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葉隠れの蕾  作者: ぽんこつ


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それは、ふらっとやって来た

淡く黄色味を帯びはじめた空が。

夕方の気配を漂わせている。

そんな中。

バスに揺られて。

やって来たのは。

島の観光名所の一つ。

オリーブ公園。

文字通り。

園内の至るところには。

オリーブの木が植えられていて。

この時期は。

緑のオリーブの実と。

深緑の葉が鮮やかできれい。

道の駅も併設されていて。 

レストランやお土産を買える施設もある。

その中でも。

緑の芝生が敷き詰められた。

緩やかな斜面に立っている。

白い大きな風車はシンボルで。

観光客にも人気のスポット。


それが見える。

オリーブの木陰のベンチに座っている。

ここまで。

手をつないで歩いて来たけど。

見知った場所なのに。

景色が違って見えた。

「葉月さん、ダンスの方は順調?」

「うん。今ね次の動画のためのダンス練習してるよ」

「ふーん。どんなやつ? 踊って見せてよ」

「え?」

「実際にダンスしてるの見たいな」

「いいよ。次のは、まだ覚えきれてないから……」

スマホを操作して。

マイケル・ジャクソンさんの『Beat it』を準備する。

ちょっと。

試したいことがあるし。

「じゃあ日置くん、声掛けたら、これ流して」

スマホを渡す。

「了解」

ニコニコの日置くんに。

微笑みを返して。

立ち上がる。

ミニスカートをはたいて。

裾を整えた。


手首と足首。

首を回して。

筋を伸ばして。

大きく深呼吸。

「日置くんいいよ」

「了解」


スマホから音楽が走り出して。

リズムに乗って。

動き出す体。

やっぱり。

楽しいな。


時に空間を裂くように。

時に抱き締めるように。

指先まで意識して。

ステップを踏む。


サビのパートで。

少しうつむき加減で。

挑発的に微笑む。


ん?

隣に人の気配。

!

背が高い金髪の外国人男性が踊ってる!


一瞬。

目が合って。

男性はウインクした。


マイケルさんは。

よくズボンを腿の辺りを摘まんで。

持ち上げる。

この曲には。

その振り付けはないけれど。

曲終わりにやってみたくて。

ミニスカートを摘まんで。

持ち上げた。


「ヒュー!」

「ワオ!」

拍手と歓声が上がって。

いつの間にか。

人だかりが出来ていた。


「Hi! You killed that dance! How long have you been dancing?」

(最高のパフォーマンスだったよ!どれくらいダンスやってるの?)

金髪をかき上げながら。

一緒に踊ってた男性が。

大袈裟な身振り手振りで。

話しかけてきた。

でも。

興奮してるようで。

早口で何言ってるのか。

分からない。

「Future superstar right here!」

(ここに未来のスーパースターがいるじゃん!)

「あ、sorry」

ピタッと動きが止まった男性。

「Sorry, my mistake. Do you speak English?」

(すみません、こちらの不手際です。英語は話せますか?)

両手を合わせながら。

ゆっくりと。

単語一つ一つ丁寧に喋ってくれた。


私は顔の前で。

人差し指と親指でポーズする。

「A little……」

男性はウインクして。

「Got it! I just said... you’re an amazing dancer! You danced just like Michael!」

(了解!『君のダンス、本当にすごい!まるでマイケルみたいだった!』って言ってたんだ)

「……Thank you! I practice every day」

(……ありがとう! 毎日練習してます)


その時。

もう一人。

別の外国人。

黒人の男性が近づいてきた。

「Hey, Jas! I got the whole thing on video!」

(へい、ジャス、動画撮れたぞ)

「Thanks, Nick! Hey... do you mind if I post this video?」

(ありがとうニック。ねえ、君、この動画投稿してもいい?)


えーと……

「Ah, yes!My friend and I also post dance videos. Our channel is called... 『はみんぐ』」

(あ、はい!私も友達とダンス動画投稿してるんです。『はみんぐ』というチャンネルです)

ジャスと呼ばれた男性は。

パシンと両手を叩いた。

「Awesome! We'll definitely check it out!」

(すごい!絶対チェックするよ!)


「Oh, by the way, I'm Jas, and this is my friend, Nick」

(そうそう、僕はジャス、こっちは友達のニック)

ジャスと握手して。

「Nice to meet you」

ニックとも握手をする。


「What's your name?」

(君の名前は?)

腕組みをして。

眉を上げたジャス。

「Umm, Hazuki」

(えーと、葉月です)

「Hazuki... That has a nice ring to it. You really have a talent for dancing!」

(葉月か、素敵な響きだね。君には本当にダンスの才能があるよ)

「Really? I'm so happy! Ah, could you tell me your channel, too?」

(本当? 嬉しいです。あ、ジャスのチャンネルも教えて欲しい)

「Sure thing! It's 'N&J Music Video'」

(オーケー。『N&J ミュージックビデオ』だよ)

「Thank you!」

(ありがとう)


ジャスは。

私を指差して。

ニヤリと笑うと。

ズボンの腿の辺りを。

摘まんで持ち上げた。

「Seriously though, that was so slick!」

(それにしても、あれはマジでシビれたよ!)

私は。

マイケルさんの姿勢を意識しつつ。

ミニスカートを摘まんで持ち上げる。

「Whoa!」

(ワオ!)

ニックが。

手を叩いて笑い。

「You're amazing!」

(君はすごいよ!)

ジャスは。

吐息混じりに。

首を振っていた。

「Alright, we're gonna head out」

(じゃあ、僕らは行くから)

両手を広げたジャスが。

ハグしてきた。 

「Keep dancing, okay?」

(ダンス、これからも頑張ってね!)

「Yeah... Thank you so much」

(うん……本当にありがとう!)

爽やかな香水の匂いがした。

「Good luck, Hazuki」

(がんばれ葉月)

「You too」

(あなたもね)

大きな手が私の頭を撫でた。

今度はニックの番。

「Take care, Hazuki!」

(元気でね、葉月!)

「You too」

(あなたもね)

ニックの香水は。

鼻につんとくる。


二人は何度も振り返り手を振り。

オリーブの木々の中に消えて行った。

「はぁ……」

両手を胸に添えた。

何とか。

英語喋れた……


「葉月さん、凄いね。英語ペラペラ」

「緊張したし、必死だったんだよ。日置くん何してたの?」

「僕? ずっと動画撮ってたよ。二人とのやり取りも」

「え……?」

「永久保存版だね」

日置くんは。

スマホとペットボトルを差し出してきた。

「ありがと」

スマホをポケットにしまって。

ペットボトルを両手で持って。

ごくごくと乾いた喉に流し込む。

汗をかいた体全体に染み込んでいく。

「はぁー……」

一気に半分飲み干した。

「葉月さん、気づいてないの?」

「ん? 何が?」

「周りのギャラリーもそうだけど……」

「ん?」

「さっきの金髪の彼。ジャスティン・パイパー、新進気鋭のシンガーソングライター。黒人の方がニコラス・アッシュ。彼も同じ。二人は高校の同級生みたいだね」

「え……?」

お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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