33話
日本ダービー当日、大和騎手は京都競馬場にいた。
昨日は葵ステークスの騎乗もあり、今日も4鞍の騎乗依頼を受けていた。
レースの間が空いたのでテレビで東京競馬場のレースを見ていると同じく京都競馬場で騎乗している安芸騎手から声をかけられた。
「ダービーが気になるのか」
「安芸さん、はい。やっぱり皆が目指すレースですから」
小さい頃から親の影響で競馬に興味を持ち、ダービーが特別なレースだというのは子供の頃から知っていた。
騎手になりダービーを目指す人達の姿を見ていつか自分も乗りたいと思いながら騎手として馬に乗り続けてきた。
しかし、今年の厩舎の雰囲気を感じて自分はダービーに本当にかけている人達の想いをまだ分かっていなかったのだと感じた。
赤城厩舎に所属してから3回目のダービーになるが 今年の雰囲気は今までと全く違うものだ。
一昨年、去年と比べて取材に来るマスコミの数も全く違い競馬ファンの注目も驚くほど多い。
騎手になる前は漠然と皆が目指すレースとしか思っていなかったから目標もダービーを勝てるような騎手になりたいとありきたりな答えを返していた。
その思いを変えたのがジンライフウレツだった。
ジンライフウレツが厩舎に来てから厩舎のスタッフの雰囲気が少しずつ変わっていくのが見ていて分かった。
これまでは来年のクラシックで走れる馬になってほしいと夢を語りながら馬の世話をしているように感じていた。
ジンライフウレツがレースで勝ち、その強さを証明するとダービーを勝つという目標が具体的なものになった。
厩舎にジンライフウレツがいない時も厩舎の話題はいつもジンライフウレツだった。
その事に気付くと他の厩舎の様子が違う景色に見えてきた。
他の厩舎に調教の手伝いに行ったりレースの合間の休憩時間にジンライフウレツの調子について聞かれる事も多くなっていた。
そして周りの人達がダービーが近づくに連れてどの馬が出れそうか、今年は自厩舎は出れそうにない、何とかダービーに出る望みがつながった、そんな声が聞こえるようになった。
去年までも同じように周りではダービーを目指して馬を走らせ勝てるように努力していたのだ。
赤城先生にこのことを話したら今頃になって気づいたのか、マイペースなやつだと呆れられてしまった。
こうして周りの人たちの今までと違う目で見るようになると一緒にテレビを見ている安芸さんがどんな思いで今日を過ごしているのだろうと考えてしまっう。
安芸さんは皐月賞でスネークファングに騎乗したが着外で日本ダービーの出走権を得られなかった。
最後の望みをかけてトライアル競争の青葉賞の出走を予定していたが、スネークファングの脚の調子が良くないため出走を回避する事になった。
光輝さんも同期が日本ダービーに騎乗できなかった事を残念がっていた。
同期の光輝さんがダービーに乗るのを見てどう思っているんだろうか。
私はまだ重賞を勝った同期はいない。
そのため同期の中で一番活躍していると言われているのが私になるので同期が自分よりもはるかに活躍する気持ちは分からない。
想像してみるが、応援する気持ちよりも乗れない悔しい気持ちの方が上では無いだろうか。
目の前の安芸騎手の気持ちを想像しながら今日、日本ダービーに騎乗するため東京競馬場にいる光輝さんや加賀さん、土佐さん達はどんな気持ちでダービに臨んでいるのが気になりながらレースの映像を見続けた。




