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悠久の流水  作者: 中山


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21/37

21話

浅葱オーナーはパドックでカナヅルコトヒメと大和騎手を送り出すとすぐに家族の待つ馬主席へと向かった。

馬主席に着くとこれからこれから始まるレースを娘たちは楽しみに待っていた。

妻と息子達は勝つのは難しいと聞いて分かっているのでそれほど期待していなかった。むしろ、初めてG 1当日の競馬場に来たことで周りの馬主の方々との挨拶に忙しくしていた。

その為、葵と菫は2人で今日のカナヅルコトヒメのレースについて話し合っていた為、期待は膨らむばかりだった。


馬主席に戻った浅葱オーナーはカナヅルコトヒメを応援する娘達の姿を見ながらジンライフウレツが推し馬なら良かったのになと思った。

自分の失言から始まった2頭の馬主生活は順調すぎて怖いほどに上手くいっている。

しかし、ここにきて一つの壁が立ちふさがっている。

娘達はカナヅルコトヒメが勝つとを信じていたが、浅葱オーナーは今度ばかりは厳しいだろうと思っている。

娘達がカナヅルコトヒメよりジンライフウレツを応援しているなら朝日杯フューチュリティステークスを勝った時点で話は終わっている。しかし、ジンライフウレツがG1を勝った結果、カナヅルコトヒメも勝てるのではないかと娘達の期待は跳ね上がっていた。

2勝してくれてG1に出れた時点でカナヅルコトヒメは充分な結果を出してくれた。

個人的にはこれで良しとしているのだが娘達の期待がそれを許してくれなかった。

現役を続けられるのは長くて後2,3年だろう。

その間に一つでも大きなレースを勝ってくれたら最高だ。

あるいは娘達も成長して競馬の難しさを理解してくれればいいのだが。

「現役の間は悩みは尽きないな」

勝ち上がってそれで終わりとならず、それが原因で新しい悩みが出来る。

ままならないものだと思いながら娘達の姿を見ていた。


レースが終わった後改めて流れる映像を見ながらよく掲示板に入ってくれたと感動すら覚えた。

経験の浅い騎手、初めての G 1、気性難の馬と不安要素に事欠かず、惨敗も覚悟していたのだ。

それが終わってみれば5着に入る健闘を見せてくれた。

それも牡馬と混合のG1を走っての5着。

1着にはなれなかったが来年に期待が持てるレースを見れて満足な気持ちで終えることができた。

これならG3やG2を取るのは夢ではないな。

そんな将来の期待を思い浮かべていたが

「パパ勝てなかったね」

「お父さん、コトヒメ負けちゃった」

菫と葵が残念そうな顔をしながら話しかけてきた。「そうだな。カナヅルコトヒメも大和騎手も頑張って走ってくれたけど他の馬が強かったな」

勝ち上がって上のレースになれば更に強い相手と戦うことになる。

「このレースは2歳の馬の中で一番早い馬を決める レースだからな。その中で5着に入ってくれたんだからカナヅルコトヒメを褒めてあげないとな」

「 G1ってそんなに勝つの難しいの」

「そうだな。これからカナヅルコトヒメやジンライフウレツが走るレースは同じ様に勝ってきた馬ばかりと一緒に走ることになる。ひょっとしたら2頭共もう勝てないかもしれない。そういうレースだよ」

