↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地味だからと婚約破棄宣言した彼は、なぜか投げ飛ばされました。  作者: miniko


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/31

28 侯爵の決断

「ハァ………」


 今日届いた手紙の封を次々と開封し、目を通した侯爵は、頭を抱えて重い溜息を吐き出した。



 あれから子供達の教育環境を見直した。その結果、重大な問題がある事が判明した。


 妻の指示によって、ヘンリーには非常に偏った教育が施されていたらしいのだ。

『妾腹である次男に負けるな』と、事ある毎に叱咤して、異常なほど苛烈な教育を施していた。

 お陰で成績は常にトップクラスだったが、学業ばかりに重きを置いた弊害により、常識やマナー等の学びが極端に疎かになっていた。


 そして逆に、次男に対しては形ばかりのおざなりな教育しか行われていなかった。

 次男がそこそこ優秀な成績を収めていたのは、全て侯爵邸の書庫にて独学で学んだ成果だったのだ。


 学園の成績表だけを確認していた。

 二人共、優秀な成績を収めていたから、問題ないと思っていた。


 いや、『自分の家族には、なんの問題もない』と、思い込みたかっただけなのかもしれない。



 妻とは政略結婚ではあったが、大きな不満があった訳ではない。夫婦仲も特に悪くはなかった。

 メイドに手を出したのは、一時の気の迷いに過ぎないし、孕らせてしまったのも事故みたいな物だ。


 妾を囲うのをステータスだとまでは思わないが、金と地位を持った男にとってはままある事だろう。

 次男が生まれた時、暫くは妻の機嫌が悪くなったが、直ぐにいつも通りに戻ったから、納得してくれている物だとばかり思っていた。


 だが、実際は全く違った。

 彼女は自分のプライドを守る為に、平気なふりをしていただけだったのだ。


『元はと言えば、貴方のせいじゃない!!』


 子供達の教育の不備を責めた時、妻は髪を振り乱し、泣きながらそう叫んだ。

 返す言葉も見付からなかった。


 その通りだと思う。


 妻の心を歪めてしまったのも、重大な問題が起こるまで子供達の教育環境の不備に全く気付かなかったのも、他ならぬ侯爵自身の罪なのだから。



 あれからヘンリーには新たな家庭教師が付けられて、貴族社会の常識や道徳観についての徹底的な再教育が行われている。

 その進捗は概ね順調。

 勿論、性格の矯正までは難しいので、傲慢さは全く変わらない。

 しかし、教師達の報告によれば、あの茶会での自分の所業が貴族社会のルールやマナーを大きく逸脱していた事だけは、理解し始めているらしい。


 このまま進めていけば、当主として問題ない人物になってくれるかもしれない。

 そんな希望が少しだけ見え始めていたのだが……。


「……婚約者が、見つからない」


「まあ、難しいでしょうね」


 書類整理をしていた執事は、絶望を含んだ侯爵の呟きに無表情のままサラッと相槌を打った。


 冷たい。


 大方の予想通り、ベンサム侯爵家の評判は地に落ちていた。


 以前は侯爵の執務をサポートする人間が沢山いたが、次々に辞表が提出されたせいで、本来ならば邸を管理し使用人達を統括する役割のはずの執事までもが、事務仕事に駆り出される始末。


 彼もそろそろ辞めたいと言い出すかもしれない。

 それも仕方ないだろう。

 沈みゆく船から逃げ出すのは、生物の本能だ。



 あの後、ヘンリーの醜聞は、瞬く間に社交界を駆け巡った。

 そりゃあそうだろう。

 侯爵だって、自分に無関係な話だったなら、積極的に話題に上らせただろうと思う。

 あんなに美味しいネタは、滅多に無いのだから。


 一方で、シェリル達は───。


 いくら被害者という立場といえど、公の場で婚約破棄をされたシェリルも、普通なら腫れ物扱いになったはずだが、彼女は今や公爵家の子息と婚約間近。

 乱暴な女とのレッテルを貼られても仕方ないはずのアイリーンは、なぜか王太子妃に気に入られ、この夏季休暇の間にも何度か王宮に呼び出されてはお茶やチェスの相手をしていると聞く。


 そんな現状も、ベンサム侯爵家にとっては強い逆風となった。

 彼女達の株が上がれば上がるほど、逆にヘンリーの株が下がるのは当然の帰結。


 そもそも、傲慢で身勝手。常識がなく、空気が読めない。情け無い。ひ弱。


 そんな実態が露呈した今、いくら爵位が高い美丈夫であっても、ヘンリーに嫁ごうと思ってくれる女性はなかなかいないだろう。


 ヘンリーが当主として足りない分、気遣いが出来る聡明な伴侶を捕まえねばならないのに、侯爵が望む令嬢からは、悉く断りの返事が届く。

 令嬢側から釣り書きが届く事も数件あったが、野心ばかりが強くて能力が伴わない者ばかりで、とてもじゃないが侯爵夫人になれるとは思えないかった。



 自分が元凶であったという後ろめたさも手伝って、ヘンリーに侯爵家を継がせる可能性を完全に捨て去る事を躊躇っていたのだが───。



「そろそろ、潮時か……」


 そう呟いて、再び重い溜息をつく。

 そんな侯爵へ、執事はあからさまに冷ややかな眼差しを向けた。


 きっと『遅過ぎる』とでも思われているのだろう。


 もう邸の中にさえ、味方はいない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。