定まらず。けど、時は流れる
葉月の家のドアが閉まった。
心の片隅で。
洋ちゃん。
って。
いつもの声で。
いつもの笑顔で。
追いかけて来るんじゃないかって。
そんなことを想ってる自分が。
哀れだった。
梶川の爺ちゃんの家を一瞥して。
歩き始めた。
蝉の声しか聞こえない。
皮膚に刺すような。
天から降り注ぐ陽射し。
ある意味。
今までと変わらない夏。
でも。
もう変わってしまった季節。
じわじわと額に汗が滲んでくる。
昨夜。
東園から珍しく電話がきた。
電話に出るなり。
開口一番。
『三並くん、はーちゃんのこと好きなんですよね?』
核心を突いてきた。
「は?」
『いいですかぁ、はーちゃん、明日、男の子と海に行くんですよ』
ざわついたのは。
一瞬で。
まあ。
どこかで。
そんなこともあるかなって。
感じてたから。
冷静。
だったかな。
「そっか。それで?」
『あれ? もしかして、気づいてました?』
「なんとなく、だけど」
『ふーん。意外と意外ですねぇ』
「だから、なんだよ」
『はーちゃんは、その子のこと、みんなと同じように、付き合ってますけど、本人も気づかない内に、気になる存在にはなってると想うんです』
「ふーん。まあ、あいつはあのままだからな」
『そうですけどぉ、私もその子と、二言三言、喋ったことがあるんですよね』
「へぇー。それで?」
『彼、想ったことを、いい意味で口にするんですよね』
「ふーん」
『もしですよ。彼が告白したら、はーちゃんのことだから、押し切られると想いませんかぁ?』
「だとして、なんだよ」
『いいんですか? 三並くん。そうなっても』
「いいもなにも……」
「私は、正直、三並くんとはーちゃんが、お似合いだと想ってます」
「そりゃあ……ありがとう」
『三並くん、はーちゃんに、ちゃんと好きだって言わないんですか?』
「うーん。分からない……けど……」
『けど。なんですか?』
「もし、葉月が、そいつとそう言う関係になったら……」
『うん』
「今まで通りじゃいられない……少なくとも俺は」
『そう……ですよね』
「笑えるな」
『いえ、笑えませんよ。だったらなおさら、三並くんの気持ち。はーちゃんに聞かせてあげたらって、想っちゃいますね』
「そうか?」
『はい。上手くいけば、めでたしめでたしですし……ダメな時には、踏ん切る一歩になりますし』
「そういうもんか?」
『はい。私が一緒に過ごした、はーちゃんと三並くんは、憧れでしたから』
「ふーん」
『三並くんだけが、苦しむことはないです。2人の時間は2人にしか分からない、積み重ねてきたものがあるでしょ?』
「そうかもしれない」
『それこそ、三並くんの気持ちを正直に伝えていいと想いますよ』
「まあ、考えとく」
『外野の人間がごめんなさいです』
「いや、むしろありがたかったかも」
『三並くん、こういうの誰にも話しませんからね』
くすりと笑う東園。
その声で。
なんだろ。
気分が楽になった。
気がした。
「なあ、東園」
『なんですか?』
目をつむって。
息を飲む。
「……あいつのこと、頼むな」
『……はい。言われなくても、はーちゃんは親友ですから』
「そっか」
『はい』――
気づいたら。
四方から。
蝉の声が。
溢れている。
葦田八幡神社の境内に来ていた。
気温が。
心なしか涼しい、
葉月と2人。
毎年を
楽しんだ夏祭りの場所。
ダメだな。
この町の至るところ。
葉月との想い出ばかり。
いや。
それしかない。
マジか……
ため息をついて。
顔を上げる。
木々の合間の濃い青空。
一閃の白い筋を残しながら。
行く先の分からない飛行機が。
機体を煌めかせていた。
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