そんなレースに勝ったジンライフウレツも5着に入ったカナヅルコトヒメも凄い馬なのだと浅葱オーナーは娘達に説明しながら改めて実感した。

「ジンライフウレツもカナヅルコトヒメもまだ2歳だ。これから成長して大人になって強くなる。だから落ち込まずに応援しよう」

娘達も成長して以前の様に落ち込まず言われた事を理解して頷いた。

浅葱オーナーは娘達の成長を感じながらジンライフウレツとカナヅルコトヒメを買った時にはこれ程強くなるとは思っていなかった。

人も馬もどのくらい成長するのかは分からない。

これからどのような成長をしていくのか楽しみになってきた。

カナヅルコトヒメとジンライフウレツが次はどのレースに出るのかを説明しながら来年のレースへの期待を膨らませた。




「5着に入れたよ。 ありがとうねコトヒメ」

レースを終えた大和騎手は頑張って走ってくれたカナヅルコトヒメを労いながら戻って行った。

その途中で土佐騎手から声をかけられた。

「お疲れ。初めての G 1で5着とはいい馬に乗せてもらったな」

「ありがとうございます。けどコトヒメだけじゃなくて私も褒めてくださいよ」

初めてのG 1で掲示板に載ったことでほっとしていた大和騎手は笑いながら騎手も褒めて欲しいと返した。

「そうだな、あんな思い切った騎乗をするとは思わなかったよ。このメンバーなら光輝が逃げると思ったんだがまさか飛鳥がハナを切るとは予想しなかったな、大した度胸だ」

土佐騎手は初めての G 1で逃げを選択してうまく乗った事を驚き褒めてくれた。

実際には偶然スタートとゲートを馬が飛び出すタイミングが合って絶好のスタート切ったために逃げを選択したのだがここで正直に話すべきか、それとも ごまかすべきかと悩んでいると。

「飛鳥、初めてのG 1で掲示板に乗るなんていいいレースができたじゃないか。

ゲートの隣で落ち着かないのを見て不安だったが、あんなに運の良いスタートを切るとは思って無かったよ。今年最後のレースで運を全部使い切っていい結果をだしたな」

陸奥騎手に本当の事を全て話されてしまった。

土佐騎手の前で作戦で行ったことではない事を喋られて恥ずかしくなったが、どうせレースの映像を見たら分かるんだからカッコつけても意味ないぞと言われて何も返せなかった。

冷静になると着順は良くても自分で狙った騎乗をしたわけではないのに喜んでいいのかと不安になった。

掲示板に乗ったからと言って自分でも満足に行く騎乗をしたわけでは無い。結果として掲示板に載ったのであって、1着を目指した結果の5着ではない。

この結果で次も乗せてもらえる自信がどんどん減っていき、へこんでしまった。

「何を落ち込んでるんだ。さっきまでの元気はどうした。初めてのG 1で問題なく競馬をして掲示板まで乗れたんだから赤城先生も怒ったりはしないよ」

そう言うと土佐騎手は馬を促し戻って行った。

「ほら俺たちも戻るぞ」

陸奥騎手もそう言って戻って行く。

その後ろをついていきながらもし次も乗せてもらえるなら、次のレースでは自信を持って乗れたと言える騎乗をしたい。そう心に決めてカナヅルコトヒメと戻って行った。




「掲示板には入ってくれたか」

赤城調教師は無事にレースを終えてホッとしながら結果の表示された掲示板を見た。

ゲートを飛び出した時はフライングかと思ったが、問題無くスタートを切ったと分かってほっとしたのもつかの間、そのまま先頭に立った時には大丈夫かと思った。

気性に難のあるカナヅルコトヒメでは最後まで逃げ切れるとは思わなかった。しかし、最後の直線まで折り合いを欠かずペースを守って先頭で来た時にはもしかしたらと思った。

ゴール前で後方の馬に抜かれて結果は5着だったが前評判を考えたら上々の結果といえた。

「初めてのG 1で不安もありましたが問題無く走りきってくれましたね」

横にいた羽黒調教助手もレースを無事に終えたことでほっとしていた。

レースの前は騎手を変えるべきだとあちこちで言われたがこれなら継続して乗せる事も出来るだろう。

「今回はうまくいったが次はこうはいかないだろうがな」

今日の様にゲートで暴れたら今度は惨敗するだろう。その為、カナヅルコトヒメの調教も考えなければならない。

「まあしかし初めてのG1で5着までは入れたのだからそこは褒めてやろう」

赤城調教師はそう言いながらレースが終わって帰ってくるカナヅルコトヒメと飛鳥を待った。


色々な懸念や課題も出たがオーナー、調教師、騎手、それぞれにとって満足出来る終わりだった。

こうしてカナヅルコトヒメとジンライフウレツの2歳のレースが終わった。


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