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「えっと……クエストに……ですか?いきなりどうしたんでしょうか」
エタニアの発言に呆気に取られながらもそう聞き返す。
「そうなのだわ!今回私がここの調査に同伴したのはクエストに行くのが目的だったのだわ!さぁ!今すぐクエストを申し込ませて貰うのだわっ!」
そう言って受付の前に立つエタニア。我に返って慌ててエタニアに告げる。
「その……エタニアさん?クエストに向かうにはまずハンター許可証が必要でして……」
そう言いかけたところで追いついてきたジフィンさんが口を開く。
「はぁはぁ……そうですよエタニア。クエストに行きたいと口で言うのは簡単ですが、正式に認定された許可証が無ければクエストに行くのは不可能ですよ」
ジフィンさんがそう言ったと同時、エタニアが懐から誇らしげに何かを取り出す。
「ふふん!そんな事は先刻承知なのだわ!私に抜かりはないのだわ!」
そう言ってエタニアが取り出したのはなんとハンター許可証であった。紛れもなく本物の許可証である。
「……エ、エタニア!?あなた、いつの間にそんなものを取得していたのですか?」
ジフィンさんが驚いたように言う。その反応を見るに、ジフィンさんにも黙って取得していたのだろう。
(……凄いな。許可証が取得出来る時点でただのお嬢様じゃないな。流石ジフィンさんの娘って事か)
命に関わるためある程度の知識に技術、そして力を求められるのがハンターである。それら全てが最低限の基準を満たしていなければハンターとしては認められない。ただの力自慢や頭でっかちではハンターのスタートラインにすら立てないのだ。
「……問題ありませんね。本物です。なので受注及びクリア回数はゼロなので上位ランクのクエストは受けられないですが、初級のクエストは受注が可能です。あくまで可能というだけですが」
そう自分が言うと、エタニアが懐から一冊の手帳サイズの本を取り出して叫ぶ。
「構わないのだわ!千里の道も一歩から!私はこの手記に記された方のようにいつか立派なハンターになるのだわ!お父様よりもここに書かれた方よりも!」
エタニアの手にした手記に視線をやる。そこには『あるハンターの記録』と書かれている。安上がりな装丁の具合からおそらく自費出版の類なのだろう。それを大事そうに抱えてエタニアが続ける。
「無名の新人が少しずつ頭角を表して、名だたるハンターを追い抜く下剋上!誰もが無理だと思っていた大型魔獣を僅か数名で討伐して成り上がるサクセスストーリー!この手記を読み私は震えたのだわ!ハンターこそ私の夢であり憧れなのだわ!」
そう力強く語るエタニア。よほどハンターに強い憧れがあるのだろう。そう思っているとエタニアが自分の方を見て言う。
「さぁアークさん!クエストを受注するのだわ!火炎龍に氷河獣、雷光獣に毒液鳥!何でもどんと来いなのだわ!」
そう言って許可証を自分の元に差し出す。それを受け取りながらゆっくり言葉を返す。
「あの……すみません。エタニアさんはまだそのクエストをどれも受注出来ないんですが……」
恐る恐るそう口にする自分に、エタニアが目の前で口を開けたまま固まった。
「……へ?」
固まったままのエタニアに言葉を選んで声をかける。
「えぇと……先ほども申し上げたのですがエタニアさんは確かに許可証をお持ちです。ですが、クエストのクリア回数がゼロなので受注出来るクエストに制限があります。なので実績を積まなければ今おっしゃったような連中のクエストには行けないですね」
自分の言葉にエタニアがショックを受けている。昔は今より規則が緩く、クエストの受注に関しては大まかだった時代があったのだがそれにより多くの犠牲者が出たことにより今はクエストに向かう際に厳しい審査が設けられる事となった。自分が現役の頃はちょうどその端境期だった事もあり鮮明に記憶に残っている。
「……つ、つまり私はクエストに行けないという事なの!?ど、どうしたら良いのか詳しい説明を求めるのだわ!」
慌てるエタニアにゆっくりとクエストの流れを説明する。
「……はい、では一から説明させて貰いますね。まず、ハンターとしてクエストに出る事は現時点でも可能です。ですが、エタニアさんが先程言っていた類の魔獣の討伐クエストを受けるためには規定のクエストをクリアしてランクを上げる必要があります」
自分の言葉に即座にメモを取るエタニア。見た目に反してかなり勤勉なようだ。ペンの動きが止まったのを確認してゆっくりと説明を続ける。
「……そうして、ギルドの認定を経てランクが上がる事でようやく様々なクエストを受注する事が出来ます。エタニアさんが先程挙げた魔獣を全て受けるためには最低でもCランクまで到達するのが最低条件ですね」
そこまで自分が説明を終えると、再び手記を見ながらエタニアがつぶやく。
「そんな……この手記ではそんな事は書かれていなかったのだわ。クエストに出て数度の失敗を経たものの、その後は短期間で火炎龍をはじめ様々な龍種や魔獣を討伐しているのだわ……」
おそらく今のようにランク制度が明確化される前に記されたものなのだろう。最近のものではなくやや昔の手記だと推察する。
(……懐かしいな。俺も自分の実力を過信してろくに準備もせずに大型獣の討伐に挑んで返り討ちにあった事もあったな。あの時は本当に死ぬかと思ったし、初めて火炎龍を仕留めた時は勝利の雄叫びを上げたもんだ)
そんな事を思っているとエタニアが言う。
「で!でしたら今の私でも受けられるクエストを教えて欲しいのだわ!素材採取のようなクエストではなくれっきとした討伐クエストで!」
……困った。許可証がある以上本人の申し出を断る事は難しい。身の丈に合わないクエストを受けようとしたバンツたちの時もかなり苦労したのだ。
「……現時点で受注可能なモンスターのクエストをご希望という事ですか?調べてみますので少々お待ちください」
あまりの勢いにそう返したものの、本当にこのままクエストを受けるつもりなのだろうか。ハンターの基準は満たしているとはいえ、初クエストをこの場の勢いで受ける流れになっても良いのかと疑問に思っていると、ジフィンさんがこちらにそっと近寄り声をかけてくる。
「……うちの娘が申し訳ありません。お手数ですがここは娘の申し出を聞いていただけないでしょうか」
ジフィンさんのまさかの申し出に思わず顔を上げた。




