第51話 秘密の公開
マサシがアルベルト達を屋敷に招待した理由、それは2つあった。ひとつはストレージの機能を公開し、実演して見せることによってマサシが持つ恐ろしい速度の解体についての実証と、それを傷まず保存できるストレージの説明をするということ。
そして実はもう一つ、これは契約魔術を用いたことで(だったらついでに)と思いついた事だった。
それをする前に、ひとつ確認をしようとマサシは自室から1つの道具を持ってきていた。それは黒くて四角いような形をしていて、中央には何か丸い穴があいている。
「アルベルトさん、これがなにかわかりますか?」
その謎の道具をあるベルトに手渡し、好きにさせる。暫くそれを回してみたり、触ってみたり、していたアルベルトだったが、とうとう降参をする。
「いやはや、悔しいけれどわからないね。失礼かとは思いつつも鑑定してみたんだが、それでも正体不明と来たよ。なんなんだいこれは?」
その言葉にマサシは少々当てが外れたといった表情をしていたが、念の為、それを使った実演をしてみせた。
「これはですね、こう使うんですよ……リリィさん、ちょっとこっちを見て下さい」
「え?私ですか?」
キョトンとした顔で小首をかしげるリリィ。瞬間、パシャリと音がなり、まばゆい光が走る。
「キャッ」
「むむっ!?マサシ殿?一体何を?」
「あっ、マサシ君……その道具はもしや……?」
それぞれ別の反応をした客をみてマサシは満足そうに笑顔を見せ、カメラから現れた厚手の紙を3人の前においた。
それは何やら白い厚紙に見えたが、やがてじわじわと何かが浮かび上がる。そしてそれが何かわかるところまで浮かび上がると3人はそれぞれ声をあげた。
「え?これって私ですか……?似顔絵を書く魔導具?私よりずいぶん間抜けな顔をしてますが……」
「いやいや、これは写真機だよ。凄いな、色がついているし現像の必要が無いようだ」
「これが写真機ですか……リリィ、これは絵ではない。真実をそのまま紙に転写する機会だぞ。魔術ではない、普通の道具だ」
その会話を聞いたマサシは嬉しく思ったこの世界にも写真が存在する。彼らの反応からすれば、初期のカメラ程度のものしか無いのだろうが、写真というものの理屈を知っていればこれからの話しは速い。
一応リュカにも以前写真の話を聞いたことはあったのだが、リュカはそれを知らなかった。故にマサシはやっぱり剣と魔法の世界じゃそんなものはないかとおもっていたのだが、アルベルトと話をしていて思いつく。
(もしかして写真という物が存在していても庶民にまでその噂が降りてきていないレベルかも知れない)
そこで庶民とは言えないアルベルトに改めて同じ質問をしようとしたのだが、ここでいたずらごころが芽生え、丁度フィルムが余っていたインスタントカメラで実演をしてみせたというわけである。
さて、なぜ写真が存在するか確認したのかといえば、それはリリィの反応に答えがあった。
マサシがいくら写真を見せたからと言って、それを写真だと知らないものが見れば『精巧な絵である』そう判断するだろう。
絵であればどんな物だろうと『想像で』描けてしまう。故にどれだけこれは真実であると訴えても証拠として使うことが出来ないわけだ。
しかし、写真という物が存在し、それを理解できるものであれば話は別である。
「これは前置きでして……こちらをご覧ください……」
マサシがアルベルトに渡したもの、それはマサシが趣味で撮影し、カメラ屋でプリントした写真たちであった。つまりは『日本の日常的な景色』であり、マサシにとっては非常に見慣れた、少々懐かしく感じる景色。
しかし、アルベルトから見れば……。
「マサシ君これは一体……どこの国……いや、何処の世界なんだい?」
この世界は地球で言う所の17世紀前後の文明レベルである。剣と魔法があり、科学技術も部分的にはそれを逸脱したものが存在しているため、厳密に同等であるとは言えないのだが、それでもそんな世界においてマサシが撮影した写真、21世紀の日本の写真は明らかにこの世界の文明を超越した高度な生活を写し込んでいた。
いくら世界が広くとも、いくら未知の大陸があろうとも、このような文明を築いて居る大国があるとはアルベルトには思えなかった。故に国ではなく、「世界」と言い直した。
その反応にマサシは喜ぶ。流石アルベルトさん、話が速い!と。
「アルベルトさん、そしてライオットさんにリリィさん。僕と交わした契約の3つ目を思い浮かべて下さい」
3人の思考の中に以下の文章が思い浮かぶ。
【以上を含め、マサシが開示を認めたもの以外での『この大陸に到着した以前のマサシに関わる情報』の開示を禁ずる】
「その契約を取り交わした時点で、皆さんに何処まで俺の情報を明らかにするのか決めかねていたため、広く縛れる様にそのような回りくどい契約をさせていただきました」
そしてマサシは語る。
とある事情でこの土地に自宅毎『転移』してきた『異世界人』であること。その際、とある存在から様々な能力を与えられたこと。予めこの土地から転移出来る場所として『タトラ大森林』が登録されていて、その縁があってリュカと出会い、その近隣にあった『ラナール』に向かうことになったということ。
「なるほど……。この土地がマルリール大陸の外ということであれば、僕と会う前に居た場所、つまりはこの土地の情報を誰かに話すことは出来ないし、さらにそれ以前に居た異世界の情報も話せない、そういうわけか……なかなか上手に契約したもんだね」
何だかおかしそうにクツクツと笑うアルベルト。
「正直なところ、この世界に大きな影響を与えてしまいそうなのでアルベルトさんと言えど、この情報を明かすのは迷ったんです。でも、契約魔術まで用いて約束をしてくれたし、俺はあんまり隠し事がうまくないと言うか、何か相談をする際に楽かなって思ったんですよ」
「なるほど、それなら納得だ。安心した前。僕とてただの人間だし、何より商人だ。君の家や持ち物、知識にはそりゃもう興味が尽きない。でもね、恩人として、友として。君を食い物にしようとは思わない」
マサシはその言葉を真実だと確信し、嬉しさに笑みをこぼした。
「俺がこの世界にいつまで居ることになるのかわかりません。でも、影響が出ない程度に何らかの技術や知識は提供するつもりですよ……まあ、僕の生活が向上するようにと言う下心がありますが」
アルベルトはそれに嬉しそうに頷き、ぜひ協力させて欲しいとマサシと握手を交わす。
そして不思議そうな顔でマサシに質問をした。
「しかし、リュカ君の事はずいぶんと信用しているようだね?そこで普通に聞いている、いや、それ以前にここで一緒に暮らしているんだろう?当然君の秘密は知ってるんだろ?」
リュカがマサシを利用してなにかするかも知れないとは考えなかったのか?アルベルトは総質問をした。
マサシは(ああ、そういうのもあったか……)と、改めて自分の甘さに気がついてしまったが、後の祭りである。そして、こうも思った。
「まあ……リュカの性格ですから……僕の秘密を知ってもうまく利用できるとは思えないかと……」
「成る程、そのとおりかもしれんな。はっはっはっは」
「ちょ、ちょっと!黙って聞いてればなんてことを言ってるんだよ!僕だってやろうと思えば……!」
「でもやらないでしょ?俺はそこがリュカの良いところだと思ってるし、好きなところだよ」
「も、もう!マサシは!もう!」
(お熱いことで)
声に出さず、ニヤニヤと笑うアルベルト。そんな事は知らずにマサシは説明することがますます増えてしまったと少々後悔し始めていたのだった。




