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地味だからと婚約破棄宣言した彼は、なぜか投げ飛ばされました。  作者: miniko


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31 過去の来襲

 私とヴィンス様がダイニングに入った時、お兄様は既に席に着いていた。

 繋がれた私達の手を見て、お兄様は眉を顰める。

 ピリピリとした空気に耐えられなくて手を離そうとしたけど、逆にギュッと握り込まれてしまった。


「兄の前でイチャつくの、ヤメロ」


 お兄様はヴィンスさんを睥睨しながらそう言った。


「手を繋いだくらいで大袈裟な。

 そんな事より、僕のシェリルはやっぱり最高だよ」


 ヴィンス様は、お兄様が発する不機嫌な空気にも全く動じる様子がない。

 強い。真似出来ない。


「お前なんかより、俺の方が良く知ってる。

 それに、お前のシェリルじゃなくて、俺の妹のシェリルだ」


 子供みたいに対抗心を剥き出しにするお兄様が可愛く思えて、少し笑いそうになった。


「ハサウェイ伯爵領にも関係する話だから、食事の後に少し時間をくれ」


「分かった。

 丁度こっちもお前達に話しておきたい事があったんだ」



 当たり障りのない会話を楽しみながら昼食を済ませ、談話室へと場所を移した。

 どちらが私の隣に座るかで少し揉めたが、ヴィンス様ががんとして譲らなかったので、結局お兄様が折れた。


 ニコラが淹れてくれた紅茶を一口飲んでから、お兄様は徐に口を開いた。


「それで、領地にも関係する話ってなんだ?」


 ヴィンス様に視線を向けると、軽く頷かれたので、私が説明する事にした。


「まだ、事業計画と言える段階ではないのですが───」


 そう前置きをして、蜂のレンタル事業についての概要と、それを思い付いた経緯をざっくりと説明する。

 お兄様は時折小さく頷きながら、真剣な表情で私の話を聞いてくれた。


「……なるほど。

 山火事という状況は特殊だが、そうじゃなくても気候変動や天候不順なんかで虫の活動が鈍くなるケースはありそうだし、蜂のレンタルが可能になれば収穫量が安定するだろう。

 林檎と同じ様に、自力で受粉が出来ない作物は結構あるから、上手く行けばそういった作物の産地に需要が見込めるかも……」


 お兄様は私贔屓だが、なんでも私の言いなりになってくれる訳ではない。

 当たり前だが、次期領主としての責任があるので、領地の事業を巻き込むのなら、利益が出ない計画には絶対に協力してくれない。


 そう言う意味では、今の所感触は悪くないと思う。


「調べてみた所、理論上は移動が可能みたいなんですが、実際やってみないと成功するかどうかは分かりません」


「温度管理と、揺れの軽減か……」


 お兄様は難しい顔をして考え込む。


「巣箱の壁を、木ではなく、麻や綿などを荒く織った布にして、通気性を確保したらどうかな?」


 ヴィンス様の提案は、結構良いかもしれない。

 木枠に布を張って巣箱を作れば、従来の巣箱よりは熱がこもらないかも。


「そうだな。それから、馬車の荷台に衝撃を吸収する素材を敷いて、その上に巣箱を固定したら───」


 互いに知恵を絞り出し、実証実験の方向性がどんどん決まっていく。

 ああでもない、こうでもないと、三人で相談するのは、なかなか楽しい時間だった。

 基本的に三人共、仕事が好きなのだと思う。


 どうにか一歩を踏み出せそうな状況にホッと一息ついて、少し冷めた紅茶を飲み干した。



「それで、お兄様の方のお話とはなんですの?」


 蜂の話がひと段落ついたので、そう尋ねると、お兄様は先程までとは打って変わって苦い顔をした。


「アイリーンから手紙が届いた」


 珍しい事もあるもんだ。

 アイリーンが私ではなくお兄様に手紙を出すなんて。

 そう思ったのと同時に、少し嫌な予感がした。


 そして、続いたお兄様の言葉により、私はその予感が的中していた事を知る。


「ヘンリー・ベンサムが、姿をくらましたらしい」


「ヘンリー様が?」


「ああ。アイリーンは、シェリルに接触するつもりなんじゃないかと懸念している」


 体の芯がスウッと冷たくなるのを感じた。

 幸せな未来が見えかけていたのに、捨てたはずの過去が追いかけて来るかもしれないなんて───。


 ドクドクと心臓が嫌な音を立て始める。


 テーブルの上でギュッと握り締めていた私の手に、大きな手が重ねられた。

 隣に座るその手の主へ顔を向けると、気遣わしげな瞳と視線が交わる。


(大丈夫。今更、ヘンリー様なんかに壊されたりしない)


 なぜか自然とそう思えて、騒がしかった胸がスッと鎮まった。



 アイリーンの手紙によれば、発端はベンサム侯爵が正式にヘンリー様を後継の座から降ろす決断をした事だったらしい。


 以前から検討はされていたみたいだが、ヘンリー様の婚約者が見つからなかったのが決定打となった。

 遅過ぎる決断だと思わなくもないが、息子に対する情とか、侯爵にもきっと色々な葛藤があったのだろう。


 ヘンリー様は学園を退学させ、領地の片隅に住まわせ、そちらで常識に関する再教育を継続させる予定だった。

 最終学年の私達は、卒業まであと半年ちょっとしかない。

 卒業まで通わせる選択肢もあったと思うが、新たな後継者に指名された異母弟の地盤を固める為には、ヘンリー様の存在が邪魔だったのだろう。


 再教育が成功すれば、将来的には異母弟のサポートをさせようとしていたらしい。

 表舞台には立てなくても、それなりの生活は出来るはずだった。


 だが、領地へ向かう道中、ヘンリー様は消えた。


 状況から事件性は低く、自分の意思で消えた可能性が濃厚だと言う。




 本来ならヴィンス様は一週間程度の滞在予定だったのだが、私を心配して期間を伸ばしてくれた。


 しかし、十日程経ってもヘンリー様は現れず、取り越し苦労だったかと皆が思い始めた頃───。



 とうとう招かれざる客がやって来た。


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