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悠久の流水  作者: 中山


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22/37

22話

年も明けジンライフウレツとカナヅルコトヒメは3歳になりいよいよクラシックを目指すことになる。厩舎では赤城調教師が浅葱オーナーやスタッフと集まってジンライフウレツとカナヅルコトヒメの今後のレースの予定を相談していた。

放牧に出したジンライフウレツもカナヅルコトヒメも怪我も体調を崩すこともなく順調に回復してくれている。

体調は万全なので後はどのレースに出すかを決めればいつでも栗東に戻ってこれる状態なので、それを決める相談を行なっているのだ。

「まずジンライフウレツは弥生賞から皐月賞へ行くルートと皐月賞に直行する2つのルートがあり、私は皐月賞に直行するルートを考えています」

「弥生賞から皐月賞へ行くのではなく皐月賞にぶっつけ本番で行くんですか」

ジンライフウレツは1800mまでしか走っていないので2000mに距離延長しても問題ないかを確かめるためにも弥生賞を走らせると思っていたので赤城調教師の言葉は驚きだった。

「距離に関しては不安はあります。しかし、朝日杯のレース後の疲労や光輝の走らせた感触から2000mもいけると言っているのでその点は大丈夫だろうと考えています」

浅葱オーナーは距離延長を試すために弥生賞に出した方がいいのではないかと思った。

すると赤城調教師はなぜ直行を考えているのかの理由を述べた。

「コトヒメを弥生賞に出すんですか」

「はい」

コトヒメは桜花賞を目指してチューリップ賞あたりを走らせるものだと思っていたが赤城調教師の考えは違っていた。

「ここまでのレースを見てコトヒメにはマイルは厳しいだろうと感じています。

長い距離の方がコトヒメには向いていると思いますので桜花賞よりも皐月賞を目標に考えています」赤城調教師はホープフルステークスのコトヒメの走りを見て短い距離より長い距離の方が能力を発揮できると考えてマイルの桜花賞よりも2000メートルの皐月賞を目指すべきだろうと考えていた。

「だから弥生賞にジンライフウレツを出さないんですか」

浅葱オーナーはジンライフウレツを皐月賞に直行させたい理由が分かった。

「弥生賞で3着まで入れば皐月賞への優先出走権が得られます。

ジンライフウレツと光輝のコンビなら問題さえなければ3着以内は固い自信があります。

しかしコトヒメと飛鳥にとってはその貴重な優先出走権の1つをジンライフウレツが取ることになってしまいます。

そのためにジンライフウレツは皐月賞に直行させたいのです」

ジンライフウレツは朝日杯フューチュリティステークスを勝利した結果、収得賞金のみで皐月賞出走の ボーダーラインは超えている為弥生賞に出走しなくても皐月賞に出走する事が出来る。

