第49話 ヒミツの契約
「っは!私は?一体何が?」
復活したアルベルトだったが、目の前に置かれたツボを見て全てを思い出し、再度気を失いそうになる。しかし、そこは流石に商会長。二度目はなんとか持ちこたえ、いくらマサシでもどうなのだ、と突っ込まざる得なかった部分にメスを入れる。
「ううむ、マサシくん。私としては君が嘘をつくような者ではないと思っているし、解体の話もおそらくは本当なのだろうと思っている。つまり君を信じたいんだが、証拠が欲しい」
「証拠……ですか?」
「うむ……。君は他所からこの街にやってきた旅人だろう?つまりは家を持っているわけではない。確か『森の語らい』に泊まってるんだったね?いくらなんでもあの宿に置くのは無理だし、何処で解体して何処でツボに入れたのか、それも謎だ」
そう言われ、マサシは困ってしまった。証明するのは簡単だ。家に連れて行って実際になにかを解体し、家自体が巨大な魔導具だと言ってしまえば済むのである。
しかし『家に連れて行く』これが問題だ。アルベルトの事は信用しているつもりだが、商人という相手はやはり油断ができない存在である、マサシはそう思っている。
マサシは自分のスキルやあの家が自由になれば国の1つや2つ買えるのではないか、そう考えている。マサシ自身にはそんなつもりは微塵もないが、商人であればどうだろう。
大きな商材が転がっているのを見て目の色を変えるのではないだろうか?
善良だった知人が金が絡んで人が変わったかのようになったのを見たこともあった。
さて、どうしよう?このアルベルトという男を信じて良いのだろうか?マサシは悩んで悩んで悩んだ末にようやく声を出す。
「ええと……、アルベルトさんの疑問を解消するのは簡単なんですが……なんというか、守秘義務というか、その……あまり外部に漏らしたくはない特殊な方法で……」
もごりもごりと言いにくそうに話すマサシを見てアルベルトはニヤリと笑う。
「つまり、僕が……ごほん。私が外部に情報を漏らしたり、君をしたりするのを……恐れている……そういうことだよね?」
マサシはギクりとした。まさに考えていることをそのまま言われてしまったからだ。
「ああ……その……ええと……」
「あはは!いいんだ。私と商売をしようとなれば、それくらいじゃなきゃね。私は君に多大な恩義を感じているから決して裏切らないし、君を利用しようとなんて思わない。これは信じて欲しい。けど、出会って然程たっていない僕を信じて欲しいと言ったところで難しい話だし、私だってきっとそうだろうと思う」
そして『そこで』と、一言言って、執事になにか言伝をして1枚の紙、古めかしい羊皮紙を持ってこさせ、マサシの前に広げた。
それに反応したのはリュカだった。
「それは……契約魔導書?」
「流石リュカ君。高位の魔術師であるエルフの君は知ってたか。そう、これは契約魔導書。特別な魔術が込められていてね、契約内容と名前、そして契約者の体液……一般的なのはツバかな。それをつけることにより、簡単には破ることが出来ない契約をすることが出来る」
マサシは『出たな!』と内心思っていた。この手のファンタジー世界をモチーフにしたノベルでたまに見かける契約魔術。双方同意のもと使用されるそれは約束を破るとなにか恐ろしい目に遭う、そんな代物だった。
眼の前に置かれているそれもマサシが知っているものに近い道具で、書き込んだ秘密について、受託側は一切他人に喋ることが出来ない―喋ろうとしても言葉となって出てこないし、約束事は破ろうと思っても行動に移すことが出来ない、そういうものだった。
(命のやり取りが無いというのは……気が楽でいいな……)
特に約束を破ったら死ぬとか、呪われるとかその手の物騒な魔導具ではないことにマサシはほっとして、これを出すというくらいであれば信頼してもよいだろうと思った。
