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ギルド受付で働いてますが、攻略して欲しいのは自分ではなくクエストです  作者: 柚鼓ユズ


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聞き取り作業も業務の一環です

「ふぅ……これでどうにか夕食の支度までには間に合いそうかな」


 大惨事となっていた調理場を何とか片付けつつ、無事だった食材を利用出来る献立を考え極力手間のかからないメニューを考案しどうにか勤務を終えて腹を空かせた連中を路頭に迷わせる事がないように算段を立てたところで食堂のテーブル横の椅子に座りようやく一息つく。


「お疲れ様アークちゃん。お陰で助かったよ。夜までもうひと働きして貰う事にはなるけどとりあえず休んでおくれ」


 そう言ってナブおばちゃんが紅茶の入ったカップを自分に手渡す。同時に未だ隅っこで小さくなっている少女に声をかける。


「ほら、あんたもいつまでもそこで縮こまってないでこっちに座りな。夜までにはあんたにも出来そうな仕事をどうにか割り振るからさ」


 おばちゃんの言葉に少女がおずおずと立ち上がり、申し訳なさそうな表情のままテーブルを挟んで自分の向かいに座り口を開く。


「ご、ご迷惑をおかけしました……その……やっぱり私、クビですよね?」


 涙目のまま恐る恐る少女が口を開く。やれやれといった様子でおばちゃんが少女の前にも紅茶のカップを置いてから優しく声をかける。


「馬鹿だねぇ。一度雇っておいていきなりクビになんてしないよ。そりゃ、あの騒ぎは二度とごめんだけれど別に犯罪をやらかした訳じゃないだろ?悪いと思っているならこの後の頑張りで取り戻しておくれよ。……もっとも、頑張り方を間違えてまたさっきみたいになるのはごめんだけどね」


 おばちゃんの言葉に少女がまた泣き出す。もっとも、今度の涙は嬉し泣きのようだが。泣きながらも少女がおばちゃんに感謝の言葉を述べる。


「うぅ……あ、ありがとうございまずぅ……!わ、わだぢ、ごんどこそ頑張りますのでぇ……!」


 泣きながらもそう口にする少女。苦笑しながらもおばちゃんが少女に声をかける。


「……あんたも何かしら事情があるんだろう?いくつもクランや住処を転々として、ようやくこの街に辿り着いたそうじゃないか。贅沢出来るような給金は払えないけれど、ここにいる間は寝るところと食べるものには不自由ないようにするからさ」


 そう言ってまたおばちゃんが笑う。この面倒見の良さがおばちゃんが食堂の主として皆に愛される理由だ。自分も仕事で疲れた時にこのおばちゃんの食堂に響く元気な声に癒されている。こうして少し落ち着いたところで少女が自分に声をかけてきた。


「あ……すみません。ご挨拶が遅れてしまいました。その……ここの料理人の方でしょうか?」


 少女の問いに笑って小さく手を振りつつ答える。


「いや。俺はそっちの建物で働いているギルドの受付だよ。今回はちょっと臨時のお手伝いって感じさ」


 自分がそう答えると少女が慌てて言葉を続ける。


「し、失礼しました。その……料理をされている手付きや手順を見ていましたが動きや流れが職人の方の所作のようにお見受けしましたので……」


 少女の言葉におばちゃんが笑いながら会話に加わる。


「へぇ。見る目があるねリモちゃん。こちらの人はアークちゃんって言うんだ。時々ここを手伝ってくれているんだけど正直あたしらより料理の腕は一流さ。欲を言えば受付なんて辞めてこっちで働いて欲しいくらいだけどね」


 そう言ってまた豪快に笑うおばちゃん。自分のようなおっさん相手にちゃん呼ばわりは複雑だが仕方ない。おばちゃんにとっては自分より年下の存在は皆ちゃん付けなのだ。無論、親しくなった相手限定ではあるが。それからしてもおばちゃんがこのリモと呼ばれた少女を受け入れている事が分かった。そう思っているとリモが自分に話しかけてきた。


「そ、そうなんですね。アークさんと仰るのですね。私はリモ=ブラックと申します。よろしくお願いします」


 そう言ってこちらにぺこりと頭を下げるリモ。仕込んだ食材に味が染み込むまでにはまだ時間があるし、会話に余裕も生まれてきたところでリモに向かって気になっていた事を質問してみる事にした。


