覚悟を決めた人の強さは確かです
「……っ!!」
自分の強い口調にびくりと身構えてしまうエタニア。……しまった。つい昔の調子で叫んでしまった。ここで自分までエタニアを萎縮させてしまってはいけない。冷静になると同時に巨大鳥の様子を確認する。
幸い、先程の自分の薙ぎ払いと今の叫び声が向こうにとって牽制となったようでこちらに警戒の構えを向けているもののすぐに襲いかかってくる様子はない。改めてエタニアに今度は口調を抑えて問い掛ける。
「……立派なハンターになりたいと言ったな?君のその気持ちが本物なら今すぐ武器を構えろ。そして、自分自身であの巨大鳥を討伐して見せるんだ。……もし無理だと思うなら今すぐこの場でリタイアを宣言するんだ。そうすれば今すぐあいつは俺が仕留める」
このランクの巨大鳥ならば亜種だろうと原種だろうと自分なら仕留める事は容易い。だが、その前にエタニアの覚悟を聞きたかった。
無理は決してさせられないが、自分が有無を言わさず仕留めてしまえばエタニアの成長はここで止まってしまうだろう。そう思い更に続ける。
「ハンターになればこんな事態は日常茶飯事だ。目的の魔獣と戦闘中に他の魔獣が乱入する事もあるし、場合によってはもっと格上の魔獣や未知の存在と対峙する事だってある。そんな時こそ冷静に対処する判断力と精神力が必要とされるんだ」
自分の問いかけに沈黙を保ったままのエタニア。牽制のために剣を軽く振るう。再び小さな風を起こし、巨大鳥との距離を保つ。
「強制はしない。実際にクエストに出て壁にぶつかりハンターの道を断念する者は少なくない。そうでなくとも生き延びるため、次に繋げるために一時撤退やリタイアという選択肢だってある。取り返しのつかない事になる前にその判断を選ぶ事は決して間違いじゃない」
エタニアの肩がぴくりと動く。巨大鳥の動きが再び激しくなる。先程程度の牽制ではもはや恐れずこちらに向かってくるのは確実である。時間稼ぎも限界かと思ったその時、後ろからエタニアの声が響く。
「……やるのだわ……いえ、やりますっ!やらせてくださいっ!」
そう答えるエタニア。覚悟を決めたのか先程までとは表情がまるで違う。
「……分かった。くれぐれも無理はしないように。これ以上の手出しはしない。及ばずながら後ろでアドバイスだけはさせて貰うよ」
エタニアが頷くのを確認して後ろに下がる。槍と盾を構えるエタニアに声をかける。
「いいかい?亜種とはいえどあくまで巨大鳥。槍使いにとっては相性の良い相手だ。火球を吐く以外は原種と大きく変わらない。巨大鳥の行動パターンを念頭に置きながら火球だけは確実に回避するか、盾でしっかりガードする事を意識して戦うように」
そう自分が言うと、エタニアが大きく叫ぶ。
「はいっ!了解なのだわアーク先生っ!」
……いきなりの先生呼びに、思わずテルマの顔が浮かぶ。だが今はエタニアに目の前の巨大鳥を仕留めさせる事を優先する。幸い、先程までの様子を学習していたのか巨大鳥は自分ではなくエタニアの方に狙いを定めたようだ。すかさずエタニアに向かって叫ぶ。
「標的をしっかり見ろ!今、首を下げたのが分かるな?あれが突進に入る前の構えだ!回避かガードの用意!」
そう自分が叫ぶよりも早く、腰を落としてエタニアが眼前に盾を構える。どうやらガードを選択したようだ。
(賢明な判断だ。槍使いはどうしても剣よりも動きが鈍くなる。まずはガードで向こうの突進を受け止め距離を詰める事にしたか)
自分がそう思った次の瞬間、予想通り巨大鳥がエタニアに向かって突進を開始する。だが、そこで自分の想定外の出来事が起こる。
「……はああぁっ!!」
何と突進を盾でしっかりと受け止め、エタニアが槍でカウンターを放つ。あの小さな体躯で突進を受け止めたのも驚きだが、完璧なタイミングで放たれた一撃が巨大鳥の翼を貫き風穴を開ける。
「――――!!」
巨大鳥が悲鳴を上げる。繰り出された一撃は巨大鳥の翼の一部を的確に破壊した。これで羽ばたいてのエリア移動はまず不可能だろう。良い意味で自分の予想を裏切る一撃であった。
(……こいつは驚きだ。あの状態から立ち直っただけでも上出来なのに、いきなりこの立ち回りか。こりゃ、将来有望だな)
内心の驚きを隠すように、次の指示をすかさずエタニアに向かって叫ぶ。
「よくやった!これで向こうは飛んで逃げるのは困難になった!とはいえ、まだ致命傷には程遠い。引き続き火球に気を付けてダメージを蓄積させろ!火球を吐き出すには嘴の動作が必要だからなるべく嘴の部位破壊を狙え!ただし、間に合わない時は回避とガードを意識するように!」
自分の言葉に頷きながら、果敢に巨大鳥に向かうエタニア。槍使いの本領発揮といわんばかりのインファイトで張り付くように巨大鳥に攻撃を仕掛ける。荒削りな部分はあるものの、被弾を最小限に抑えつつダメージを与えていく。
(……これが本来のエタニアの実力か。普段の実力を常に発揮出来るのなら二つぐらいは即座に上のランクに上がれるだろうな)
水を得た魚のようにヒットアンドアウェイを繰り返し、着実に巨大鳥を攻めていくエタニア。大技で反撃を試みるも盾で弾かれ、逆にカウンターを喰らう巨大鳥。やがてスタミナを奪われ疲労したのか巨大鳥の首がだらりと下に落ちる。
「……今なのだわっ!」
その隙を見逃さなかったエタニアの渾身の突きが炸裂し、巨大鳥の嘴を打ち砕く。これで火球を吐く事はもはや不可能だ。同時に地面に思わず巨大鳥が倒れ込む。それを見てエタニアが大声で叫ぶ。
「これで……トドメなのだわっ!!」
次の瞬間、エタニアの槍が巨大鳥の脳天へと勢いよく突き刺さった。




