意外なところでも繋がりは生まれるようです
「はぁ……はぁ……や、やったのだわ!」
巨大鳥が絶命したのを確認し、その場にへたり込みながらエタニアが言う。その横に駆け寄り冷たい水の入ったボトルを差し出しながら声を掛ける。あれだけ叱咤した後で今更敬語を使うのもあれかと思い、普段の口調で話す事にする。
「お見事だ。立ち直ってからの動きは及第点どころかほぼ満点だ。何度か攻め時を逃したとはいえ、自身のダメージを最小限に抑える立ち回りは他の新人の槍使いのお手本にしたいくらいだったよ」
受け取った水を勢いよく飲み干し、すっくと立ち上がると開口一番エタニアが興奮したように叫ぶ。
「貴方……いえ、アーク先生のおかげなのだわ!あの一喝がなければ私は立ち直るどころか諦めていたのだわ!」
興奮が収まらないのかエタニアの言葉は止まらず、捲し立てるように更に続く。
「それだけじゃないのだわ!その後の的確なアドバイスといい、アーク先生はいったい……はっ!」
そこまで口にしたところでエタニアが何かに気付いたようで慌てて周りを見渡す。
「……イアトラっ!イアトラは何処なのだわっ!は、早く手当てをっ!」
我に返り自分を庇ったイアトラさんの事を思い出したのかエタニアが叫ぶ。
「……大丈夫ですよ。イアトラさんなら……」
自分がそこまで言いかけたところで後ろから声がかかる。
「お見事でしたお嬢様。やはり、血は争えんというところですな」
その声に振り返ると、イアトラさんが口元に笑みを浮かべて立っていた。
「え……えっ?イアトラ?」
状況を理解出来ていないのか、呆気に取られた表情でエタニアが呆けた声で言う。イアトラさんが笑いながら続ける。
「仮にも上級と称されるBランクに身を置く立場です。下位の巨大鳥の火球程度なら一発や二発、どうって事ありませんよ」
それを聞いてあんぐりと口を開けてその場に立ち尽くすエタニア。代わりに自分が会話を引き継ぐ。
「やっぱりそうでしたか。最初は気付きませんでしたが、避難させた時の様子でそうではないかと思っていましたよ」
そう自分が言うと、苦笑しながらイアトラさんが自分に頭を下げる。
「申し訳ありませんアークさん。お嬢様の気持ちの度合いを確かめるためとはいえ、貴方まで巻き込んでしまう形になってしまって。……とはいえ、やはり貴方の目は誤魔化せなかったようですね」
頭を下げたままそう話すイアトラさんに慌てて声を掛ける。
「頭を上げてくださいイアトラさん。何か理由があっての事だとは思いましたので。その理由も今こうして分かった訳ですし、俺の方は問題ありませんので」
自分の言葉にイアトラさんがようやく顔を上げる。自分の方を見ながらイアトラさんが口を開く。
「……申し訳ありません。不測の事態にお嬢様がどう対応するのかをぎりぎりまで見極めたいと思いまして……それにしても流石、かつてあの『月光陽光』を率いたハンターですね。噂で聞いていた貴方の実力の片鱗だけでも見られて良かったですよ」
イアトラさんの言葉に思わず声を上げる。
「……イアトラさんもご存知だったんですか。ジフィンさんが知っているという事はイアトラさんが知っていてもおかしくないかとは思っていましたが」
そう自分が言うとイアトラさんが笑いながら言う。
「今でこそパルキン家に仕える身ですが、これでも現役のハンターです。貴方が思っている以上に貴方の名前と実力は未だ語り継がれておりますよ?この歳でありながら先程の貴方とお嬢様のやり取りは見ていて昂るものがありました」
……ついつい本気でエタニアに語っただけに、第三者の目線から改めて言われてしまうと恥ずかしい。そう思っているとイアトラさんが更に続ける。
「……貴方がどういった理由で現役を退く事になったのかは存じませんし、詮索する気はございません。ですが、未だに年齢性別を問わず貴方を慕う者たちがいるという事は胸に留めておいてください」
イアトラさんがそこまで話したところで、我に返ったらしいエタニアが自分の元へと駆け寄ってきたと同時に叫ぶ。
「も……もしかしてアーク先生があの伝説のハンターなの!?で……でも、ここに書かれている手記とは名前が違うのだわ!?」
そう言ってエタニアが自分の方へ手記を突き出してくる。思わずその手記を受け取り、開かれたページに目を通す。ぱらぱらと読んでいくと、そこには自分たちのクランがかつて挑んだクエストや達成したと思われる功績が記されていた。
「……うん?確かにここに書かれているのは自分たちの事みたいだが……微妙に名前や容姿の特徴が変えられているような……」
そう口にしたところで記憶が蘇る。確か、自分たちのクランが全盛期の頃にとある女性から密着取材の依頼を受けた事があったのを思い出した。
あまり自分たちの活動が悪目立ちするのも嫌だったので最初は皆で断っていたのだが、土下座や泣き落としに始まり、その懇願に根負けして結局はその依頼を引き受けたのだ。
『引き受けてくれて感謝っす!皆さんの個人情報には極力配慮するっす!』
そんな事を言われて数回クエストに同行された事がある。時期や内容を見るにその時の事をこうしてまとめたものがこの手記なのだろう。確かに詳細はそれなりに事実と第三者からの視点を織り交ぜ最低限の読み物として成り立つような形でまとめられている。
(……だが、配慮すると言っていた個人情報に関してはお粗末なものだ。本当に名前を変えただけだったり一人称を変えただけに過ぎない。この本が話題にならずに世に埋もれたのも納得って奴だ)
そんな手記の一つが何故かエタニアの手元に渡り、奇しくも彼女の指標となった事には驚きだが結果的に一人の将来有望なハンターが生まれるきっかけになったのならあの時の取材はある意味無駄ではなかったと思う事にする。
「……じゃあ、やっぱりアーク先生が私の憧れのハンターだったって事?……これはもう運命なのだわ!そんな人に偶然とはいえ私の初陣を見てもらえたなんて!」
そう叫びながらエタニアが両手を合わせ、こちらをきらきらと潤んだ瞳で見つめる。
「……いや、はじめに断っておくけれどそこに書かれた事はあくまで昔の話で、今の自分はもうただの受付な訳で……」
その後も興奮が冷めやらぬといった様子のエタニアをイアトラさんと二人がかりで宥めてどうにか落ち着かせ、ひとまず巨大鳥の素材を解体させてキャンプに戻るまでにかなりの時間を要する事となった。




