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西野家母、加奈子は、化粧品会社に勤めている。役職は係長だ。
「お疲れ様です」
かけられた言葉に軽く会釈を返し、帽子を深めに被りなおす。
社内清掃員。さすがに道路工事と同じわけにはいかず、清掃員としての潜入と相成った。
作業自体は単純なものだ。社内のごみ箱を空にすること、掃き掃除、窓拭き。以上。
そして今は昼時。不用心にも加奈子が携帯電話を置いて昼食を食べに行くことは調査済み――
何事も無い風を装って、箒で床を掃きながら、加奈子女史の机へ。その時、ちりとりを床に置き、箒でゴミを掃き入れようとして――
「あ! っと」
曲げた尻に机が当たり、その衝撃で机の端に置いてあった書類の山が崩れてしまう。
慌てて書類を拾い、角を揃えて机の上に置き――
一緒に「落とした」携帯電話は、ちりとりの中に掃き入れてしまった。
ちりとりは、一度入れたごみは外から見えないタイプのものである。
その後も何事も無かったかのように掃除を続け……
そのフロアを出た。
そのまま、そのまま。
平静を装って、廊下を掃きながら、ゆっくりゆっくり、その階にあるトイレまで急ぎ、奥から三番目のドアをノック。モールス信号。あ、け、ろ。
果たしてドアは開き、中から男が出て来た。
素早く個室の中に入り、鍵を閉める。
「ほら、約束の金だ。今日お前は何事も無く仕事をこなした。そうしたら貸したのを忘れていたお金が返ってきた――いいな?」
諭吉を十人男のポケットにねじ込み、そいつが頷くのを確認してから、その会社を後にした。
ズボンの右ポケットは、来た時よりも携帯一台分膨らんでいた。




