弱点
「これから、よろしくね。北見さん」
「こちらこそ」
武田さんは。
日置くんに。
チラリと目をやって。
私のそばに来た。
「勇太の弱点、今度、教えてあげるね」
耳元で囁くと。
ウインクをした。
こくりとうなずく私。
「ハハハ、もう内緒話?」
「はいはい。じゃあ、お邪魔虫は、どろんします」
武田さんは。
茶目っ気たっぷりに。
尖らせた唇に。
人差し指を当てた。
「じゃあね、北見さん」
広げた手の指を。
ちょこちょこと動かした。
「うん。またね」
歩き出した武田さんに。
小さく手を振った。
「全く、穂乃花のやつ」
苦笑いしながら。
私の手を引く日置くん。
なんか。
くしゅくしゅする。
何だろう?
武田さんはいい人だったし……
「かわいい子だね。それになんかお姉さんみたいだった」
「確かに、大人びてるとこあるかもね」
「いつ頃からの友達なの?」
「んー。小学校1年の時かな多分」
「多分?」
「ああ、穂乃花ね、小さい頃、今の葉月さんより髪短くて、最初は男だと想ってたからね」
「え? そうなの?」
「女子って気づいたのは、小学校3年の時かな、そもそも、学校違ってたし、クラブで一緒だっただけだからね」
「ふーん」
オリーブの木々を抜けて。
坂道を下る。
「ねえ? 日置くんの弱点ってなに?」
「弱点? どしたの急に?」
「さっきの内緒話なんだけど」
「なるほど。そっか……僕らの間に秘密はなしを率先してくれたわけだね。ありがとう」
「ううん。弱点教えて」
「何だろう……ゴキブリとか虫かな」
「ゴキブリは、私もダメだけど、虫もダメなの?」
「まあね」
「フフフ、そっか」
つないでる手を大きく振る。
「虫嫌いが、そんなに面白い?」
「違うよ。かわいいなって。それに、日置くんのこと知れたし」
「なるほど。じゃあ、僕も。葉月さんの弱点は?」
「え? 私?」
いざ弱点って言われても……
人差し指を顎に当てて。
首を左右に捻る。
「それ、かわいい」
ひゃっ!
馴染んできてたのに。
とくんと。
心臓が跳ねた。
はぁ……
「それで、葉月さんの弱点は?」
あっ……
「弱点じゃないけど、私も呼び捨てがいいな」
「ん?」
立ち止まった日置くん。
「じゃあ、葉月の弱点は?」
優しい声色が。
呼んだ名前に。
ぽーっと。
日置くんの顔を見つめてた。
鼻を摘ままれて。
ビクッとして。
瞬きをした。
淡く黄色い光が。
日置くんの横顔を染めて。
髪が煌めいていた。
「えっと……勇太だよ」
目を見開いた日置くん。
ん?
私の頭を。
日置くんの手のひらが。
ポンポンと。
優しくはたく。
「僕も、葉月が弱点だな」
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