しかし、カナヅルコトヒメはホープフルステークスでは5着だったため賞金を加算できなかった。

その為出走は難しいラインにいる。

「確実に出る為には弥生賞で3着以内に入って優先出走権を得るしかありません」

「優先出走権を狙うなら若駒ステークスに出したりリステッド競走で賞金を加算する道もあるのではないですか」

ジンライフウレツを休み明けに一度走らせた方が安心なのではないかという思いがあるので別のプランを提示した。

しかし赤城調教師はまだ新米馬主の意見も直ぐに否定せず自分の意見を冷静に返した。

「確かにそういったプランもありますがもう一つコトヒメを弥生賞で使いたい理由があります」」

「優先出走権を狙う以外に理由が?」

「はい。飛鳥に弥生賞を走らせたいのです」

「大和騎手ですか」

「飛鳥はほとんど中山競馬場で騎乗したことがありません。

ですから弥生賞に騎乗して中山競馬場のレースを経験させておきたいんです」

弥生賞と皐月賞は同じ中山競馬場の芝2000mのコースを走る。

「確かに若駒ステークスの方が普段から乗っている関西の競馬場なので飛鳥も乗りやすいと思います。

しかし、それで皐月賞に出れても不安があります。

本番の皐月賞で良い結果を出すために弥生賞で一度乗せて経験を積ませたいのです。

それに弥生賞で結果を出すことができなければ本番でもいい結果は出せないでしょう。

浅葱オーナーは赤城調教師の説明を聞いて少し考えた。

コトヒメには大きなミスや競馬以外でのトラブルが無い限りは大和騎手に乗ってもらおうと決めている。

そしてより良い結果を出せるように出来る事は協力したいと思っている。

赤城調教師が大和騎手の成長のためにも弥生賞に出したいと言われているのだからその意見を尊重しようと思う。

「分かりました。 私も大和騎手にはコトヒメでいつか大きなレースを勝って欲しいと思っています。

そのためにもここは弥生賞に出しましょう」

「ありがとうございます。

それではその予定で2頭のトレーニングの予定を組んでいきます」

「お願いします」

こうしてジンライフウレツは皐月賞に直行。

カナヅルコトヒメは弥生賞に出走させることが決まった。




しばらく経ちカナヅルコトヒメが放牧先から栗東トレーニングセンターに帰ってきた。

放牧の休みの間に年末のレースの疲れはすっかり取れており、しばらく厩舎で休むとまた調教の日々が始まった。


今日の調教でカナヅルコトヒメは大和騎手を乗せて走らせていた 。

「コトヒメは戻ってきてるのか」

それを見ていた陸奥騎手がカナヅルコトヒメの走りを見学していた。

休んでる間にも明らかに体が大きく成長しているのが見て取れたので次のレースで結果を出せるかが飛鳥にとっても正念場だろうと思いながら調教を眺めていた。

「また調子が良さそうだな」

横で一緒に見ていた同期の安芸騎手も調教を見て同じ感想を持った。

「いよいよクラシックの季節だが次のレースは何処に出るのか決まってるのか」

「確か弥生賞から皐月賞を目指すと言っていたな」

「桜花賞を目指すんじゃないのか」

「長い距離の方が向いてそうだからな。

マイルの桜花賞は厳しいと考えたみたいだ」

「そうか、また一頭手強いのが増えるのか」

安芸騎手はカナヅルコトヒメが弥生賞に出る予定だと聞いて肩を落とした。

「なんだコトヒメが弥生賞に出るのがそんなに嫌か」

「そりゃそうだろう、牝馬だからチューリップ賞から桜花賞に行くかと思ったのに弥生賞に来るなんて。

皐月賞に出る枠を競う相手が一頭増えると思うと胃が痛くなる」

安芸騎手は所属する春日厩舎の馬で弥生賞に挑戦する。

本命には上がっていないが上位を狙えると評価されており、出走する以上優勝を狙ってはいるが最低でも3着以内に入って皐月賞への優先出走権を手に入れたいと思っている。

それなのに上位を狙える有力馬が増えるのを歓迎するわけがない。

「コトヒメが3着以内に入って皐月賞の優先出走権を得ればジンライフウレツと一緒に出れるんだ。きっと盛り上がるから競馬界としても大歓迎だろう」陸奥騎手も弥生賞にはジンライフウレツとは別の馬で出走する。

もちろん負けるつもりでレースを走る気など無いが、コトヒメも皐月賞に出ることができればファン も喜んでくれるだろうと思っているので3着以内には入ってほしいと思っていた。

「皐月賞に出れたらジンライフウレツのライバルになるのに本当にお前は余裕だな」

安芸騎手はレースに勝つことだけではなくファンのことや競馬界の盛り上がりのことを考える余裕のある陸奥騎手が同い年なのかと呆れながら見ていた。 同期なのに目の前のレースで何とか3着に入って皐月賞に出たいと思って悩んでいる自分とは見ている場所が全く違うと感じた。

「大勢のファンの目の前で歓声を浴びながら勝つのが最高の瞬間なんだ。

その為にライバルが増えるんだったら大歓迎だ」

そう言って陸奥騎手は大勢のファンに見られながら最高の面白いレースをしたいという期待を胸に秘めながらカナヅルコトヒメと大和騎手の調教を見守った。

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