


「私たちの世代が一線を退く事を考え、若く優秀な連中へ後塵を託す事を考えていた際に数々のハンターの名前を挙げました。その時に私だけではなく、二つ名を称した者たちの大半から貴方の名前が挙がりましたよ」


 その言葉に自分が口を開くよりも早く、ジフィンさんが更に続ける。


「ですが、ある時を境に貴方の活動記録はぱたりと途絶えた。同時に歴代最強のクランとの呼び名だった『月光陽光』の解散の知らせは一部の界隈でも騒ぎになりました。……あるクエストに挑んだ際に、メンバーの一人が亡くなった事がきっかけだという事をとある筋から聞いた時には貴方は既に国を離れていました」


 ……ジフィンさんの言葉に開きかけた口を閉じる。そう、あの時の自分は後悔と苦悩に苛まれ、クラン解散を宣言した後逃げるように国を飛び出した。気付けば師匠の元へと辿り着き、しばしの間廃人のような生活を送っていた。


(……もしもあの時、クランのメンバーや国の連中が自分を無理に引き留めたりしていれば俺は完全に壊れていただろう。師匠の元で過ごしたあの時間がなければ今こうして人前に立つ事は出来なかった)


「……すみません。情けない話ですが自分はあの事をきっかけにハンターである事を辞めた身です。ですので、せめてこうして地方で後進の育成に励もうとしている次第です」


 自分の言葉にジフィンさんが優しく笑みを浮かべて言う。


「えぇ。それはよく分かっています。だからこそ名前を聞いた瞬間に貴方があのアーク=ペンレッドだと気付きましたが、少し様子を見させていただきました。もっとも、私の事を存じていただいていたようなので、少し強引な形で私のお願いを聞いていただく形になりましたがね」


 そう言ってジフィンさんが軽く頭を下げる。慌ててジフィンさんに声をかける。


「いえ、頭を上げてください。自分はただギルドの職員としての職務を全うしようとしただけですので……」


 自分の言葉にジフィンさんがすぐに顔を上げて言う。


「やはり、貴方は噂通りの人物でした。実はイアトラを介してクエストの一部始終は伺っております。貴方がいなければあの子の未来は間違いなく変わっていたでしょう。少なくとも今のように心からの気持ちで上を目指すようにはなっていなかったはずです」


 そこで一旦言葉を切り、こちらを真っ直ぐ見つめてジフィンさんが言葉を続ける。


「実はここに来る前に、貴方のこれまでの事情はとある人物から聞いておりました。貴方もよく知るテルマ=テリーナ君からね」


 テルマの名前が出たことで自分が驚いていると、ジフィンさんが慌てて続ける。


「あぁ。誤解しないでくださいね。彼女の方から貴方の話を切り出した訳ではありません。尋ねたのは私のほうからです。むしろ、最初の頃は貴方の事に関して言葉を渋っていたくらいです。彼女とは別口で貴方の情報を耳にしたと伝えてようやく口を開いてくれた次第です」


 そう話すジフィンさんに、心当たりを思いついて声をかける。


「……もしかして、自分の話がジフィンさんに届いたのはこの街の新人ハンター連中から……でしょうか?」


 自分の言葉にジフィンさんが頷く。


「その通りです。これでも顔は広い方でしてね。どうした訳かこれまで様々な方面に手を回しても不思議と貴方の情報は出てこなかった。それがここ最近になって突如話が舞い込んで来ました。あの伝説のクランのリーダーが地方の街で受付として働いているとね」


 ……やはりか。ジフィンさんや他の者たちに情報が届かなかったのはテルマが自分の意を汲んでいてくれた事もあるが間違いなく師匠の手によるものだろう。が、師匠が気にも留めていなかった新人のバンツたちの一件で当人たちをはじめ他の連中からも話が広まったのだろう。


(……口止めをするつもりはなかったし、クエストに同行する訳ではないから構わないと思っていたのが悪かったな。テルマにしてもジフィンさん程の人に聞かれたら答えざるを得ない。それに、未だに自分に対してそこまで注目されるような事があるとも思っていなかったからな)


 そもそも、ジフィンさんのような二つ名を持つハンターの面々が自分の存在を認識していてくれた事ですら驚きの事態なのだ。あくまで当時の自分は第三者の評価よりも高みを目指してがむしゃらに動いていただけなのだから。


(それに関しては光栄だし、あの時の時間が無駄ではなかったと思える事が救いだ。ただ、気になるのは……)


 一線を退いたといえ、仕事柄国に携わるであろう仕事をしているジフィンさんが何故そんな噂程度で自分の事を確かめに来たのか。そして、テルマから何を聞いたというのか。考えれば考えるほど気になる事ばかりである。


「……お話は分かりました。こちらからもお聞きします。自分を勧誘したい理由は何故ですか?」


 そうジフィンさんに尋ねる。ハンターの復帰もここから移動しての勤務も考えてはいないが、ジフィンさんが何故それを望むのか。それが気になった。


(申し訳ないが申し出を受けるつもりはない。だが、わざわざ自分に会いに来てそれを確かめた上で改めて言う理由が知りたい)


 ジフィンさんほどの人がそこまでする理由は何なのか。まずそれだけは聞きたかった。


「……そうですね。貴方には正直にお伝えしなければいけませんね。では……お話しします」


 いったいどんな真意があるのだろう。思わず唾を飲み込みジフィンさんの言葉を待つ。そして、ジフィンさんが一呼吸置いてから口を開く。


「私の可愛い一人娘であるエタニア……貴方にはその未来を共に歩むパートナー、そして伴侶になってもらいたい。なので、まずは貴方をパルキン家に迎えて今後の事を考えていただきたいのです」


 ジフィンさんの突然の申し出に、開いた口が塞がらなかった。


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