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悠久の流水  作者: 中山


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15/37

15話

検量室にに行くと赤城調教師が待っていた。

レースを終えたカナヅルコトヒメから大和騎手が降りるとカナヅルコトヒメの首を撫でながら、よく頑張った、いい走りだったぞと笑いながらねぎらいの言葉をかけた。

次に馬から降りた大和騎手に祝福の言葉をかけた。

「 飛鳥よくやった。うまくカナヅルコトヒメに乗ることができたな」

レース前から不安も多くプレッシャーのかかる中でのレースだったが、ミスなくレースを終えて帰ってきた大和騎手を珍しく褒めている。

北上厩務員もカナヅルコトヒメのレース後の世話をしながら喜びの言葉をかけていた。

下馬した大和騎手が検量室に向かうと赤城調教師はカナヅルコトヒメの脚を確認して異常はなさそうだとほっとしながらこの後の口取りの準備を始めた。




馬主席ではレースを見ていた子供たちがカナヅルコトヒメの勝利を喜んでいた。

「お父さんカナヅルコトヒメが勝ったんだよね」

「ああ、まだ結果は出てないけど一着だろう」

葵はカナヅルコトヒメがレースに勝ったことを興奮しながら確認してきた。


「ほらカナヅルコトヒメが勝ったわよ」

「うん 」

一方菫は葵ほど大喜びはしていなかったが母親と供に静かに喜んでいた。

「双子はそんなに早くは走れないって言ってたけど2頭とも勝てたね」

「そうだな、2頭とも頑張って走ってくれたな」

自分の一言が原因で買う事になった姉弟だが、最高の結果を出してくれた。

娘達も明るさを取り戻してカナヅルコトヒメのレースの話しをしていた。

馬主の運は使い果たしたかもしれないな。

まあ、それでも良いかと思いながら

「よし それじゃあ一緒に写真を撮りに行こうか」

口取り式に出る為に子供たちを連れてウィナーズサークルに向かった。

カナヅルコトヒメに直接会うのはこれが初めての娘達はようやく会うことができると喜びながらカナヅルコトヒメのもとへ向かった。




後検量を終えた大和騎手は口取りの為にカナヅルコトヒメのもとに向かった。

カナヅルコトヒメのもとに向かうとそこには浅葱オーナーと家族がすでに待っていた。

「大和騎手ありがとうございます。見事なレースでしたよ」

浅葱オーナーから感謝の言葉を受けると

「これ程注目されていたカナヅルコトヒメに乗せて頂いてありがとうございます。カナヅルコトヒメも最後まで頑張って走ってくれたおかげで私も勝つことができました」

浅葱オーナーへの感謝の言葉を返すと準備を終えたカナヅルコトヒメとの写真を撮り、口取りを終えた。

その後大和騎手はこの日の残りのレースの準備の為にジョッキールームへと向かった。




「お疲れ様です。無事に勝ってくれましたね」

「ジンライフウレツは調教も問題無かったから光輝に任せて大丈夫だと安心していたが、カナヅルコトは懸念だらけでレースが終わるまでどうなるか分からなかったからな。しかし、途中ヒヤヒヤするところもあったが無事に2頭とも勝ってくれたのは文句無しの結果だ」

羽黒調教助手と赤城調教師は今週のレースで最も注目されていたジンライフウレツとカナヅルコトヒメの新馬戦を勝利で終えたことでようやく肩の荷が下ろすことができた。

そして安堵の気持ちで2頭のレースを振り返っていた。


そして話題は2頭のこれからのレースをどうするかへと変わっていった。

「ジンライフウレツはもう一回走らせて賞金を加算して朝日杯を目指すというのがとりあえずの目標になるだろうな」

「 それじゃあでデイリー杯2歳ステークスが次の目標になりますね」

「同じマイルのレースで周りとの馬と比べても頭一つ抜けているからな、 まず大丈夫だろう」

「もう少し長い距離も試しておきたいところですけど、朝日杯を目指すならこれがベストの選択です かね」

「 調教を見た限りではマイルより短いということはないだろうからな 。ここで結果を出せればクラシックでも期待を持てるだろう」

赤城厩舎にとって来年の3歳世代でのG 1レースに出走出来る可能性のある馬が厩舎に現れた事を喜び、赤城調教師と羽黒調教助手は明るい顔で来年のクラシックレースに向けての予定を話し合った。