「こちらこそよろしく、リモ。ところで、おばちゃんからさっき聞いたんだけど……元ハンターっていうのは本当かい?」


 自分の問いに一瞬困った表情を浮かべるものの、すぐに切り替えリモが自分の問いに答える。


「……はい。とはいっても万年Bランク止まりでしたが。多くの方とクランを組ませていただきましたがどうにも上手くいかなくて。きっぱりと諦めたは良いものの、これからどうしたものかと途方に暮れていたところにこの街に辿り着き、この食堂の求人を見て飛び込んだ次第です」


 己の才能に限界を感じ、ハンターから足を洗って他の職業に就く事は決して珍しくはない。下手にその世界に固執してしまい取り返しのつかない事になるよりも余程懸命な判断である。リモもその類なのかと思ったが、気になった事があったため質問を続けた。


「そうか。もう少し話を聞かせて貰えるかな。謙遜しているけれど、その若さでBランクに到達出来ているって事は才能がない訳じゃないよね。ハンターを辞めてもそのスキルを活かす働き口は他に色々あったと思うんだけど、どうしてこの食堂で働こうと思ったんだい?」


 自分の問いにきょとんとした表情になるリモ。だが、すぐに笑いながら言葉を返す。


「ふふっ。何かもう一回面接を受けているような気分です。アークさんが受付っていうのは本当なんですね」


 リモにそう言われ、確かにその通りだと思った。純粋に疑問に思っただけだったのだがこれではリモの言う通りまるで面接である。思わず苦笑いを浮かべているとリモが笑いながら質問に答えてくれた。


「えぇと……お恥ずかしい話なんですが……その、求人の知らせを見る前にこちらでご飯を頂いたんです。そしたらそれがとっても美味しくて……それが理由です」


 そう言って顔を赤らめるリモを見ておばちゃんが笑いながら自分に言う。


「ね?良い子だろう?あたしが面接した時にも同じ事を言ったんだよ。あたしが作った煮物をすごく気に入ってくれてさ。使っている食材はもちろん、調味料の使い方まで物凄く絶賛してくれてねぇ。それが採用の決め手さ」


 おばちゃんの言葉にリモがまた興奮したように続ける。


「そうなんです!私感動したんです!街の食堂でここまで素材にこだわるお店と出会えたのが初めてだったので!食事だけじゃありません!この紅茶だってラミカム地方の茶葉を使っていますよね?お水もナンツ地方の物を使われていますし!こんなに美味しい料理を作るところで働きたいって心から思ったんです!」


 そう一気にまくしたてるリモを見て自分もおばちゃんも思わず無言になる。先に口を開いたのはおばちゃんであった。


「……驚いたね。茶葉はまだしも水の産地まで当てられるなんてさ。確かに私のツテで常にそこから仕入れた水で料理を作っているけど、そこまで気付く子なんて今まで誰もいなかったよ」


 自分も驚きである。せいぜい他の食堂に比べて良い水を使っているなレベルでしか思っていなかった。不思議に思いリモに更に質問をしてみる事にした。


「……リモ。君がクランを転々とした理由を聞いても良いかな。もしかしてだけれど、その理由は食が原因じゃないか?」


 自分の問いにリモが驚きの表情を浮かべる。が、すぐに俯きながら答える。


「は、はい……実はその通りです。クエストの時は生きる事が最優先なので我慢出来たんですが、普段の食事の際に街に出ても他の皆さんは粗雑な料理を嬉々として食べている方がほとんどで……黙っていれば良いのに、それが続くとついそれを口に出してしまいまして……かといって私、料理を食べるのは好きですが作る方は全く駄目でして……頑張ろうと努力をしましたが、結果は先程ご覧いただいた通りになります」


 そう話すリモに、おばちゃんが声をかける。


「……なるほどねぇ。ハンターなんて危険な仕事だろう?まともに食事も取れない時だって沢山あるだろうに食べる事が好きじゃあ辛いよね。今まで大変だったろう?うちで良ければ頑張って働いておくれよ。手順は少しずつ覚えてくれれば良いからさ」


 そう優しくリモに声をかけるおばちゃん。また涙目になるリモを見ながらとある事を閃いた。


「……おばちゃんさ、自分の見る目が衰えたかもってさっき言ったよね。それどころか凄い審美眼だと思うよ。リモ、君もきっとここでなら君の才能を活かせると思う」


 そう自分が口にすると、二人が同時に自分の顔を見た。


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