13話
昨日のジンライフウレツの勝利で競馬ファンの話題は持ち切りだった。
その影響もあり今日の東京競馬場はカナヅルコトヒメの新馬戦の話題があちらこちらで聞こえた。
「やっぱり今日の新馬戦はカナヅルコトヒメかな。昨日は姉弟のジンライフウレツが余裕で勝っていたしな」
「やっぱりカナヅルコトヒメも抑えておいた方がいいかな」
ファンの人たちは昨日のジンライフウレツの勝利もあり、白毛の馬に女性騎手が乗っているとファン目線で応援したいということで馬券買う人が多い。
一方
「昨日のレースはジンライフウレツが勝ったが、乗っていたのが陸奥だからな。調教でもいいタイムを出していたし勝ったのは順当だろう」
「今日走るカナヅルコトヒメは調教で苦労しているって話だからな。
かなりの癖馬みたいだし、ジンライフウレツと同じ評価はできないな」
「何で陸奥じゃなくて若手の大和を乗せるんだ?
陸奥も空いてるんだから、乗せればよかったのにな」
「ジンライフウレツに比べて期待できないから大和を乗せてるんじゃないか」
「 白毛の馬と女性騎手の組み合わせなら話題作りにはぴったりだろうしな」
「それじゃあカナヅルトヒメは本命か外した方がいいな」
玄人からはなぜ陸奥騎手空いているのに大和騎手を乗せるのかと疑問も多く本命から外す人が多かった。
「結構な評価だな」
横で聞いていた浅葱九十九と恭也はカナヅルコトヒメの散々な評価を呆れながら聞いていた。
「聞いてはいたが思った以上に話題上がっているんだな」。
父親が赤城調教師から話を聞いていたので予想はしていたが、父の買った馬の評価が低いのは気分の良いものでは無い。
競馬ファンの人気は高い。しかし、馬券を買う人達の評価はけして高くは無かった。
「昨日のレースを見に来ていたら口取りに出れたんだがな」
「仕方がないさ。父さんにとってはどちらも同じ所有馬だけど、葵と菫にとってはカナヅルコトヒメが本命だからね」
今日は家族全員でカナヅルコトヒメの応援に訪れていた。
どちらのデビュー戦を見に来るかを話し合うと、葵と菫がカナヅルコトヒメのレースを見に行きたいと行ったので昨日のジンライフウレツの新馬戦ではなくカナヅルコトヒメの新馬戦を家族で応援することになったのだ。
両親と妹2人は別の場所からカナヅルコトヒメのパドックを眺めていた。
息子達は初めて来た競馬場を見学がてら周りの話しを聞きながら競馬場の中を回っていた。
「親父が言うには、調教師の先生は今日の新馬戦は難しいが、経験を積んで良くなってくれれば将来は期待できると勝てるだろう言っていたそうだからな。今日は初めての競馬場の見学に来たと思って楽しめばいいじゃないか」
浅葱九十九は父が馬主になったので自分でも色々調べたりして、最初の新馬戦で勝てるという甘い考えは持っていなかった。
しかし、昨日はジンライフウレツが新馬戦を勝つというまさかが起きた。
さすがに2頭続けて新馬戦を勝てるとは思わず、今日のレースは期待していなかった。
「菫と葵はは期待しているだろうけど、まあそう簡単に勝てないことを知るのも勉強からな。
親父やおふくろが2人を上手くなだめてくれるだろう」
レースに負けたら妹をどうやってなだめるかと考えを巡らせているとパドックの周りにいた人達がざわめきだした。
パドックを見ると次の新馬戦に出る馬が周回を始めていた。
その中にカナヅルコトヒメもいた。
2人は観客の注目を浴びながらパドックを周回するカナヅルコトヒメを見つめながらどんなレースになるのかと予想しし合った。
一方パドックを周回するカナヅルコトヒメを曳いている北上厩務員は今まで感じたことがない緊張を感じながらカナヅルコトヒメを曳いていた。
今までもパドックを周回したことは何度かあったが、これほど注目されながら馬を曳くのは初めてだった。
おまけに気性難の馬なので突然暴れたりしないか、放馬しないだろうかと不安を抱えながらパドックを周回していた。
「そんなに緊張するな。カナヅルコトヒメにも伝わるぞ」
すると一緒にカナヅルコトヒメを曳いていた羽黒調教助手が注意した。
カナヅルコトヒメのパドックを北上厩務員1人に任せるのは不安があるので羽黒調教助手と2人で曳いていた。
「何かあっても、俺もいるんだからもっとリラックスしろ。競馬場に来ても警戒はしているが周りの馬を威嚇したり暴れたりする素振りは見せていないのだから安心して曳け。でないと逆に警戒させてしまうぞ 」
その言葉を聞いて肩の力を抜きながら曳くように心掛けた。
するとカナヅルコトヒメも嫌がらずに素直に曵かれているように感じた。
それでもパドックの周りで見学する大勢の人の注目には慣れないまま早くレースが始まらないかと周回を続けた。
浅葱オーナーと残りの家族もカナヅルコトヒメが周回する姿を見るためにパドックに降りてきていた。
「ほらカナヅルコトヒメが歩いてくるわよ」
母親の麻耶が歩いてくるカナヅルコトヒメを指さした。
葵は初めて来る競馬場の雰囲気を気にすることなく、カナヅルコトヒメを初めて直接見ることに興奮していた。
逆に菫は競馬場の雰囲気に圧倒されてしまい母親のそばから離れようとせず、身構えながらパドックを周回するカナヅルコトヒメを見ていた。
「カナヅルコトヒメは勝てるのかな」
菫が質問をすると
「勝てるかどうかは分からないな」
父親は甘い言葉は言わずにはっきりと答えた。
その言葉に落ち込んでいる菫に
「皆が勝ちたいと思ってレースを走らせる。だから走らせる馬が勝てるように調教師や騎手が頑張って育ててくれているんだ」
2人に対してコカナヅルトヒメがこうしてレースに出るまでに多くの人がレースに勝てるように努力してきたのだと説明した。
「ジンライフウレツもそうやって昨日勝つことができた。同じぐらい頑張ってきたカナヅルコトヒメのデビュー戦なんだ。勝てるように応援しよう」
「うん」
「 わかった。頑張って応援する」
「よし、馬を驚かせないようにパドックでは大きな声を出してはいけないからな。声を出すのはレースが始まってからだ」
2人にパドックの周りで大声を出して馬を驚かせないように注意すると2人は頷き、パドックを周回するカナヅルコトヒメに再び目をやった。
「2人とも落ち着いてくれたようですね」
浅葱麻耶は元気にカナヅルコトヒメを眺める娘を見ながらほっとした。
双子の馬の話をした時には元気をなくしていたが、夫が買うことを決めてから馬の映像や写真を見せてもらったりすることで少しずつ元気を取り戻していった。
今日こうしてレースに出る姿を見て元気な姿を見れてほっとしていた。
「これでカナヅルコトヒメがレースを勝ってくれたら万々歳なんだがな」
贅沢な望みではあるが今日は勝ってほしい。
浅葱オーナーはそう思いながらカナヅルコトヒメを見つめ続けた。




