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第53話 握手

 マサシ屋敷で一通り心の臓を揺さぶられたアルベルト一行は、精も根も尽き果てたと言った顔でリビングのソファに沈み込んでいた。


 それにとどめを刺すかのようにリビングの大型モニタにはG社のストリートビューアーが表示されていて、マサシが住んでいた土地の景色が映し出されていた。


「これで田舎だというのだから恐ろしいね。馬が無い馬車がこんなにも多く走っているし、ガラスだってそうだ。どの建物を見ても必ず使われているし、マサシくんが気兼ねなくガラス瓶を取り出す理由が良くわかったよ……」


「僕らの世界には魔力が存在しないので正確に比較はできませんが、平均的に500年~1000年は文明レベルに差があると思います」


「最低500年としても途方がない差ですな……こちらにやってきたのがマサシ様なのが幸運でした」


「そうだね……。マサシくんのように善良な異世界人だからこそ、僕らはこうしていられるけど、この技術さがあれば国家転覆はおろか、世界統一だって出来てしまうだろう。それこそ、伝説の魔王見たいな存在になっていたかもしれないね」


「マサシが魔王……くくく……」


「笑うなよーリュカー。まあ、でもこれは本当に言っておきますが、俺はただただのんびりとここで過ごせれば良いんですよ。だから強力な戦力に繋がる情報は出しませんし、自衛以外で使うつもりはありません。

 後は経済が混乱するような真似もなるべく避けたいんですが、これこそがアルベルトさんと仲良くしたい理由ですね」


 知らぬ間に経済をめちゃくちゃにする、マサシが危惧するのはそこである。マサシが気軽に使っているガラスの小瓶は見た目が気に入ったという理由で大量に100円ショップで購入したものだ。


 故に在庫はたくさんあり、これだけでひと財産になることだろう。


 これを全部売る、それ自体は問題ではない。


 数が売れればそれを目にする人が増え、一体どうやって作ったのだろう、そう考える職人も現れるはずだ。そうなった時、マサシには選択肢が与えられる。


 透明なガラスの製法を明かすかどうか。


 マサシ自身にはその知識はないが、この家は地球のインフラを無尽蔵に使うことが出来る。SNSなどへの書き込みこそは出来ないが『検索』という最大の武器は使用可能であり、ガラスの製法など簡単に調べることが出来るわけだ。


 それを一人の職人に与えた場合、その職人は一つの財を成すことだろう。しかし、このような利権を見逃さない存在というのは必ず現れる。


 貴族や王族。


 その手の人種に囲われ、技術の保護をされるというのであれば悪くない話なのだろうが、力づくでさらわれ、奴隷のように扱われてしまったり、其れが叶わなかった他の勢力から暗殺されてしまうかもしれない。


 ガラスの製法をこの世界に放った場合、果たしてどうなるのか?これがマサシにははっきりとわからないわけだ。


 知らない間に騒ぎの種を蒔いてしまっていた、これは避けたいと心から思う。


 なのでマサシはアルベルトと手を組み、出す情報の取捨選択をしていこう、そう考えたのである。


 そしてここでようやく当初の話に戻る。


「というわけで、無尽蔵に保存できる倉庫がありましてね、ああこれは流石に俺の世界でも夢物語の様な存在です。これはこちらの世界に来た際、身についた『才能』と思っていただければ」


「つくづく商人として羨ましい存在だよ君は……」


 ストレージと其れに付随する『才能』で知識さえあれば簡単に解体が出来てしまうこと。

 それに寄って大量の素材があり、それの扱いに悩んでいること。


 蜂蜜に関しては、以前説明した通り屋台を出し、パンケーキとレモネードを販売することでまずはその存在を広めると言う事を伝え、それにはアルベルトも同意してくれた。


「で……ええと、素材だったね……あ!いいよいいよ!いくつあるか言い直さなくても!後で落ち着いてから書面で見せてもらうから……うん、その素材は討伐証明となる部分、レッドホーネットだと大顎だったかな。それはギルドに卸したほうが良い。凄い反応されるとおもうけど、君たちのためになるからね」


「僕達のため?」


「うーん、出来ればあまり人には言わないでほしいんだけど、一応ギルド内で評価点というのが有るんだよ。見た目だけ立派な素人と、素人同然の猛者がいたとして、どちらに護衛を頼もうかと慣れば大体の人は立派な素人を選んでしまうはずだ」


「そうですね。冒険者ランクというのが無いわけですからそうなってしまう……ああ、なるほど、そのランクが実は存在していると」


「君が言うランクがどういうものなのかはわからないけど、内部的に貢献度というものは記録されているんだ。無論、張り出されている依頼は誰でも受託可能さ。でも、ギルドにはもう一つ『指名依頼』というのがある」


「あー、やっぱあるんですね。ギルドや国、貴族等から有能な冒険者を指名して依頼される高難度だったり、機密性が高かったりする類の依頼ですよね?」


「そ、そうなんだけど……マサシくん見てきたように詳しいね……。まあ、その手の依頼をする際にね、実はこっそりと冒険者たちを査定しているというわけさ。これは秘密だよ?皆が知っちゃったら査定のためだけに効率だけを求める冒険者だらけになっちゃって良い結果にならないだろうからね」


「勿論、秘密は守りますよ。なるほど、ランクは無いって聞いてたけどその辺はちゃんとしてるんだなあ」


「流石にこれは僕も知らなかったな。でも確かに理に適ってるよ。やるなあギルド」


(なんとか納得してもらえてよかったよ……。ギルドから重要視されるようになれば、何かあっても保護してもらえるからね……)


 アルベルトはほっとため息をつく。なるべくマサシという存在が大きく目立たないように手を回すつもりだったが、今後マサシが活動を続けるとアルベルトだけでは手が回らなくなる。


 となれば役に立つのが冒険者ギルドだ。ギルドにとって有用な存在となれば、冒険者として活動を続けられるよう、冒険者が特定の勢力に取られぬよう方々に圧力をかけて保護をするのだ。

 

 ギルドが抱える冒険者は国の治安維持に置いて大きな役割を担っている。そのためいくら国家とは言えおいそれとギルドから冒険者を強奪することは出来ないため、ギルドに目をかけられてしまえばある程度は自由な身柄が約束されるのである。


「それでは、今後も末永くよろしくおねがいしますね!」

「ああ!こちらこそ!」


 改めてアルベルトと握手を交わし、3人を家に送り届け、久々にリュカと2人ゆっくりとした時間を過ごす。


 つまりはゲームの時間である。


 なにやら話が大きくなりかけているのだが、マサシはそれにまだ気づかず、ただただ流れるぬるく幸せな時間を満喫しているのであった。


ちょっと忙しくなって時間が取りにくくなってきましたので、ちょっとの間、更新はまちまちになります。


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