第43話 蜂の巣襲撃
そして夜である。マサシ達は既にポイントに到着していた。幸いだったのは夜ということでレッド・ホーネットの巣がキチンと見えていないことか。
見た目的には2階建ての家くらいの球体がごろりと地面に落ちている、ただそれだけなのだが、スズメバチの巣のようにマーブル状の模様が禍々しくうねるその巨体は見るものが見れば正気を失う不気味さがあった。
「しかしこれ凄く便利な魔導具だな?両手が使えるし明るさも結構あるってやばいぞ」
「……魔力消費している気配がないから魔導具なのか疑わしいけどね……」
「でも、どうして光が赤いの?」
銀の牙に貸し出している装備、ヘッドライトである。ライトもまた、うっかり1つ購入すると仲間を呼ぶ類の危険な道具であり、キャンプ用にひとつ買ったマサシは見事にハマって売れるほど様々なライトを所持していた。
ヘッドライトも勿論何種類か所持していて、妹からもしばしば呆れた目で
『なぜ同じようなのをいくつも買うの?』
と、言われていたが、マサシからしたらそれは愚問であった。
(光量の違いとか、装着感とか色々あるんだけどなあ)
そしてマイナの質問どおり、マサシ達が装着しているライトは赤い光を放っていた。これは事前にマサシが赤のセロファンを貼り付けていたためだったが、キチンとした理由がある。
「赤い光は蜂にとって見にくい光らしいんですよ。つまりこちらが一方的に有利な状況を作るためといいますか……」
「なるほど!マサシくんエグい!」
「そこは褒めてくれると嬉しいです……」
慎重に赤い光で巣を照らすも、それに張り付いているコマンダーやソルジャーは気にする様子もなく、大人しくしている。
「では、作戦開始です。皆さん位置について下さい」
銀の牙の3人は巣の正面からやや離れた所に位置を取る。夜で感覚が鈍っているとは言え、3人が移動を始めるとソルジャーが何匹かフラフラと警邏をはじめて銀の牙は肝を冷やす。
3人が位置についたのを確認し、マサシとリュカは巣の左側に移動した。
(動きそうなのはソルジャー4匹にコマンダーが2匹かな……?)
マサシはリュカの肩をポン、と軽くたたき、それをもって作戦が開始された。
『集え我が手に集え集い揺蕩い球となれ育て育て……』
リュカが通常とは異なる呪文を詠唱する。規模が大きな魔術は成功率を高めるため、通常は詠唱を持って発動させる。更に今回はマサシの注文が入りリュカがカスタムしたオリジナル魔術を発動させる必要があった。
慣れない術はさすがのリュカでも無詠唱とはいかず、詠唱のため声を出す必要があり、同時にスキが生まれてしまう。
マサシがリュカのそばに付いているのは護衛の役割であった。
リュカの声や巣の周辺に集まる異様な魔力に反応したコマンダー達が慌てたように巣から飛び立つ。詠唱はまだ終わらぬため、マサシは木刀を構えリュカを護るように立つ。
向かってきている敵はコマンダーが2匹、ソルジャーが3匹。ちょっとこれは多いのではなかろうか?マサシが苦笑いをしていると眼の前を燃え盛る火の玉が通り抜けていく。
リオンが放った火属性魔術、ファイアーボールであった。幸いなことにそれを見たソルジャー達が火の元に向かってフラフラと飛んでいくのが見えた。
(リオンさん、ありがとう……)
そして間もなくリュカの詠唱が終了する。
『……球よ育て育ち包めど濡らさず包み流面の折となれ……アクアバルーン!』
巨大な巣を包み込むように更に大きな水球が現れる。水球の表面には水流が発生しており、巣を地面にくくりつけていた『根』となる部分を強引にへし折り、巣をそっくりと水球の中に閉じ込めてしまった。
流石にそこまですると慌てたレッド・ホーネット達が巣から飛び出してくるが、水球を破ることは叶わず内側でブンブンと羽音をたて怒っているようだ。
(頼むよリュカ!流石にあの量が全部出てくるのは困る!)
マサシは木刀を腰に構え、体勢を低くしてコマンダーを迎え撃つ。まずは牽制のつもりでファイアボールを放った。
詠唱もせず、まして手や杖で構えた様子もないのにマサシの肩の辺りから発動し飛んでいくファイアボールというのは見るものが見れば頭を抱える光景だろう。
(魔術とは精霊から力を貸してもらう、つまり手や杖でかっこつけなくても撃てるのでは?)
ふとそう考えたマサシが試した所、出来てしまった。出来るのであれば使わねば勿体無い。これに関してはリュカから怒られることはなく、寧ろ
「よく気づいたね、そうなんだよ。杖はあったほうが良いけど、別に手や杖からじゃなくても魔術は撃てるんだよ」
と、足の裏から風を発生させて廊下を滑って見せてくれた。……その後転んでいたが。
牽制と言いつつも、マサシはどんどんファイアボールを撃っていく。最初はひょいひょいと避けるコマンダーだったが、あまりにもマサシが連射するものだからやがて避けきれなくなり、羽根や身体を焼かれてガチガチとアゴを鳴らして怒っている。
たまらず1匹がマサシめがけて突進をする。マサシはこの時を待っていた。
『ゆくぞ……我が秘奥義うけてみよ……迅雷斬……ッ!』
保険の『失敗フラグ』も忘れずに技名を叫ぶ。闘気を纏った木刀から放たれる迅雷斬であればコマンダー程度余裕だろうと思っていたが、念の為の保険であった。
コマンダーの首が身体から離れたのを視界の隅で確認すると、そのままの勢いでもう一体のコマンダーの元へ飛び込んでいく。
『鎌威太刀……!俺とあったことを後悔するんだな……!』
もはやただの痛い人にしか見えないセリフだったが、これはキチンとした『負けフラグ』なのである。どうやらリュカの耳にも届いてしまっていたようで、プルプルと肩を震わせている。あまり笑いすぎると術が解けてしまうため、マサシは気が気ではなかった。
マサシはレーダーを開き、周囲のレッド・ホーネットを確認すると、残数は1。どうやら銀の牙もうまく立ち回れたようである。
「リュカ、あっちも終わりそうだしそろそろ仕上げをするよ。ごめんね、疲れたでしょ」
「お気遣いありがとう。でも大丈夫だよ僕の魔力なら明日の夜まで余裕なくらいさ」
「それならそのままリュカの水球で閉じ込めたままにしてもらったほうが楽かな……?」
「うそうそ!流石に朝まで持たないから!無理だから!」
少々調子に乗って盛ってしまったリュカだったが、マサシの血も涙もない発言を聞いて慌てて否定するのだった。