ジンライフウレツの予定を話を終えると赤城調教師は顔を引き締めてカナヅルコトヒメの話題へと転じた。

「まず1勝してくれたが次をどうするかだな」

「 そうですね。勝つことはできましたが、相手に恵まれたところもありますからね」

「まあカナヅルコトヒメはまだまだ成長途上だからな。今日のレースも勝ち上がることができたのだけでも及第点だろう」

「次のレースも飛鳥が乗るんですか」

「ああ。浅葱オーナーには次も飛鳥で構わない言ってくれている。しばらくは飛鳥を乗せることになるな」

「 1回レースに勝って、これで騎手も馬も良い方向に変わってくれると良いですね」

カナヅルコトヒメは初めてのレースの経験を積むことによって成長してくれる事を、大和騎手も有力馬に乗って勝つ事で成長してくれる事を期待していた。

赤城調教師も羽黒調教助手の言葉に頷いた。

これで少し大人になって他の騎手を乗せることもできれば選択肢が増える。

飛鳥も有力馬で結果を出せれば騎乗機会も増える。

赤城調教師は次のレースも同じコンビで走る事でカナヅルコトヒメと大和騎手の成長を期待した。




「今日はホッとしましたね」

「 そうだな、赤城先生と大和騎手、それにカナヅルコトヒメには感謝してもしきれないよ」

浅葱オーナーはレースが終わった後、家に帰り家族の団欒を楽しんだ。

その後、娘達が寝た後に妻と今日のレースを振り返っていた。

「最初に双子の馬を買うという話を聞いた時はどうなることを思いましたけど」

妻も競馬は詳しくなかったが娘達にも関わることだったの詳しく聞いて、デビューしても勝つのは難しいのではないかと感じていた。

その為昨日のジンライフウレツのレースと今日のカナヅルコトヒメのレースで2頭供が勝った事に驚いていた。

「麻耶にも苦労をかけたな」

浅葱オーナーは自分の不用意な一言から家族に負担をかけてしまったことに感謝の言葉を告げた。

「それは九十九と恭也に言ってください。

あの子達も葵と菫すみれに色々と気を使ってくれていたんですから」

「 そうだな、2人にもちゃんと礼を言わないとな」

ジンライフウレツとカナヅルコトヒメはまだデビューを勝っただけで次のレースも勝てるかは分からない。

このレースが最後の勝利になるかもしれない。

しかし、今日は無事に2頭がレースに勝ってくれたことを喜ぼうと家族で話を続けた。




「今日はいい1日だったな 」

大和騎手は自分の部屋に帰って今日1日を振り返り 最高の1日だったと改めて思った。

カナヅルコトヒメの後に乗った2レースも有力馬では無かったが掲示板に載ることができ、依頼された調教師や馬主にも喜ばれた。

「最後は危なかったけれど、最後まで頑張ってくれたな」

相手に恵まれたとはいえ、最後のゴール前で土佐騎手に迫られながらも最後まで頑張って走ってくれたから凌ぎきって1着でゴールすることができた 。

他の人が乗ったらもっと楽に勝てたのではないかと言う考えが頭をよぎる。

今日のレースを振り返っても自分でも反省する点はあったし、赤城先生からもレースの内容について 注意を受けた。

「もっと上手くならないと」

今日のレースを勝った後に次のレースも乗せてもらえると赤城先生からは言われた。

カナヅルコトヒメに乗せてもらっているのは他の人が乗るのをカナヅルコトヒメが嫌っているからだ。 自分が優れているからではないことは自分が一番よくわかっていた。

このまま馬が成長して他の騎手機種が乗っても問題ないなら光輝さんや加賀さんに乗り代わるだろう。

そのためにももっと上手くなって乗り続けられる様になりたい。

二人との実力も実績も少し上手くなったぐらいで埋まるような差では無いのは誰が見ても明らかだろう。 

けれど今日のカナヅルコトヒメのレースの声援、ゴールした瞬間のファンの大歓声を聞いてまた勝ちたい、もっと大きなレースでカナヅルコトヒメと一緒に勝ちたい。その思いは強くなる一方だった。

カナヅルコトヒメに会う前は乗れたら嬉しいと思っていたが、今は絶対に上手くなってカナヅルコトヒメに乗るのだと強い決心に変わっていた。


自分では気持ちの変化は自覚していないが、大和騎手は次にカナヅルコトヒメに乗る時にもっとうまく乗れるようにとその日のレースを見直した。

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