適材適所な人員配置は大事です
「わ、私の才能……ですか?私にそんな才能があるんですか?」
自分の言葉にリモが不思議そうに言う。
「うん。君の味に関する知識や感覚はこの先絶対仕事に活かす事が出来る。論より証拠だな。……まだ時間はあるな。おばちゃん。ちょっと厨房を借りるよ」
そう言って厨房に入り支度をする。急ぎ足で準備を終えて二人の元へと戻り、二人の前に自分が用意したものを並べる。
「これは……スープかい?」
目の前に湯気を立てる熱々のスープを見ておばちゃんが言う。説明するためにスプーンを差し出しながら二人に言う。
「まぁまぁ。まずは飲んでみて。あとで詳しく説明するからさ」
自分の言葉にスープを口に運ぶ二人。半分ほどスープを飲んだところでおばちゃんが口を開く。
「……うん。美味しいスープだね。やっぱりアークちゃんが厨房にいてくれると助かるよ。でも、これがいったいどうしたっていうんだい?」
そう口にするおばちゃんに答えるより先に、スープを完食したリモに声をかける。
「リモ。君に質問だ。今のスープに使われていた食材を言えるかい?出来れば、使用した調味料やスパイスも分かる範囲で答えて欲しい」
自分の問いにリモが少し考えてから口を開く。
「え?えぇと……人参に玉ねぎ、じゃがいもとトマトがベースですが、そこにすりおろした香草が入っていました。スープのベースは牛肉と野菜のだし汁で、そこに使われた野菜は……」
すらすらと使用した食材を答えていくリモ。おばちゃんが呆気に取られている中、更に細かな材料にも触れていく。
「……最後に、胡椒とすりおろした物とは別の香草を乾燥させたものを振りかけたもので全部かと思います。とっても美味しいスープでした。ご馳走様ですアークさん!」
そう言って笑うリモ。そんなリモにおばちゃんが興奮しながら声をかける。
「凄いじゃないかリモちゃん!あたし、長い事この仕事をやっているけどそんな風に明確に食材を言い当てる事なんて出来ないよ!あんた凄いんだねぇ!」
リモの手を握りぶんぶんと振るおばちゃん。続けて自分も拍手をしながらリモに声をかける。
「うん、完璧だよ。想像以上だ。特にスープに使われただし汁の野菜に関しては急だったから厨房のストックを使わせて貰ったから作った俺でも正確には分からない。調味料とスパイスに関しては全問正解だ。隠し味程度にほんの少し入れたものまで正確に言い当てられるとは思わなかったよ」
『食』に関するスキルというものは数々存在する。口にすることで常人とは異なる効果を発揮する事が出来るものだ。回復薬の類を飲めば普通よりも回復量が高かったり、食料を食べれば他の人より腹持ちが良く携帯食料一つで丸一日行動出来たりする。過去に出会ったハンターの中には毒を持つ草やキノコを無効化して普通の食料として口にしていた者もいた。
(リモもおそらくその類だろうな。詳しくは調べてみないと分からないが、例えるなら『絶対味覚』みたいな名称になるかな)
そんな事を考えていると、おばちゃんから解放されたリモが自分に声をかけてきた。
「で、でもこれが何かの役に立つんですか?確かに口にした料理にどのような食材や調味料が使われているのは分かりますが……」
その凄さを未だ理解出来ていないリモに分かるように、一枚の紙とペンを渡しながら言う。
「じゃあさ、今のスープのレシピを紙に書き記してみなよ。それをおばちゃんに渡せばあら不思議、食堂のメニューが一つ出来上がりって寸法さ」
自分の言葉にリモがぽかんと口を開けて声を漏らす。
「あ……そうか。私が今は作る事が出来なくても、それを作ることが出来る人にそれを作って貰えば良いんですね」
リモの言葉に頷きながら更に言葉を続ける。
「そう言うこと。いつまでも作れないままだと困るからそこに関してはリモの今後の努力次第だけどね。それだけじゃない。その味覚があれば食材の旬や痛み具合も分かるだろう?」
自分の言葉にリモが頷く。ここの厨房には新鮮なものばかりで痛んだものがないため推測ではあったが、先程の過去の話を聞くにその味覚故にそういった面でも苦労したのだろうと思っていた。
「という事は、今の時点で食材の仕入れや確認は出来る訳だ。加えて、引退したとはいってもハンターの資格が剥奪された訳じゃないから素材の採取程度のクエストなら自分で新鮮な食材をお店のために調達する事も出来る。今の時点でこれだけ貢献出来る事があるじゃないか。立派な即戦力だ。ねぇおばちゃん?」
おばちゃんにそう声をかけるとおばちゃんもうんうんと頷く。
「そうだよ!あたし一人じゃ仕入れの対応も限界があるからね!調理場はあたしがいなくても何とか回るけれど仕入れを任せられる人を雇うか育てなきゃいけないと思っていたから大助かりだよ。調理の方も少しずつ覚えて貰う事にはなるけど、ひとまず仕入れや食材チェックの業務から初めて貰うよ!忙しくなると思うけどこれからよろしくリモちゃん!」
おばちゃんの言葉にまたもや泣きそうになるリモ。どうやら元々が泣き上戸のようだ。涙を懸命に堪えながら何度も頷きながら口を開く。
「はい……はい!私、頑張ります!ありがとうございますナブさん!アークさんもありがとうございます!アークさんがいなかったら私……自分を活かせる場所があるって事にずっと気付けないままでした!本当にありがとうございます!」
そう言って満面の笑みでリモがこちらに抱きついてくる。咄嗟の事だったため反応が追いつかず全力のハグを受けてしまう。
「わ、分かったから離れて!感謝の気持ちは充分に伝わったから!助けておばちゃん!」
焦りながらそう言うものの、自分をがっしり抱きしめて放そうとしないリモ。意外と着痩せするタイプなのだと思いつつもすぐに我に返り、隣にいるおばちゃんに助けを求める。
「あらあら。アークちゃんも隅に置けないねぇ。少し年の差はあるかもだけれど今のご時勢、それくらいの方がちょうど良いんじゃない?」
笑いながらとんでもない事を言うおばちゃん。その後、どうにかリモを引き剥がして夕食の仕込みを再開する事に成功した。
「なぁアーク、たまには食堂で飯でもどうだ?最近、食堂の飯が前にも増して美味くなって評判なんだよ。それに可愛い新人が入ったらしいぜ」
昼を知らせる鐘の音が鳴ったと同時に同僚からそう声をかけられる。あれから数日間の手伝いを無事に終え、食堂にも人が戻り晴れてお役御免となり受付業務に戻ってから半月程が経過していた。同僚が言う通り、食堂は以前にも増して繁盛していると噂で聞いていた。
(……どうやらリモも順調に働けているみたいだな。おばちゃんも将来有望な子が入って助かっただろうな)
未だ野菜を切るのも悪戦苦闘しているだろうが、自分の手伝いが終わる最終日には不揃いながらもおばちゃん監修の元で味付けはほぼ完璧なスープを作れるくらいにはなっていた。道のりは遠いがあのまま努力していればいずれは調理の腕も上がるだろう。
「おい、聞いてるかアーク?早く行かないと日替わりの定食が売り切れちまうぞ」
同僚の言葉に我に返り、慌てて机の上の資料を片付ける。
「悪い悪い、今行くよ。そうそう、日替わりも良いけどスープもおすすめだぞ。少し野菜が不揃いかもしれないけどな」
そう同僚に言いながら、食堂に向かうべく席を立ち上がった。




