第35話 マサシ達 街に帰る
オークションの開催日が近づき、マサシ達は森から街に戻ってきた。山のように納品された素材にギルドの職員は苦笑いをし、次々に達成処理を進めていく。
以前リュカが説明したとおり、この世界のギルドには『ランク』というものは存在しない。そのため、ランクに寄るクエスト受託の制限というものはなく、良くも悪くもいきなり実戦環境に飛び出せるようになっている。
しかし、それは表の話であった。確かにギルドに張り出される依頼は責任の下誰でも受託が出来るし、達成できれば勿論報酬だって貰うことが出来る。
だが、表に出ない依頼というものがある。多くは貴族や国、またはギルドから依頼されることになるのだが、そのどれもが重要度が高い成功を求められる依頼ばかりだ。
そのため、流石に其ればかりは誰でもというわけには行かず、指名依頼という形でギルドから声がかけられることになる。その際に参照されるのが貢献値である。
冒険者がどの様なクエストをどのように達成したか、または失敗したかを実はきっちりと記録している。それによって冒険者のランクを秘密裏に決めているわけだが……。
ランクは1から10まである。10が一番下で、評価によって昇進すると数値が若くなっていく。これを公表しないのには理由がある。公表すればモチベーションに繋がり冒険者レベルの引き上げに繋がるのは明らかではあるが、昇進のために手段を選ばない連中は当然現れるだろうし、昇進のためにポイントが低そうな依頼がないがしろにされるのが落ちである。
故にマルリール大陸のギルドはそれを非公開とし、秘密裏に管理している。
さて、マサシ達のランクだが、例えば銀の牙の3人は仲良く『5』の位置についている。
評価としては中堅であり、将来的に上位冒険者に入る見込みがあるとされている。今後評価を上げていけば指名依頼を飛ばされる位置まで上がることだろう。
さて、マサシとリュカはどうだろう?リュカは現在7の位置にあり、マサシは8である。リュカは地味な活動をしていたからこのランクであるし、マサシに至っては登録からまだひと月の冒険者であるから8という数字は寧ろ高い方である。
今回のような明らかにやりすぎた報告をしてしまえばどうなるかと言えば……当然上の眼に入ることとなるわけだが、マサシが大量納品をした時、やはり正しくフラグが反応した。
『規格外の冒険者が国の目に留まる』
これがそのままの意味で反転すれば何事も起きず平穏なままになるわけだが、あいにく【フラグリバーサル】は【まきこまれ体質】と【ラノベ主人公】につつかれて妙な化学反応を起こしてしまう。
結果としてどうなるか。
国に上げられた報告書が目を通される際、マサシのページは前の紙にくっついて見落とされてしまう。結果としてマサシの存在は国にはまだ明らかにはならず、そのまま通過する。そしてそれが次に回されるのは貴族である。
貴族もまた、有力な冒険者を求め目を光らせているわけだが……。
それもまた、フラグリバーサルは華麗に躱す。では何処に落ち着くのかと言えば……。
「……あら?この冒険者……登録からひと月でこの達成率?しかも全部評価Aじゃないの。……どうして国やお父様は流したのかしら?素行が悪いから?それとも何か理由が?
気になる……この冒険者……気になりますわ……!」
まだ見ぬ何処かの誰かの目に留まる。このフラグがマサシのためになるのかどうか、それはまだわからない。
◆
報告を済ませたマサシ達はこのまちの拠点、森の語らいにやってきた。今回もまた多くの金額を受け取ることとなり、金貨6枚に銀貨32枚銅貨50枚、日本円にして約632,500円もの稼ぎである。以前の報酬と合わせればかなりの金額であり、増してこの後行われるオークションの売上が入れば暫く遊んでいても良いくらいにはなりそうだった。
オークションが開催される場所は2種類ある。王都ルクスニアで年に1度行われる大規模なものと年に数回各街で開催される小規模なもの。今回マサシの砂糖が出品されるのはマルリールを会場として行われる小規模なもので、アルベルトはその事についてマサシに謝っていた。
曰く、このようなものは本来王都のオークションに出すべきだった。しかし今年は既に終わっていて出すことが出来ない。だからこの街のオークションに出すことになるが、王都のオークションと比べるとあまり良い値がつかないだろうと。
もし待てるのであれば来年……と言われたが、マサシは手っ取り早く安心がほしかったため、安くても良いとこの街のオークションに出すことを了承したのだ。
今思えばクエストでそれなりに多くの金額を稼げているので、来年まで待つという手が最善だったのではとマサシは思ったが、今更何を言っても遅いし、なによりマサシは若干せっかちなところがある。余り待つということをしたくなかったマサシは「まあいいや」と割り切っていた。
2人が宿の扉をくぐると宿の少年『ポラ』が2人を出迎える。ポラは扉の向こうからやってきたリュカとマサシの姿を見るなり頬を薔薇色に染めて顔を綻ばせた。
「あ!おかえり!リュカ!兄ちゃん!」
「ただいま、ポラ!お部屋開いてるかな!」
「うん!あの部屋、開いてるよ!」
まるで兄弟のような二人の姿をマサシはニコニコと見守っていたが、そうだ宿代をと女将さんの所に向かいチェックインをする。
「この間はすいませんでした。取り敢えず、ひと月分の前払いをお願いしますね」
「あいよ、じゃあ預かってる分から引いて……って、あんた言葉を喋れたのかい?」
宿の女将は驚きマサシを見る。この間来た時はリュカを通して会話をしていたエルフ語しか話せない風変わりな男。それがしばらくぶりに会ったと思ったらマルリール語を、しかも綺麗な発音でしっかりと話している。これが驚かずにいられるだろうか。
しかし、マサシは事もなさげに理由を話す。
「あー、リュカと2人森に籠もってる間、不便だからと言葉を教えてもらったんですよ。おかげでこの通り、女将さんやみんなと話ができるようになりましてね……あれ?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔で見つめられ、マサシは言葉を止める。
「……なんというか……見た目もだけど、頭の出来も出鱈目な人だねえアンタ……リュカが連れてきた理由がちょっとわかるような気がするよ」
何を言っているのかちょっと理解が及ばなかったマサシだが、例の怪しげな服のままであることを思い出し、明日こそは服を買いに行こうと誓うマサシなのだった。




