↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/6

第5話 素面の実力

ラークに昔話をした翌日。

バースは深酒してしまい、ひどい二日酔いになっていた。


「……いてて。昨日は感傷的になり過ぎたな……」


痛む頭を両手で押さえながら、重い身体をベッドから起こす。

少し起きるのが遅れていたが、食堂に向かうと、マリアがすでにパンとスープを用意してくれていた。

バースが静かに朝食をとり始めると、サラが頬を膨らませながらやってきた。


「おじさん、やっと起きたの?! ちゃんと今日の分の水汲み、お願いね。ついでに臭いから、身体も洗ってきて!」


「……おう」


怒りながら去っていくサラの後ろ姿に、バースはふと、出ていった娘の面影を重ねた。


水汲みの前に、井戸で身体を洗う。

冷たい水を浴びながら、バースはぼんやりと過去に思いを馳せた。


(娘は今、いくつになったんだったか……。サラより少し上ぐらいか)


洗い終えると、大きな桶を二つ担ぎ、宿へ向かって歩き出す。

ぼーっとしていたせいで、角を曲がったところで若い男と肩がぶつかり桶の水が大きくこぼれた。


「おい! デカい図体でぼーと歩いてんじゃねぇ!」


若い男が喚いた。


「……すまん」


「ちっ! 今度から気をつけろよ、おっさん!」


舌打ちして去っていく背中を、バースは黙って見送った。


(はぁ……昔の俺だったら、謝らずに喧嘩してたろうな……)


バースはトボトボと井戸に戻り、水を汲み直した。


昼の鐘が鳴る頃。

肩を落として水汲みから帰ってきたバースに、ラークが声をかけた。


「おじさん、二日酔いでしょ? 酒場の営業もあるし、キツかったら昼間は休んでていいよ。日当は当然減らしますけど」


「……そうする」


バースはラークに言われるがまま、自室へ戻っていった。

小さく丸まった背中を、ラークは黙って見送った。


夜。

酒場はいつも通り営業を始めていたが、バースは酒を口にせず、カウンターの隅に座っていた。


「なんだい、用心棒さん。今日は飲まないのかい?」


厨房からマリアが茶化すように声をかけてくる。


「昨日、飲みすぎたからな……」


バースは水を片手にボンヤリと酒場を見つめていた。


客たちの酔いが進んだ頃だった。


「へへへ、姉ちゃん達こっちきて酌してくれよ」


酔った三人組が、サラとキアルに絡み始めた。


「お客さん達、ちょっと飲み過ぎみたいだから、お酒はもう出しません!」


サラが強気に言い放つ。


「いいから、こっちきて酌しろよ!」


「きゃっ?!」


一人が強引にサラの腕を引っ張った。


「サラに何すんのさ!」


キアルがすぐにその手をつねる。


「いたた!」


客の手が離れた隙に、二人はラークの後ろに隠れた。


「すみませんが、今日のところはお引き取り願いませんか……?」


ラークが恐る恐る声をかけた。

すると三人組は一斉に立ち上がり、ラークたちを囲んだ。


「俺たちは楽しく飲んでただけだろうが! 文句あんのか!?」


(まいったな……今日は飲んでないんだが……)


バースは重い腰を上げ、のそのそと三人の前に立った。

酔っていない彼の姿は、いつもの威圧感がなく、どこか小さく見えた。


「……すまんが、娘っ子にちょっかい出さんでくれ。それと、これ以上騒ぐようなら帰ってくれ……」


「やんのか、おっさん?!」


三人は今度はバースを取り囲んだ。


(三人か……どうしたもんかな……)


そうバースが考えているうちに——


バシッ!


一人がバースの顔面を殴った。

バースは避けきれず、大きくよろめいた。


「このおっさん、大したことないぞ! やっちまえ!」


三人に寄ってたかって殴られ始めた。

ラークは慌てて厨房から強い酒の瓶を持ち出し、バースに差し出そうとする。


「おじさん! お酒!」


「邪魔すんな!」


ドン!


ラークはあっさりと吹き飛ばされ、床に転がる。


「いてて……」


「大丈夫?! お兄ちゃん!」


サラが駆け寄る。キアルも心配そうにバースを見つめていた。

バースは不安を抱えた2人の顔を見た時、心配そうに自分を見る娘の姿が一瞬重なった。


「うおおおー!!!」


突如、バースが目を見開いて叫んだ。

近くの長椅子を掴み上げると、三人に向かって勢いよく振り回す。


バキッ!


「ぐあ?!」


よろめいた三人を、今度はテーブルを持ち上げて壁まで押しやり、そのまま抑えつけた。


「ラーク! 何とか抑え込むから、憲兵を呼んでこい! 憲兵!」


「おっさん、さっさとどきやがれ!」


抑え込まれながらも、三人は執拗にバースの頭を殴り続ける。


「おじさん、憲兵が来るまで頑張って!すぐ呼んで来るから!」


ラークが店を飛び出そうとした、その時――

常連客が憲兵を連れて店に入ってきていた。

マリアがバースの調子が悪いのを見て、常連客に頼んで先に呼びに行かせていたのだ。

三人組は文句を言いながら憲兵に連行され、酔いが覚めるまで留置所で過ごすことになった。


「いてて! こりゃ明日は盛大に腫れるな……」


バースが顔をさすりながらぼやく。


「おじさんが調子悪いのに、トラブルになっちゃった……ごめんね、おじさん」


サラが濡れタオルを持ってきて、バースの顔を優しく拭く。


「気にするな……俺も今日は、昔の事を思い出し過ぎてたからな……」


バースがうなだれていると、ラークがつかつかと近づき、少しぶっきらぼうに安酒の入ったグラスを差し出した。


「おじさんの場合、お酒飲んだ方が傷の治りも早いんじゃない?」


バースはグラスを受け取り、中の酒をじっと見つめた。


「……そうだな!」


バースは初めてその日、笑顔を浮かべると、酒を一気に飲み干した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。