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地味だからと婚約破棄宣言した彼は、なぜか投げ飛ばされました。  作者: miniko


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25/27

25 夜の訪問者

「こんなに気持ち良さそうに眠っているのに、起こしたら可哀想だろ?

 だから僕が───」


「なにを言ってる。まだ正式に婚約してもいない癖に。

 この状況なら、兄である俺が部屋まで運ぶのが筋だろうが」


 そんなお兄様とヴィンス様の口論によって、私の意識は浮上した。


「ぅん゛……」


「あぁ、ほら、起きちゃったじゃないか」


 小さく呻きながら重い瞼をこじ開けると、超至近距離にヴィンス様の麗しいお顔が。

 ヒュッと息を呑んで、思わず座席の端まで飛び退いた。

 どうやら寄り掛かって眠ってしまっていたらしい。長旅を経て昨日こちらへ着いたばかりのヴィンス様の方が、余程お疲れだっただろうに。


「す、す、す、すみませんっ!!」


 盛大に吃りながら謝罪をすると、ヴィンス様はブンブンと手を左右に振った。


「え? 全然。寧ろ役得だったよ」


 そう言ってニコニコ笑いながら、私の寝癖を手櫛でササッと直してくれる。至れり尽くせりである。

 過剰に世話を焼かせるのは申し訳ないが、あまりにも自然な仕草だったので、遠慮するタイミングを逸してしまった。



 それにしても、ほんの少し領地を歩いた程度でこの為体(ていたらく)は酷過ぎないか?

 自分の体力のなさが恨めしい。運動でも始めるべきかしら?




 その後、一旦解散してそれぞれ身支度を整え直し、夕食の席で再び顔を合わせたけど、恐縮し過ぎていた私はろくに会話も楽しめなかった。




 食事を終えて自室へ戻る。

 まだ少し早い時間だったので、ソファーに座って読みかけの小説を開いた。

 十ページほど読み進めた頃だったろうか? 扉をノックする音が響いて、顔を上げた。


「どなた?」


 誰何の声に応えたのは、意外な人物だった。


「ヴィンセントだけど。

 まだ寝支度を始めてなかったら、もう少し話せないかな?」


 深夜という程の時間ではないが、夕食も終えたこんなタイミングで、彼が私の部屋を訪ねて来るなんて思わなかった。

 部屋のすみに控えていたニコラも予想外だったのか、目をパチクリさせている。


「……はい」


 少し迷いつつも扉を開くと、いつもより少しラフな格好のヴィンス様がそこにいた。


「部屋に入れてもらっても良い?

 一応エイベルには許可を取ったけど、もし嫌なら他の場所でも……」


 こんな時間の訪問をお兄様が許可した事は驚きだったが、ヴィンス様の背後を見て納得した。

 お兄様が一番信頼している騎士とメイドを連れていたのだ。

 いわゆる、お目付け役というヤツだろう。

 私の視線の先を追う様に、ヴィンス様もチラリと背後へ目を向け、不服とも諦観ともつかない複雑な表情で軽く肩を竦めた。


「すみませんね、お嬢様。

 馬に蹴られて殺されそうな役割ですが、なにぶん主の命ですのでご容赦ください」


 大きな体を縮こまらせながら謝る騎士がちょっぴり可哀想になり、苦笑いを浮かべた。


「どうぞ、お入りになって」


 少し横に避けて、彼等を部屋へ通す。

 メイドが押しているワゴンの上には、グラスが二つとお酒が入っているらしき瓶。ナッツとチーズも用意されていた。


「今日のデートはエイベルに邪魔されてしまったから、その穴埋めに二人で話す時間が欲しいって交渉したんだ」


「それは、私が……」


「いいや。シェリルが誘ったせいじゃなくて、アレは確実に僕への嫌がらせだった」


 ムスッとした顔でそう言ったヴィンス様を見て、少し笑いそうになった。

 そんな事はないだろう。と、思いかけたが、なくもないかもしれない。

 お兄様はちょっぴり過保護だから。


「まあ、二人きりではないけどね」


 部屋の入り口付近に直立不動で控えている騎士とメイドへ、胡乱な眼差しを向けるヴィンス様。


「私達は壁ですのでっ!」

「そうです、壁ですっっ!!」


「壁は喋らないよ」


 そう指摘された二人は、両手で口を押さえた。

 ニコラも慌ててメイドの隣に並び、同じ様に口を押さえる。

 どうやら彼女も壁になりきる覚悟らしい。


「シェリルは、アルコールは飲める?」


「あ、はい。多分、人並み程度には」


 この国では、学園に入学する年齢になると飲酒が許可される。

 私も、フレッカー子爵邸で入学のお祝いをしてもらった際に、ワインを初めて飲んだ。

 お父様が家を空けている時には、お兄様やお母様と一緒に飲む事もある。

 まだその美味しさは良く分からないけど、弱い体質ではないらしく、結構沢山飲んでも酔った事はない。


「なら良かった。

 コレ、ウチの領地で作ってるシードルなんだ。一応、度数が低めの物を用意したから、大丈夫だと思うんだけど」


 注がれた液体は淡い琥珀色で、シュワシュワと小さな泡が弾けている。

 グラスを手に取ると甘酸っぱい香りがした。


「爽やかな香りですね。シードルを頂くのは初めてです」


「台風とかで傷付いた林檎を有効利用しているんだ。

 口に合うと良いけど」


 軽くグラスを掲げてから、口を付ける。

 香りから想像したよりも、スッキリとした甘みが広がった。


「美味しいし、飲み易いですね。でも逆に危険かも……」


「そうなんだよね。水代わりにガブガブ飲む人もいるけど、油断し過ぎると意外と酔っ払うから、シェリルも気を付けて」


 まさか、そんなヴィンス様の言葉がフラグになるなんて、この時は全然思っていなかった。



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