冷めやらぬのは
木陰のレジャーシートに。
腰を下ろした私に。
「これ使って」
日置くんは。
肩にバスタオルをかけてくれた。
「ありがとう」
膝下に手を入れて。
腿を抱えて丸くなる。
日置くんは。
少し前にあぐらをかいて座った。
ザザー。
囁くような波の音。
サラサラ。
枝葉が風に流れて。
日置くんの横顔に。
木漏れ日が揺れる。
胸がきゅって。
なって。
目を伏せて。
バスタオルの端を摘まんで。
引き寄せた。
人前で泣いたのは。
洋ちゃんとケンカした時以来。
どれくらい泣いたのか分からないけど。
日置くんは。
「泣いちゃった」
私がそう言うまで。
黙って。
抱きしめてくれていた。
「全然いいよ」
包容を解かれた時。
ホッとしたような。
名残り惜しいような。
でも。
どっちか分からなくて。
分かったのは。
私を包む海の水が。
優しくて。
冷たかった。
触れ合った肌の。
吸い付いたような感触。
温かかったぬくもり。
だけど。
怖くもあった。
それに。
日置くんの腕や手が触れた場所に。
どういうわけか。
今も。
感触が残ってるの。
そっと。
両肩を抱きしめる。
嫌な気分はなかった。
けど。
そう。
キス……
も。
したよね……
私。
無意識に。
指先が唇に触れていた。
別に。
憧れのキスとか。
そういうのは。
考えたことはなかったけど。
突然過ぎて。
ずっと。
体も顔も。
ぽーっとしてる。
そして。
「好き……」
「付き合って……」
言葉たちが。
頭の中で。
木霊し始める。
私は……
好きなの?
日置くんのこと?
勝手に視線は。
日置くんを捉えて。
でも。
心がざわざわする。
から。
また。
膝下に手を入れて。
腿をぎゅっと抱いて。
おでこを膝につけた。
すぐに答えなくてもいいって。
好きって言ったら。
日置くんと……
恋人。
彼氏彼女……
嫌いって言ったら。
どうなるのかな。
今のまんま。
友達でいれるってこと?
かな。
決められないよ。
分からない……
そうだ。
みーちゃんに。
相談してみようかな……
「葉月さん」
そっと。
顔を上げると。
ペットボトルが目に入った。
「水分摂ろう。これ少しすっぱいけど水分補給にいいんだ」
「……ありがと」
受け取った。
ペットボトルのラベルには。
スポーツドリンク。
ライチ入りと。
書いてあった。
「部活帰りに一本飲むんだ。意外と美味しくて、クセになるかも」
「……うん」
キャップを捻ると。
スルッと回った。
日置くんが。
開けといてくれたのかな。
ペットボトルに口をつける。
爽やかな口当たり。
その中に少しすっぱ甘いような。
フルーティーな匂いと味。
「わっ。美味しいかも」
「でしょ?」
「うん」
両手で持ち直して。
ごくごくと。
飲んでたら。
半分くらいに減っていた。
「葉月さん、いい飲みっぷり」
「えへ?」
「良かった、笑ってくれた」
「あっ……」
「葉月さんは、何も悪くないから、ただ、葉月さんの笑顔は……僕にとって、やる気スイッチでもあるんだ」
「えへ?」
「葉月さんの笑顔が見れるなら頑張れるし、いつも葉月さんが笑っていられるような、存在でいたい」
「私の笑顔が……?」
「うん。それに……」
「ん?」
日置くんは。
チラリと私を見て。
両手で持ったペットボトルを。
ゴク。
ゴク。
喉を鳴らして飲んで見せた。
「葉月さんの、この飲み方、めっちゃかわいかったよ」
「あっ……」
全身が熱くなって。
汗ばむ体に。
縮こまる私。
「葉月さん」
優しい声色に。
そーっと。
視線を上げると……
「ぶっ……ハハハ」
目の前で日置くんが。
私の変顔を真似してた。
「ちょっと、そんなにひどくないよ」
「え? そう? じゃあやってみて」
私は変顔をする。
「ハハハ、絶対変わんないよ、僕のと」
「そんなことある。私のは寄り目にしてるでしょ? 日置くんのは白目じゃん」
「でもでも、違いはあるよ」
「どんな?」
「葉月さんのは……かわいいんだ」
日置くんの瞳に。
真っ直ぐに見つめられて。
もう。
何もかも。
乱れてきて。
両手を胸に添えて。
睫毛を伏せた。
かわいいって。
言われる度に。
こうなるんだ。
「本当に、ずるいよ……日置くん……」
「そうだよ。僕はずるい。葉月さんが。ドキドキするって言う前から知ってたよ」
「ほら」
「じゃあ、もっとずるくなるよ」
「なにそれ?」
「僕と付き合って。葉月さんを好きにさせるから」
えっ!?
日置くんの指が。
私の顎を上げて。
顔が近付いてきて。
唇にぬくもりが。
ひりひりと。
全身に何かが。
駆け巡って。
震える手で。
日置くんの腕を掴んで。
そっと。
私は。
目を閉じた。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しています。