「あ、マサシくん私には君がなにを考えているかわかるよ。これを出すくらいならこんなものは必要ない、そう思っているね?でもダメだよ。僕としては……まあいいか。僕としては覚悟を見せたいんだ。
君と付き合いを続けていけば色々と面白いものを見せてもらえそうだ。一時の付き合いで済ませたくはない。無論、協力は惜しまないし、出来ることなら何でも手伝わせて欲しい。そうだな、君と対等な友となるために契約をして欲しい」
友達となる契約、そう考えるとマサシはなんだかおかしな気分になったが、商人というのはそういう生き物なのだろう、そう割り切ってマサシは頷いた。
そして契約書類に書き込んでいく。これは使用者、つまり秘密を守らせる側が書き込む必要がある。代筆は不可能であり、マサシは心からマルリール語スキルを取ってよかったと思った。
書き込んだのは以下の通りである。
・マサシの能力と所持品の秘密についてそれを知らぬものに対する情報の開示を禁ずる。
・マサシの許可なくそれを私利私欲のため使用することを禁ずる。
・以上を含め、マサシが開示を認めたもの以外での『この大陸に到着した以前のマサシに関わる情報』の開示を禁ずる。
2行目までは見てのとおりだが、3行目は少々これでいいのかという不安があった。これは今後明らかにするかも知れない『異世界からやってきた』という情報を制限するものである。言ったところで信じるものは居ないだろうが、念には念を入れるに越したことはない。
そしてアルベルトからの願いで、メイドのリリィと、執事のライオットも連名で書類にサインをし、それぞれ指に唾を付け、書類に押して契約はなされた。
4人がそれぞれ書類に指を押すと、書類上に魔術陣が現れ、白い炎が立ち上ってそれを焼いてしまう。驚くマサシにアルベルトが説明をする。
「これでこの書類は第三者から見られることが無くなった。書き込んだ内容については、念じれば頭に浮かぶので問題ないよ」
言われるままに念じると、確かに頭に書類の映像がそっくり浮かび上がる。どういう仕組みか分からないが、魔術なのだからそういうものなのだろうとマサシは割り切った。
そして―
「では、今度は僕が誠意を見せる番ですが、あいにく僕は説明が上手ではありませんし、説明したところで信じてもらえるか疑問です。そこで、貴方方を僕の家に招待しようと思います」
「……驚いた。まさか家を持っているとはね。あれかい?森の語らいは偽装のために借りているのかい?なんというか、少々君を侮っていたかも知れないなあ」
「まあ、偽装というのは間違いではないのですが、恐らくアルベルトさんが考えているような方向では無いと思います。では、今から向かいますので手をつないで貰っていいですか?」
「今から……って、ええ?手?」
アルベルトだけではなく、リリィもライオットすら珍しく困った顔を浮かべている。皆で輪になるように手をつなぎ、マサシが一言告げる。
「それでは……転移!」
特に『転移』という必要はないのだが、3人に理解をしてもらうため、わざと声に出す。そして間もなく3人はマサシの家、隠れ里に転移する。
「ここは……いや、今のは……転移といっていたけど……」
「転移術……。失われし時空魔術と聞いたことがありますが、いやしかし本当に……?」
「ええぇええぇ……??私なんだか……頭が追いつきません……」
ポカポカと暖かで、やわらかな光が差し込む優しい場所。透明度が高く蒼く輝く泉には様々な魚が泳いでいて、周囲に咲く彩り豊かな花々がそれに映り込む。
そして泉の向こう側にはアルベルトの家よりはだいぶ小さいけれど、それでも庶民の家とは思えない立派な……しかし、見慣れぬ建築様式の家が構えている。
「ようこそいらっしゃいました。ここが僕の家、サワタリ邸です」
興奮したような、混乱したような3人を見て、リュカは(そうそう、そうなるんだよ最初はさ)と、一人なぜかドヤ顔をして嬉しそうにしていた。
ぬぐお……明日の分がなぜ今日上がってしまったのか!




