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地味だからと婚約破棄宣言した彼は、なぜか投げ飛ばされました。  作者: miniko


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18/30

18 人の好意に疎い理由

 フレッカー子爵邸に戻ったアイリーンは、その夜バスタブに浸かりながら、昼間のシェリルとの逢瀬を思い返していた。


 手の平に乗せた泡にフッと息を吹きかけて飛ばすと、ラベンダーの香りがふわりと広がる。

 植物園内のショップでシェリルとお揃いで購入したハーブ石鹸だ。


(お従姉様も、今頃この石鹸を使って入浴しているかしら?)


 そう考えると、自然に小さな笑みが零れた。


(今日は色々な話をしたなぁ……)


 女官の試験について相談に乗ってもらって少し自信がついたし、ヴィンセント・マクブライド公子についても思った以上にシェリルと相性が良さそうで安心した。

 特に女性の社会進出に偏見がないのが良い。

 まあ、王太子の側近なのだから同じ思想なのは当然かもしれないが、表向きの思想と本音が真逆な人間というのは意外と多いものだ。


 だが、あれだけはいただけない。


『『お忙しいでしょうから、ご無理なさらず』ってお伝えしたら、『僕は殿下とは結婚しないから』って仰ったの』


 シェリルの言葉を思い出し、アイリーンは微かに眉を顰めた。

 おそらくは『仕事よりも未来の妻を優先する』という意味なのだろう。

 それ自体は悪くないのだけど……。


 なぜそんなに回りくどい言い方をするのか。

 無自覚なのか、なにか意図があるのか?


 ただの天然とか、距離の詰め方を図り兼ねているだけなら良いのだが、会わない時間も自分の事を考えさせる恋愛高等テクニックとかだったりしたら、ちょっと引く。

 と言うか、そう言う策略を重ねるのは、シェリルに対しては逆効果な気がする。


(お従姉様はクソジジイ達のせいで自信を失っていらっしゃるから、真正面から口説いてくれる方が良い気がするのよね)


 まあ、それはアイリーンの思う理想でしかないので、本当にシェリルが幸せになれるなら相手は誰でも良いのだが。


 そもそも、シェリルは本来ならば、そんなに察しが悪い方ではない。

 それなのに、ヴィンセントの言葉の意味に気付かなかったのは、人から向けられる好意に対してだけ鈍いからなのだ。


 それは、伯父とヘンリーがシェリルを傷付け続けたせいである。


 シェリルには、自分が他人から大切にされるという発想がない。

 勿論、エイベルやアイリーンなどごく身近な人間については別だが、その他大勢、特に男性からは大切にされるはずがないと、無意識に思っているふしがある。

 いつも平気な顔をしているけれど、そんな風に刷り込まれてしまうほどに、シェリルの心は深く傷付いているのだ。


(あぁ、あの二人、殺しても殺し足りないですわ)




 アイリーンには歳の離れた弟しかいないせいか、昔から兄や姉という存在に対する強い憧れを抱いていた。

 それに一番近い存在だったのが従兄のエイベルと、従姉のシェリルである。


 特に、同性のシェリルは一つしか年齢が変わらないのに、大人びた雰囲気を纏っていて、アイリーンにとっては眩しい存在だった。

 しかし、仲良くしたいとは思っていたけれど、なんとなく彼女との間には見えない壁みたいな物を感じてしまい、近寄り難かった。


 伯父が過剰にアイリーンを褒めて、反対にシェリルを貶めるのも、その要因の一つだと気付いていたので、強引に距離を縮める事は憚られたのだ。

 友人だったはずのご令嬢の親や婚約者が、過剰にアイリーンを褒めたせいで疎遠になるなんて事は、幼い頃から何度も経験していたから。



 そんな二人の関係は、ある日大きく変化した。

 ハサウェイ伯爵邸にて、親族が集まるガーデンパーティーが開かれたのは、アイリーンが九歳、シェリルが十歳の時だった。


 ワインに酔った赤ら顔の伯父は、その日もアイリーンを褒め倒していた。


「アイリーンは私の妹の幼い頃にそっくりで、本当に愛らしい。

 このまま成長したら、どこかの国の王族の婚約者に指名されるのも夢じゃないぞ。

 シェリルももう少し美しければよかったのになぁ……」


 額に手を当てながら大袈裟に溜息をつき、嘆いている。

 周囲の者達の冷ややかな眼差しにも気付かないのは、酔っているせいなのか、それとも元々の性格のせいなのか。


(見目だけで王族の一員になれるわけないじゃない。馬鹿なのかしら?)


 九歳にして容姿を褒められ慣れていて、既に少し冷めた所があったアイリーンは、そんな薄っぺらい伯父の言葉をそのまま受け止めて喜んだりはしなかった。


「シェリル嬢だって侯爵家との婚約を結んでいるじゃないですか。

 充分凄いですよ」


「いやいや、アレは家同士の縁を望まれての婚約で、シェリル自身を望まれた訳ではないからね。

 いつ捨てられるかと、常にヒヤヒヤしているんだ」


 近くにいた親族がフォローするのも気にせず、ニヤニヤと笑いながら歪んだ持論を貫く姿に、アイリーンは強い嫌悪感を覚えた。



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