27話
桜花賞、皐月賞、NHKマイルカップと春のクラシックも半ばを過ぎ、話題はオークスと日本ダービーへと移っていた。
「カナヅルコトヒメは飛鳥が、ジンライフウレツは 光輝が乗る事に決定したのか」
栗東でジンライフウレツとカナヅルコトヒメの調教 を眺めながら土佐騎手と加賀騎手が休憩の合間の雑談をしていた。
「光輝の実力と実績なら乗るのは当然だろう。
飛鳥もここまで悪い成績だった訳では無いし何より自分でオークスの権利を取ったんだからな。周りも文句は言えないだろう」
大和騎手とカナヅルコトヒメはフローラステークスで2着を取りオークスの優先出走権を取ることができた。その後、オークスには大和騎手が騎乗すると発表されていた。
マスコミも春のレースの目玉として連日ニュースの一面を飾っていた。
「ホープフルステークスの頃から乗り替わりの話題はよく上がっていたが今回はあまり聞かないからな」
「飛鳥が自分でオークスの権利を取れずに抽選で出る事になっていたら乗り替わりもあるだろうがしっかり自分で権利を取ったんだから赤城先生もそのまま乗せたいのが人情だろう」
加賀騎手はもしオークスの優先出走権が取れなかった場合は乗り替わりで次のレースに乗って欲しいと内密に依頼されていた。
「浅葱オーナーも初めての馬であまり勝ちにはこだわって無いからな。
ジンライフウレツが凄い活躍をしているがコトヒメも勝てる様に積極的に有名な騎手に変える気は無いみたいだからな」
しかし、そんな依頼があったことはおくびも出さずに大和騎手と騎手のコンビ継続を祝福していた。
「まあそれでも綱渡りのコンビである事には変わりないがな」
悪くない成績を挙げてはいるが勝ててはいない。
浅葱オーナーや赤城先生はそれでも飛鳥を乗せているがそれでも限界はある。
ここまで掲示板を外したことは無く普通の馬だったら馬主孝行の馬だと褒められて終わりだっただろう。しかし、双子の白毛馬として競馬ファンから注目され、弟のジンライフウレツは朝日杯フューチュリティステークスを勝ったG1馬。
競馬関係者もマスコミも放っておくわけがない。
あと一歩で勝てるという着順が続いたならば勝てない理由は馬ではなく騎手に向かうだろう。
「2着、3着でも乗り続けられるのはもう今年いっぱいが限界だろうな」
浅葱オーナーがいくら飛鳥を応援する為に乗せたいと思ってもその行為が逆に飛鳥にとってマイナスになるかもしれない。
赤城先生もそうなる前に乗り替わりを決断するだろう。
フローラステークスでオークスの優先出走権をとっても勝てなかった事には変わりない。
良いレースをしてくれればいいと言うには注目を浴びすぎている。
もっと上位の騎手が乗ったレースでも同じ結果にならなければ競馬ファンも飛鳥が乗ることを納得しないだろう。
「次のオークスと秋に2走か3走、そこで勝てなければ乗り替わりだろうな」
「ここまでの成績を見れば手を挙げる騎手は引く手数多だろうしな。俺も依頼がきたなら是非乗ってみたいよ」
大和騎手のお手馬でカナヅルコトヒメにかける熱意を感じていたので本人の前では言わないが、土佐騎手も注目を浴びている馬で能力もあるのだから是非乗ってみたいと思っていた。
「本人の前では言わないでやれよ。お前クラスの騎手が言ったら冗談では済まないからな」
飛鳥が聞いたら本気で焦る姿が目に浮かんだ。
残り少ないチャンスをものにしなければならない 以上、次のオークスも当然悪い結果を残すわけにはいかない。
できることなら1着を取れるよう応援したいところだが。
「どうしたんだ」
こうして話している相手がそれを最も難しくする原因の一つなのだ。
オークスを勝てたらいいなと応援しているのにそれを阻みそうな相手がこうして前にいる。
土佐騎手の騎乗馬のシャンプーラブと陸奥騎手の騎乗馬のシェルカメオがオークスの本命として上がっているのだ。
どちらも能力はコトヒメと同じかそれ以上という評価を受けており、更に騎乗するジョッキーも格上とくれば飛鳥とコトヒメの勝ち目は薄いだろう。
土佐騎手はオークスに出る騎手に話すことではないと話題を変えた。
「まあ目の前のオークスも大事だが俺は乗らない し、その後の大一番が待っているからな。
高敏もシックルウィーズルの調子はどうなんだ」
「そういえば武雄も今年はダービーに出れるんだな」
「お前と違って毎年のように出れるわけじゃないからな、 久しぶりのダービーだよ」
2人の話題は今年のダービーへと移っていった。
「本命には上がらないがやっぱりダービーに出れるっていうのは嬉しいもんだよ」
日本ダービーは競馬関係者が最も取りたいタイトルであり誰もが憧れるレースである。
その世代の頂点を目指し選ばれた18頭が頂点を競うホースマンの目標だ。
ダービーを勝ちたいと騎手は誰もが思うがその18頭 に乗れるのは選ばれたトップの騎手達だけである。加賀騎手は数年ぶりに日本ダービーの騎乗馬が回ってきていた。
「勝つのは厳しいと思うが期待も薄い分思い切って行こうと思ってるよ」
前評判から言えば勝つ望みは少ない。
それでも出る以上は勝つために全力でレースに望もうと思っている。
「高敏はいい馬が回ってきたから今年も人気になるだろうな」
土佐騎手が乗るシックルウイーズルは朝日杯フューチュリティステークスで2着、年が明けての共同通信杯を勝利し皐月賞でも2着に入っている。
距離が長くなっても問題無く日本ダービーでも人気が高くなると予想されている。
加賀騎手としては自分が勝てないなら普段からお世話になっている赤城先生や可愛がっている陸奥騎手の初ダービーを応援したい。
しかし、騎手学校の同期である土佐騎手のダービーにかける思いもよく知っていた。
赤城厩舎でジンライフウレツの調教に乗せてもらっている身としてはジンライフウレツがシックルウイーズルより上だと思っている。
土佐騎手も実際にレースをして自分以上にその事を実感しているのではないか。
先程のカナヅルコトヒメのオークスの時ほど弾まない会話からそう感じた。
加賀騎手の心境をを察した土佐騎手もそこで話を打ち切って久しぶりに飲み行こうと話題を変えた。 加賀騎手もその誘いに乗って久しぶりに飲みに行こうと約束をした。
シックルウイーズルがあと1年早いか1年遅く生まれていれば良かったのに。
土佐騎手と話しながら加賀騎手はジンライフウレツと同じ年に産まれたシックルウイーズルと土佐騎手の巡り合わせの悪さを惜しんだ。




