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地味だからと婚約破棄宣言した彼は、なぜか投げ飛ばされました。  作者: miniko


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3 断罪は翻る

 アイリーンの勢いに気圧されて一歩後退ったヘンリー様を逃がすまいと、彼女は尚も口撃(こうげき)を続ける。


「そもそも、お従姉様に虐められた事など一度たりともございませんわ。

 思い込みが激しいのも良い加減になさいませ。ここまで来ると害悪ですわ」


 ギャラリーの中にいた何人かのご令嬢が、アイリーンの言葉に大きく頷きながら声を上げた。


「シェリル様は誰かを虐めたりする様な方ではございませんよ」


「アイリーン様にはいつもお従姉様の自慢話を聞かされてます。虐げられていたとはとても思えません」


 私とアイリーンの友人達が、そうだそうだと口々に援護射撃をしてくれた。

 持つべき物は友だよね。数少ない友人を大事にしといて良かった。


 それにしても、アイリーンのお友達、『聞かされてる』って所に若干の迷惑感が滲み出ている。

 特に興味もないヤツを自慢されてもウザいだけだよね。ウチの従妹が本当に申し訳ない。

 後日、今回のお礼も兼ねて、なにか贈り物でも届けておこうかしら。


「いや……だが、学園の噂では……」


 オロオロし始めながら呟くヘンリー様。

 それを聞いたアイリーンは、未だ彼女の腕の中に捉えられている私へと視線を落とし、困惑顔でコテンと首を傾げる。


「噂? ……噂って、なんですの?」


 学園で、私は度々アイリーンに懸想をしている令息達に彼女への橋渡しを要求されていた。

 それらをことごとく断ったせいで、多くの令息に逆恨みされてしまったらしく、いつの間にやら事実無根の陰口が広まり始めた。

 ヘンリー様の言う噂も、おそらくその類である。


 ベンサム侯爵家の要望により、私はヘンリー様と同じ学園に通っているのだが、一つ歳下のアイリーンは本人の希望で女学園に入学した。

 どうやら私の噂は、女学園にはまだ届いていないらしい。


「あーー……、その件ね。ちょっとだけ不名誉なデマが広まっているのは事実だけど……。

 多分、私とアイリーンの仲が良いのを、一部の令息が妬んでいるんじゃないかしら」


 私の説明にアイリーンの表情が益々険しくなる。


「そうですか。まあ、噂の出所については追々調べ上げて一人ずつ捻り潰せば良いとして……」


 ああ、ほら。そうやって大袈裟になるから、アイリーンにだけは知られたくなかったのに。


 先程まで頬を染めていた令息達も、今では皆ヤベェ奴を見る様な目でアイリーンを見ているが、本人はそんな事なんて気にも留めずにヘンリー様へ視線を戻した。


「では貴方は、そんな根も葉もない噂に踊らされて、当事者に確認もせずにお従姉様を断罪しようとした……と?

 あらまあ。ベンサム侯爵家は、ご嫡男に随分と素晴らしい教育をなさっていらっしゃるのですね」


 勿論、痛烈な嫌味である。

 先程から上位の令息に対して随分と不敬な発言を連発しているのはちょっと心配だが、まあその辺は後々お兄様がなんとかしてくれるだろう。

 私達の家はしがない伯爵家だけど、実は威を借してくれる虎に心当たりがあるのだ。


 元はと言えば、王家主催の催しでこんな騒ぎを起こしたヘンリー様のせいだしね。


「そんな……、俺は愛する君のために……。

 君だって、俺の事が好きだったはずだ。他の男は冷たくあしらうのに、俺にだけはいつも優しく微笑んでくれたじゃないか!」


「気色の悪い妄想をなさらないでくださいます?

 普通に考えて、全く接点がない有象無象と、敬愛するお従姉様のご婚約者様を比べたなら、後者の方と親しく接するのは当前ではないですか。

 その程度で勘違いをなさるなんて、自意識過剰にも程があります。

 これまでも貴方を好きだった事なんてありませんが、今となってはゴ○ブリ並みに大嫌いですわ」


「勘違いだと? ふざけるな!!

 男は誰だって美しい女性が好きなんだから、あんな態度を取られたら好意を持たれてると期待するに決まってるだろう!」


 アイリーンに速攻で振られたヘンリー様は逆ギレして叫んだ。

 ゴ○ブリのくだりは完全にスルーしている。脳が理解するのを拒絶したんだろうか?


 それにしても、流石にちょっと黙ってられないわ。


「『あんな態度』と仰いますけど、アイリーンは貴方に対して特別な好意を感じさせる態度など取っておりませんでしたよ?

 せいぜい愛想良く挨拶する程度です。私の大事な従妹(いとこ)に因縁をつけないでくださいませ」


「お従姉様……!」


 うわっ、益々抱き締める腕の力が強くなった!


「そうですわよ。勘違いも甚だしい。

 それに、ご自分を世の男性の代表みたいに仰らないでください。貴方みたいに見る目のない不誠実な殿方ばかりではありませんよ。

 全く、お従姉様の価値も分からないだなんて……」


「分かってないのは君の方だろう。

 男はみんな、君みたいな見目のいい女に少しでも優しくされたら、コロッと騙されちまう生き物なんだ!

 シェリルみたいな地味な女は、男にとってはなんの価値もないんだっ!!」


 その瞬間、ずっと私を抱きしめていたアイリーンの腕の力がフッと緩む。

 不覚にもヘンリー様の戯言に少し動揺してしまったせいで、ほんの数秒だけ反応が遅れた。

 引き留めなきゃと思った時には既に遅く、驚異的なスピードでヘンリー様との距離を詰めたアイリーンは、彼の胸ぐらを両手で掴んで───、


 力任せにぶん投げた。


(あー、やっちゃった)


 なす術もなく地面に叩き付けられたヘンリー様は、「グェッ」と蛙が潰れたみたいな音を発する。

 あまりの出来事に倒れ込んだまま呆然としていた彼は、我に帰ると怒りで顔を赤黒く染め上げ、憎々しげにアイリーンを睨み付けた。


「き、貴様、今この俺に何をしたっ!?

 こんなに乱暴な女だったなんて……!

 侯爵家の人間に危害を加えて、無事で済むと思うなよ!!」


 悲劇のヒロインみたいな横座りのヘンリー様に怒鳴られても、正直全然怖くない。寧ろちょっと滑稽ですらある。

 アイリーンも全く反省していない表情で、軽く肩をすくめただけ。


 すると、人垣の向こうから、威厳に満ちた声が響いた。


「なんの騒ぎだ?」


 声の主に気付いた者達は、少し下がって臣下の礼をとる。


「私がいない間に、随分と楽しそうな余興が始まっているじゃないか。

 なぁ、ベンサム侯爵令息」


 割れた人垣から姿を現し、冷ややかな視線をヘンリー様に投げた人物は王太子殿下だった。

 背後に二人の側近を従えている。


 因みに、その内の一人が私の兄、エイベルである。


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