戯れの海
「あそこの岩場、行ってみたいな」
「じゃあ、そこまで泳ごう」
日置くんは。
アゴを引いて。
ニコッと笑う。
「よし、一緒に並んで行こう」
「うん」
私は。
爪先で。
底を蹴って。
腕を伸ばして。
水を掻き分ける。
パシャパシャ……
追いかけてきた。
日置くんが隣に並ぶ。
波に揺られながら。
ゆっくりと。
手足を動かす。
「葉月さん。上手だね」
「小さい頃から泳いでるもん」
「そっか、今日は、沢山想い出作ろ」
「うん」
ゆりかごのような波の中。
波間に見え隠れする。
微笑む日置くんを。
ちらちら見ながら。
ひとかき。
ひとかき。
胸に刻みながら泳いだ。
岩場には。
私の方が先に着いた。
段々状の岩の所に手をついて。
肘を伸ばし。
体を浮かせて。
「よいしょ」
片足を上げて上る。
「海って、泳ぎづらいね」
日置くんの声に振り向いて。
しゃがみこむ。
「初めてだから仕方ないよ」
私は日置くんに手を差しのべる。
日焼けした手が伸びてきて。
私の手を捕まえる。
ん?
ニヤリと笑う日置くん。
「わっ!」
手を引っ張られて。
バシャン!
海へと逆戻り。
ぶくぶくあぶくを吐きながら。
海面に顔を出す。
「日置くん! ずるい」
両手で顔の水を払って。
日置くんを睨む。
「ごめん、ごめん。びっくりした顔もかわいかった」
ビクッ。
落ち着いてたのに。
また。
体も。
心も。
騒ぎ出す。
「もう……」
日置くんを。
はたこうとした。
手首を掴まれて。
唇を食む。
じゃあ……
パシャパシャ……
片方の手の甲で。
日置くんの顔に向けて。
水をかけた。
捕まった手も。
解放されて。
両手で。
パシャパシャと。
水をかけまくる。
「うわっ! ちょっと」
「やめないもん」
「ごめんって」
「やだ、やめたげないんだ」
バシャン。
?
日置くんは。
海の中に潜る。
「わっ!」
足を引っ張られて。
水中に引きずり込まれた私。
ん!
日置くんの頭が足の間に入ってきて。
肩車のようになって。
日置くんの手が。
太ももに触れたら。
ゾクッとして。
そのまま浮き上がって。
海面に出たら。
「え?」
後ろに振り落とされた。
パシャン……
体勢を直して。
光が揺らぐ水面を目指す。
「ぱあっ」
首を振って。
首をかしげて。
手首を頭にとんとんして。
耳に入った水を出す。
「大丈夫?」
「もう……ずるいよ」
とろとろの水面をかけ分けて。
日置くんに近づく。
「お返し」
悪びれず。
微笑む日置くん。
その脇腹をつねる。
「いてて」
顔をしかめて。
身をよじる日置くん。
「フフフ」
両手で。
口を覆う。
「やられた」
「お返しだよ」
「参りました」
「ふふ。よし、許したげる」
腕を伸ばして。
日置くんの頭を撫でた。
目だけが。
上を見て。
固まる日置くん。
「フフフ、日置くんの顔、かわいかったよ」
「え?」
「そうだ。写真撮ろ!」
「あ、うん、いいね!」
「いっぱい撮ろ」
「そうしよ」
楽しくて。
楽しくて。
ドキドキしっぱなしで。
でも。
寂しくなるの。
だから……




