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地味だからと婚約破棄宣言した彼は、なぜか投げ飛ばされました。  作者: miniko


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30 林檎畑を救うのは

 知らなかった事実を告げられた私は、急な罪悪感に襲われた。


 いつも助けてくれて、私の心を軽くする言葉をくれるヴィンス様の事を『随分と親切な人だな』なんて、漠然と思っていた。


 でも、彼がずっと私に好意を持ってくれていたと言うのなら───。

 全ては単なる親切心なんかじゃなくて、私への愛情だったのかもしれない。


 ならば私も、彼に何かを返したい。

 与えられるばかりでは、不公平ではないか。



 そう考えたら、居ても立っても居られなくなった。



「ニコラ、急いで着替えを手伝って!」


「朝食に向かわれるのですか?」


「いいえ。書庫にいくわ」


「はぁ? 書庫、ですか?」


 ニコラは私の意図が読めずに首を傾げながらも、普段着用のワンピースを用意して、手早く身支度を整えてくれた。


 時刻は既に九時を過ぎているが、昨夜夕食後にシードルと共におつまみを頂いたせいか、空腹感はまるでない。

 お兄様もヴィンス様も、多分朝食を終えられているだろうし、態々一人で食べる気にはなれなかった。

 朝食くらい、抜いても支障はないだろう。


 そんな事よりも、今は調べ物をしたくてウズウズしている。


 今後付き合いを続けていく中で、ヴィンス様が私に手を差し伸べてくれるシチュエーションは容易に想像出来るが、逆に凡庸な私が彼の悩みを解決出来る機会なんて滅多に訪れないだろう。

 だから、今は千載一遇のチャンスだと思うのだ。



 勢いのまま書庫に辿り着いた私は、ニコラに手伝って貰いながら、机の上に資料となりそうな書物を山の様に積み上げる。


「お嬢様って、時々猪突猛進になると言うか、思い立ったら即行動と言うか……。そういう所、アイリーン様と良く似ていらっしゃいますよね」


「そう? ありがとう」


「褒めてませんけど」


 呆れ顔のニコラに適当な返事をしたら、益々呆れられてしまった。

 そんなニコラは放置して、目の前の書物に集中する。

 そうなるとニコラも口をつぐんで、私が読み終えた本を片付けたり、新たな本を探して来たり、黙々とサポートに徹してくれた。


 文章を読むのは割と早い方だし、調べ物の場合は必要な部分だけを抜粋して読めば良いだけなので、机上に積まれた本はどんどん入れ替わる。

 それでも、最初に用意した分を全て読み終える頃にはすっかり日が高くなっていた。

 そろそろ昼食を摂る為に中断しなくちゃと思っていた所で、書庫の重い扉が開く音がした。


「あ、こんな所にいた」


「……ヴィンス様」


「朝食の席にも来なかったから、ちょっと心配した。

 体調はどう? 二日酔いになってない?」


 こちらへ駆け寄ったヴィンス様は、心配そうに私の顔を覗き込む。


「ご心配をおかけしてすみません。

 朝起きたらスッキリしてましたから大丈夫です」


「……うん。顔色は悪くなさそうだね」


 私の頬に手を添え、まじまじと顔を見詰めてから、ヴィンス様は微笑みながら頷いた。


「顔が……、近い、です」


「あぁ、ごめん。早く慣れて」


 気のせいかもしれないけど、昨日の今日だからか、彼の態度や表情がかなり甘く感じる

 さっき飲んだ苦い薬湯で中和したいくらい、物凄く甘い。


 ふと、ヴィンス様の視線が私の手元へ落ちた。

 先程まで読んでいた本をサッと別の本の下に隠したけど、既にタイトルを見られた後だった。


「それって、林檎栽培に関する本だよね?」


「ええと……。そう、ですね」


 私は観念して頷いた。

 本当はもう少し調べてから話したかったのだけど、仕方がない。


「その、昨日のヴィンス様のお話で、気になる事があったので」


「昨日の?」


「あの、山火事の件です」


「ああ。僕としては、別の話の方をもっと気にして欲しいんだけど」


 言われなくても、そっちも充分過ぎるくらい気になっている。


「冗談だよ。シェリルの事になると、ちょっと余裕がないんだ。

 せっかく領地の事を気にしてくれたのに、ごめんね」


 ムッと口角を下げると、ヴィンス様はすぐに謝罪を口にした。


「まあ、私が勝手にしている事なので良いんですけど。

 林檎の受粉の件、人海戦術で人工授粉とかは難しそうですね」


「そうなんだよ。

 開花の期間が短過ぎるし、その期間だけ素人を大量に雇ったとしても、逆に花を傷付けてしまう危険性が高い」


 林檎は自分で受粉が出来ない植物なので、人や虫が手を貸さないと実が成らない。

 しかも、僅か数日で花が散ってしまうので、広大な農園を全て人の手で受粉させるのは不可能なのだ。


「それで考えたのですが、うちの蜂を派遣するのはどうでしょう?」


 思いもよらない提案だったのか、ヴィンス様は虚を突かれた様な顔をした。


「蜂を派遣? ……って、そんな事出来るの?」


「ええ、多分。

 調べてみたら、蜂は巣箱ごと移動させる事が可能みたいなんですよ。

 ただ、懸念点は幾つかあるので、来春の開花迄に、何度か実験してみようと思っているのですが」


 移動の衝撃で蜂がパニックを起こすと、暴れた際の体温によって巣箱内が蒸されて全滅してしまう恐れがある。

 移動を成功させるのにポイントとなるのは、巣箱の通気性の確保と、馬車の振動の軽減だ。


 ただ、これさえクリア出来れば、蜂の派遣は充分に可能。


 グレンフェル伯爵領の問題を解決出来るかもしれないし、純度の高い林檎の蜂蜜を採取出来るので、ハサウェイ伯爵領にもメリットがある。


 更に、上手く行けば、他の領地にも蜂を貸し出す新しい事業を始められるかもしれないのだ。



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