↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地味だからと婚約破棄宣言した彼は、なぜか投げ飛ばされました。  作者: miniko


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/29

11 不可解な感情

 ヴィンス様の言葉の意図を量りかねて困惑していると、背後から「フフッ」と小さな笑い声が聞こえた。

 振り向いた先にいたのはお兄様に似た面差しの壮年の女性。そう、私達のお母様である。


「あら、ごめんなさいね。

 二人の仲が良さそうで、微笑ましくて」


 え、待って? どの辺が?


「そう見えるのでしたら、とても嬉しいですね」


 お母様が姿を現すやいなや、気が抜けた様だった表情を引き締め、完璧な貴公子の仮面を貼り付けるヴィンス様。

 切り替えが早い。

 二重人格ですか?


「ええ、見えますとも。あの勘違い男とは大違いですわ」


 その『勘違い男』って、もしかしなくてもヘンリー様の事ですね。


「それで? お母様はなにかご用がお有りだから、こちらへいらしたのでしょう?」


 微かに目を眇めながら問えば、お母様は悪戯っぽいウインクを返した。


「嫌ねぇ、シェリルったら。

 素敵な婚約者とのデートを邪魔されたからって苛立っちゃって。

 そんなに急かさなくても、すぐに二人きりにしてあげるから安心なさい」


 揶揄う様にそう言って、私の頬をツンツンとつつくお母様。


 違う。そうじゃない。

 ってゆーか、まだ婚約者じゃないし。


「そういうの要らないですから、早くご用件を」


 お母様の手をペイッと払い退けた。


 お母様が、ヘンリーやお父様に冷遇される私を心配して、何度も抗議をしてくれていた事は知ってる。

 その半分が解決して、とても喜んでくれている事も。


 だけど、私がちょっと冷たい態度になってしまうのも仕方ないと思うの。

 親にこういう絡まれ方をするのって、思春期の女子としては、とっても面倒臭いでしょう?


 お母様は私の冷たい態度を気にも留めない様子で、ニコニコしながら口を開いた。


「あのね、今日はヴィンセント様がいらっしゃるから、料理長が特別に、シェリルが作ったマルベリージャムを使、ムグゥッ───!?」

「ぅわあぁぁぁぁ!! お母様っ!

 そ、そ、そのお話は、ここではちょっと……」


 慌てて立ち上がり、お母様の口を両手で塞ぐ。

 無邪気な顔して、いきなり何を言い出すんだ。

 その件については、お父様を除いた家族とアイリーン、それからごく一部の使用人しか知らない秘密じゃないか。

 チラリとヴィンス様を窺うと、彼は困ったように笑っていた。


「シェリルが作ったマルベリージャムを使った、なんでしょうか?」


 聞かれてた。

 聞かれたくない部分、全部バッチリ聞かれてた!!

 ああぁ、終わった…………。


 ガックリと項垂れながら、諦めて手を下ろすと、お母様は自由になった口を再び開いた。


「あのね、料理長が、マルベリージャムに合うチーズケーキを作ってくれたのですって。

 もしもお嫌いじゃなかったら、ヴィンセント様も召し上がってみてくださらない?」


「ありがとうございます。

 マルベリーは初めて食べますが気になっていました。チーズケーキも大好物なので、嬉しいです」


「あら、本当に? 良かったわ」


 お母様が嬉しそうにニコラへ目配せをすると、彼女は軽く頷きを返して、厨房の方へそそくさと消えた。


「じゃあ、ヴィンセント様、ごゆっくりなさって」


 そう言い残して悠然と去っていくお母様の背中を見送りながら、私は深い溜息を吐き出した。


 一気に疲れた。嵐の様だった。

 おっとりしていて可愛らしい、いかにも箱入り娘っぽいお母様は、アイリーンとはまた違ったタイプの自由人なのだ。


「楽しみだなぁ、シェリルのマルベリージャム」


 ニコラが淹れたお気に入りの紅茶を飲みながら微笑むヴィンス様。


「…………実際に作ったのは、菓子屋ですわ」


 ベンチに座り直しながら、俯き加減でポツリと呟く。


「うん。そういう意味じゃないって事は、知ってる。

 ハサウェイ領のマルベリージャムは、最近は王都でも話題になりつつあるもんね」


「……ええ、まあ」


「ヨーグルトやパンケーキに合わせると、絶品なんだって聞いてるよ。

 僕の母上も気になってるみたいで、取り寄せようとしたんだけど、売り切れ続きでまだ手に入ってないらしいんだ。

 そのジャム作りに、シェリルが携わってるって事でしょ?」


 その問い掛けに、私の肩がピクッと小さく震えた。



『フンッ。女のクセに領地の産業にまで口を出すとは、生意気な』



 まだ私が幼かった頃、ふと思い付いたアイデアを、うっかり口にしてしまった際に、お父様から向けられた言葉である。

 お父様の言葉は少し極端ではあるが、この国は女性の社会進出が遅れているので、同じ様な考えを持つ人は意外な程多い。


 もしも、ヴィンス様もそういう考えをお待ちの方だったら?

 またあの時みたいな言葉を吐かれる?


 それも仕方がないかもしれないけど……。


 ああ、でも、なんか……、


 この人には、嫌われたくなかったなぁ。



 そんな考えが一瞬だけ浮かび、自分でも驚いた。

 早い段階でヴィンス様を婚約から解放するには、ここで嫌われるのが正解かもしれないって、頭の片隅では分かっているはずなのに。


 どうしてこんな気持ちになるの?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。