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ギルド受付で働いてますが、攻略して欲しいのは自分ではなくクエストです  作者: 柚鼓ユズ


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新人を諭しつつ当時に思いを馳せます

「狙い通り……なのだわっ!」


 勢い良く突き刺した槍を即座に引き抜きながらエタニアが叫ぶ。突然の不意打ちに、反撃も出来ずに地面に岩石獣が倒れ込む。その隙を逃さず再度エタニアが槍を構えて追撃を仕掛ける。


(良い判断だ。闇雲に攻めるのではなく、一度距離を置いて肉質の柔らかいところを狙い追撃を狙う。剣や槍とは相性の悪い岩石獣との戦いとしては模範的な戦い方だ)


 もちろん、この一度の攻防で仕留められるほど魔獣も弱くはない。起き上がり痛みと怒りで突進を仕掛ける岩石獣だが、ステップを織り交ぜた回避と右手に装着した盾で受け止め着実に岩石獣の体力を削っていくエタニア。ここまでくれば討伐は時間の問題だろう。


「これで……とどめっ!!」


 その後も着実にダメージを与え、岩肌を砕き肉質が柔らかくなった岩石獣の脇腹にエタニアの槍が深々と突き刺さる。その一撃で岩石獣の動きが止まり、完全に絶命する。


「はぁはぁ……やった……のだわ……!」


 息を荒くしながらエタニアが言う。その声に緊張と疲労の色は見えるものの、初めての討伐が成功した事に喜びが伝わる。


「お見事です。さぁ、次は素材の回収のために仕留めた野獣の解体と剥ぎ取りを行って貰いますが……大丈夫ですか?」


 エタニアの呼吸が落ち着くのを待ってからそう声をかける。すぐに懐から例の手記を取り出しぱらぱらとめくりながら答える。


「問題ないのだわ!ここに書かれた通りの解体手順は頭に叩き込んであるのだわ!えぇと……まずは筋肉の繊維の部分を断ち切って……っと……」


 そうつぶやきながら黙々と解体と剥ぎ取り作業を進めるエタニア。その手付きは軽やかで迷いがない。


(本当に凄いな。いくら事前に勉強していたとはいえ、いざ亡骸を目の当たりにすると手が震えたり思うように剥ぎ取りが出来ない者の方が多いのに。並大抵の努力や度胸がなければこうはいかないぞ)


 感心していると作業を終えたエタニアが自分に声をかけてくる。


「お待たせしたのだわ。さ、後処理も終えたし次のターゲットの捜索に向かうのだわ」


 討伐から剥ぎ取りまでの流れを終えたばかりだというのに、その様子からは疲労の色は感じられない。この華奢な体のどこにそんな体力があるのだろうか。


(……やはり、父親譲りの天性の才能って奴か。それに加えて本当にこの日のために鍛錬と勉強を重ねてきたんだろうな)


 そう思いながらも一人で岩石獣を相手した事を考慮し、解体後の後処理の確認を済ませた後にエタニアに声をかける。


「急ぐ気持ちは分かります。ですが、少し落ち着いてください。体力の消耗や日の高さを考えるとこのまま捜索を続けるのは得策ではありません。幸い、エタニアさんが想定以上の早さで岩石獣を仕留めたので時間には余裕があります。ここは一度ベースキャンプに戻り、体勢を整えてから捜索に向かいましょう」


 自分の言葉にイアトラさんも続く。


「アークさんの仰る通りですお嬢様。今から巨大鳥の捜索を始めたら日が暮れてしまいます。夜間の移動は視界が悪い上に体力を消耗します。加えて、岩石獣と違い巨大鳥は空を飛び移動する事が可能です。せっかく見つけたのに目の前で移動されるという事も充分に考えられます。ここは一度体を休めて向かうのが最善かと」


 自分たちにそう言われ、渋々ではあるもののそれを受け入れるエタニア。表情から納得していないのは丸分かりだがこれ以上己の意見を通すつもりはないらしい。


「……二対一という訳ならここは素直に従うのだわ。それに、この手記にも書かれてあるのだわ!『上手くいっている時ほど冷静に、仲間の声に耳を傾けるべき』と」


 エタニアのその言葉に、どこか聞き覚えがあったが今は彼女の気が変わる前にベースキャンプへ戻る事を優先する。そうして無事に暗くなる前に野営の準備を済ませる事が出来た。


「……うん、美味しいのだわこの肉。それに携帯食料も熱を通すだけで味わいが全然違うのだわ」


 ベースキャンプに戻りがてら狩った草食獣の肉を焼き、温めた携帯食料のスープを啜りながらエタニアが言う。


「ですよね。本来なら急場の水分と空腹を埋めるための栄養補給のためのものですが、火で温めて少しの塩と香草を入れるだけで随分とマシになりますからね」


 スープのお代わりをエタニアに注ぎながら言葉を返す。隣で黙々とスープを口に運んでいたイアトラさんが口を開く。


「……驚きました。今は味もここまで向上しているのですね。いえ、アークさんのひと手間で美味しくなっているのは勿論なのですが、携帯食料の味自体が私のハンター全盛期だった時よりも旨味も風味も強い気がします」


 イアトラさんの言葉に自分も全力で頷きたくなる気持ちを抑える。当時の携帯食料は手軽さと最低限の栄養素を満たす事を最優先に作られていたためお世辞にも美味いと言える代物ではなかった。ギルド側の日々のたゆまぬ努力と試行錯誤によってここまで改善されたのだと改めて思った。


(……実際、最初の頃はクエストでの道中で空腹を満たすためだけの存在だったからな。今のハンターは塩味も甘味も当たり前に感じられる食料が配布されることにもっと感謝するべきだ)


 そんな自分の思いはつゆ知らず、肉とお代わりのスープを平らげて満足げにエタニアが口を開く。


「ふぅ……ご馳走様なのだわ。携帯食料なのに想像していたよりも美味しくて驚いたのだわ」


 少し上機嫌なエタニアに少しだけ意地悪な返答をする。いや、実際にハンターを続けるのなら遠くない内に体験するであろう事ではあるのだが。


「今回は最初から支給品もありますし、ベースキャンプに簡単に戻れるからこそ、ですけどね。場合によっては火も起こさずにその場で狩った生肉に齧り付いて空腹と水分不足を補う事だってありますよ」


 自分の言葉にイアトラさんも乗ってきたのか会話に加わる。


「そうですね。食料が尽きてどんな副作用があるかもしれないキノコに噛り付いた時の記憶は生涯忘れられないですね」


 そう話すイアトラさんと話が盛り上がり、生きるか死ぬかの食糧事情を乗り切った話に花が咲く。毒と分かっていても空腹を乗り切るために毒草を口にした辺りのくだりでエタニアは引いていたようだが、思っていたよりも饒舌にイアトラさんが話すため会話がしばらく続いた。


「お……思っていたよりも過酷なのだわ。次からはしっかり食料を持参してクエストに臨む事にするのだわ」


 そうエタニアが口にした瞬間、気配を感じて思わず空を見上げる。自分のその様子を見て二人も自分と同じ方向に視線を向ける。


「あれは……巨大鳥……?」


 ベースキャンプからそう離れていないエリアの先に、大きな翼をはためかせ着地しようとする巨大鳥の姿がはっきりと見えた。


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